第百八十話
年始早々、ハービック社とヴィックウェリントン社、他にも細々とした企業がアナハイムと買収されたと発表され、マスゴミと政界と財界を賑わせている。
わかっていたこととはいえ、アナハイムが本格的に勢力拡大を狙ってきたわけだが……俺達にとって厄介なのは厳密に言えば連邦とジオンの技術的融合だ。
ブルーパプワの強みであった連邦とジオン両方の技術の独占がアナハイムに奪われる。
これからは独自開発で生きていかなくてはならないということだ。
「今俺達がリードしているのはサイコミュと水中専用モビルスーツ、アプサラスぐらいか」
「サイコミュはジャミトフさんの協力があってこそですし、アプサラスはギニアスさんの才能任せですから実質水中専用ぐらいですね」
αタイプは次の戦争時には旧式化してるだろうし、現行の機体とほぼ五分だしな。
SFSは可変モビルスーツの登場で価値が低下中……可変モビルスーツの開発にはまだまだ時間がかかりそう。
「そもそも次の戦争はいつ起こるのやら」
「戦争はむしろ企業同士で起こりそうですよね」
本当にな。
来月には反アナハイム組織、マフティー・ナビーユ・エリン、通称マフティーが正式に設立するらしいし……連邦がアナハイムの台頭に危機感を抱いた結果なんだと。
アナハイムを大きくさせているのも連邦なら、それに対向する組織を作るのも連邦。
ティターンズとエゥーゴの件といい、連邦はまとまりがないな。
まぁ国なんて企業あってのものだから仕方ないんだが。
「さて、今回の議題はその件のマフティーに参加するか否か、だ。説明はマハラジャに任せる」
「ではお手元の資料を御覧ください。マフティー・ナビーユ・エリンなどという語感だけで作った酷い名前の組織に参加するメリットはアナハイムへの牽制はもちろんとして研究、開発の協力依頼、組織間の取引に掛かる関税の軽減、各企業にパイプができることなどです」
各企業へのパイプが1番のメリットか、アイナの努力が実っていくらかはマシになったが技術を探すにはある程度繋がりができてないと探しにくいのも事実。
それに今でも数社を除くと中堅以上の企業とは繋がりが薄いのが現状だ。
まぁ日本なんかは現代と同じく中堅以下の企業が意外と侮れない技術があったりするんだけどな。
余談だが中堅以下の企業の技術を買うのによくファ株式会社と衝突したことがあるそうだ。
さすが同じ転生者、目の付け所は一緒か……いや、よく考えたらファが日本人かどうかなんて確認してないな。
海外でも日本のアニメは広がってたんだから日本人じゃない可能性もあるのか、話した感じは日本人だったけど。
「そしてデメリットですが、1番問題なのは私達の手札が少ないことです。我が社が提供できるのは水中専用モビルスーツとサポートハロ、対人戦用ハロ、SFSのノウハウ程度です。続いて問題になるのは技術交流が他国で行われることがあるということです。皆さんご存知の通り、ブルーパプワの開発者や研究者は質はともかく数が足りません」
人員不足はどうしようもない。
フラナガン機関を飲み込んだことによっていくらかは底上げされたがそれでもまだ足りない……もしかして俺達が贅沢言い過ぎなのか?
フラナガン機関で抱えていた研究、開発者の人数はブルーパプワより数がかなり少なかったけど。
……まぁ国1つ支えている企業と1派閥の中の1企業でしかないから差はあって当然か。
そもそもフラナガン機関と違って軍需だけでなく、民需も支えないといかんし。
「キシリア部からも協力を得られるということですが」
「ああ、私達としても技術交流は嬉しい限りだ……ところでブートキャンプ参加者な——」
「それでも数が足りないのは変わりはありませんがなんとか体裁を整えることが可能でしょう」
話を断つようにマハラジャが話を進める。
キシリア部からブートキャンプに参加した人間がほぼ全てこちらに引き抜かれては思うところがあるに違いない……一応無理やり引き抜いたわけではないんだけど。
実際5人くらいはキシリア部に戻ってる。マリオンズの調きょ——調教を耐えられるなんてよほど忠誠心が高いんだろうね。
「次の問題が——」
省略。
メリットとデメリットをあげ終わった。
「ではご意見をどうぞ」
「アナハイムと表立って敵対するのは得策じゃない気もするねぇ。世界の情勢は一応の安定に入ったせいで次の戦争がいつ起こるか予測できない。今でこそ名残りで軍拡中とはいえ、3、4年経てば軍縮に流れる可能性もあるしさ」
なるほど、さすがシーマ様。慎重な意見だ。
「しかし民需とは違い軍需は戦争の予兆がわかってからでは間に合わないかと。ここで遅れを取ればアナハイムが狙って戦争を巻き起こす可能性があります。ブルーニーさんやナンバーズ、アプサラスがあるとは言っても油断してはいけないと思います」
平和のために軍需投資、抑止力が必要、か。アイナは成長したねぇ。
以前なら平和になったー、バンザーイ。さあ民需だ!とか言ってただろうに。
そして言ってることもわかる。
もしアプサラスの可動砲を大きく上回るビームライフルが開発されれば相殺できなくなる。つまりアプサラスはナンバーズを持ってしても大きな的と成り果てる。
「開発者として言わせてもらえれば、やはり軍需の手を抜くのはまだ時期尚早だと思う。……それにアプサラスの進化は止まらない!」
最後は小声で言ってたが俺とマリオンちゃんにはバッチリ聞こえてるからな。
「論点が少しズレてきている気がしますが、同じ開発者の僕としてはやはりマフティーに参加すべきだと思います。正式に結成されていない現段階で参加すればある程度発言力を持てると思います」
TPPでの米と日本を連想させる内容だな。
たまたま近くにいたアムロを参加させたんだが、なかなか考えて発言してるな。
もう少し昇進させてもいいかもな。開発部筆頭補佐とか。
「アナハイムのやり方は気に入りませんが、やはりシーマ様の言っている通り早々に敵対するのはどうかと」
コッセル……その言い方はシーマ様の尻を追っかけただけにしか聞こえないぞ。あ、シーマ様に蹴られたな。ざまぁ。
「私はマフティーに参加すべきだと思います。やはり独力だけでは限度がありますし、今後の展開を考えれば販路がマフティーと重なることが多くなると予想され、アナハイムとの板挟みになる可能性が高いかと」
マレーネも賛成……そして隣でマハラジャも頷いているからこちらも賛成か。
「それに……」
お、まだ続きがあるのか。
「私達ならマフティーを呑み込むことも可能でしょう?」
おっと、これで決まったか。アムロ以外のメンバーがニヤリと笑う、いや嘲笑う。
マレーネ、野心的だねぇ。良い子にして怖い子だ。最近の悩みは恋人ができないことらしいけど。
「決まったようなもんだが、一応採決をとる。マフティー参加に賛成の者は挙手」
バババッと手が挙がる。
満場一致、トラブルもなくていいもんだ。
こうして俺達はマフティー・ナビーユ・エリンなんていうひどい名前の組織に参加することになった。
「ということになった」
『それは私達にとってありがたいことです。アナハイムの買収の手が思った以上に広げられていたので困っていたところなんです』
「まぁ連絡したのはカミーユの覚悟を決めさせておけ、ってことを伝えるためなんだけどな。護衛のためにナンバーズを派遣することになるからな。会わないことはないだろう。ナンバーズはマリオンちゃんと同等の存在だから念の為に、な」
『……ご配慮ありがとうございます』
うん、覚悟が決まったようで何よりだ。