第百八十二話
【赴任して2ヶ月、毎日失敗ばかりだけど頑張っています。
宇宙に移住してきた人達はどこか窮屈そうにしていますが、それはひょっとすると宇宙空間での生活で知らず知らずのうちにストレスを抱えているのかもしれません。
それと予想していたよりガンダリウムγの大量受注があった時は軽く首を吊りたくなりましたがそれも皆の支えがあり、何とかなりました。
キシリア部の方々も腹黒い人が多いですが、さすがは問題児——んん、特異な才能の持ち主を集めただけのことはあって有能な方ばかりです。
そして何より忙しくしているのがオタクの祭典、コミケですね。
まさかこれほど人が集まるとは思いませんでした。
しかし準備期間中までコスプレする必要はあるでしょうか?さすがに動きにくいんですけど。
何より一緒に赴任した人達が全員ゲイとBL感染者しか——】
「報告は以上です」
マレーネがなぜか報告を中途半端なところで切る。
何より——
「最後が凄く気になる。なんでそんな人事に?作為的過ぎるだろ」
「なぜでしょうね」(アイナさんだけ幸せなのはズルいです。私なんてブルーパプワの幹部というだけで声もかけてもらえないのに……リア充爆発してください)
む、マレーネから不穏な気配が……もしかして?
下手に突っ込むと燃え広がりそうだからスルーしておこう。
最後の一文以外は定期報告と変わり無い、つまりそれだけ切実な訴えだったんだろうけどシローよりマレーネの方が重要なのだ。
シロー……成仏しろよ。きっと固有結界が張れるようになれるさ。あ、シロー違いか。
身体はアイナで出来ている?
……全国のリア充を僻んでいる人達から肉欲を抱いて溺死しろ!ってセリフが聞こえた気がした。
「そういえばコミケの日取りが決まったらしいな」
「日本における冬コミをサファイアで行うことで決まりました。やはり年3回以上は難しいですから」
おお、これは盛り上がりそうな予感。
俺も後でお気に入りのサークルチェックしとかないと。
そういや固有結界の元ネタの会社は同人出身だったな。
普通に商用より売れるゲーム作るとかパネェっすよ、型月さん。
……せっかくだしコミケにコスプレで参加するのもいいな!このままもいいがレインボーゴースト捨てがたい。
「そのためには仕事を頑張りましょう」
「ゴフッ……一生懸命目を逸らしてたのに……というか書類多くないか?」
「4月の決算間近ですからね。去年は戦争もありましたからいつもより多くなってます」
まぁ、金が儲かる=書類が増える、か。
「……ん?サウート(支援砲撃機シリーズのザウートもどき名前)とザメルII(元々キシリア派が開発してたから名前を引き継ぐことにした)の量産計画?」
なんで今更?元々も量産する予定じゃなかったっけ?
……ああ、なるほどロシアへの輸出用なのか。よほどモスクワへの砲撃がトラウマになったようだな。
解放作戦中に製造できればよかったんだがドップブースターやαタイプの製造で手一杯だったから余裕なかったし。
「スナイパータイプは結局試作機で終わったな」
「普通のモビルスーツにスナイパーライフルを装備させるだけで十分だとリリーナが証明しましたから」
アレはアレで給弾や砲身の冷却とか問題があるんだけど、新しいモビルスーツを用意するよりは効率がいいか。
新しいスナイパーライフル開発の追加予算か、okと。
特別地区にもオタク街道を?却下、サファイアに行ってなさい。
BL禁止令の解除——却下、外交による日本のBL規制緩和——却下、BL信者皆殺し計画…………………………却下。
てか、なんだこのBL攻めは!
明らかに感染者がいるだろ。後で調査だな。
やっと決算が終了。
あー、疲れた。
「ブルーニーさん、ブルーニーさん!気分転換に水上仕様で遊んでみませんか」
「……おお、あの水上スキーか」
パイロットの熟練度が上がってきたので既に時代遅れとなっている品物だが、遊ぶ分にはいいかもしれん。
「特別地区内にいるマリオンズも混ぜてやってみるか」
という訳で連絡をした——んだけど、なんだか用意されてるモビルスーツが多くないか?
「シーマさんに話したらあっちこっちに伝播しちゃいました」
「まぁいいけど……あまり無茶して壊すなよ」
『もちろんさ。いくら旧式とはいえ、何百億とする機体だからね』
……金銭感覚が狂い過ぎてないか?俺達。
常識的に考えて、ローンを組んでも帰るようなものじゃないよな。モビルスーツって。
決して遊びで使っていいもんじゃない。……でもそんなのかんけーねー!
「さて、早速装着……ん?」
この感覚は……やっぱり、ステータスに水上仕様(水上スキー)が加わってる。
また地味なのが増えた。
問題はこれが生成なのか、ただ装備ができるのか……そもそも装備できるだけなら表記がいらないから多分生成できるんだろうな。
それに水上スキーとわざわざ書かれてるってことは水上バイクやバナナボートとかもできるってことか?バイクはともかくバナナボートはあまり乗りたくないが……必要性も感じないが、何より格好悪い。
「また能力が増えましたね。微妙ですけど」
「やっぱ微妙だよな」
その点に異論はない。
出足を挫かれたが、とりあえずいざ征かん!大海原へ!……スキーの板を付けて歩く姿も格好悪いのは我慢する。
「おお、身体が浮いてるぞ!」
「まぁモビルスーツは最初から沈みませんけど」
「シッ!それは言っちゃ駄目なやつ!」
マリオンズは試験運転や動作確認などで何度もやってるから慣れたもの、シーマ様もさすがの腕前だ。
それ比べて——
「黒い三連星が揃ってズッコケてるし!そこまで揃わなくてもいいだろ」
「と言いつつ私達もひっくり返ってるんですけどね」
くっ、まさかこれほど難しいとは……というより他の奴らはコンピュータで補助されてるからいいが俺は感覚でやらないといけないから難しいんだよ!きっとそうだ!
「マジで立てねぇ」
かれこれ10分経過。
周りで見ている奴らも蒼い死神のまさかの弱点発覚か?!と騒ぎ始めている。
「仕方ありませんねぇ。私にお任せをば」
マリオンちゃんに操縦を任せる。
するとあっさり……立った、クララが立ったわ!……くそ、いじけてやる。
「私がしばらく操縦するので感覚を覚えてくださいね」
「イエスマム」
「ほら、拗ねないでください。せっかく遊んでるんですし、たまには私が教える側になってもいいじゃないですか」
いやいや、マリオンちゃんに教えてたのは最初の頃だけで、最近は俺の貫禄なんてほとんどないも同然だ。
ああ、鬱だ。死のう。ちょっくら富士の樹海に行ってきます。
「フジの樹海?水臭そうですね」
「日本のモビルスーツのフジの樹海ってわけじゃないからな!」
「モチロンワカッテマスヨ?」
絶対嘘だね。
じゃれ合ってるうちに知らない間にスキーができるようになってました。
これがマリオンちゃんマジックか。
弱点克服、無事完了。
それにしても潜ったり、普通に身体に付いているブースター吹かすのとはなんか違うな。
スキーに内蔵してあるブースターを吹かすんだけど、足元に集中してあるせいで感覚が難しい。
ホバー移動を修得する時も若干苦戦したが今回のこれは比にならない。
マリオンちゃんさまさまだ。
「サイド5でボートレースやるんだし、特別地区ではモビルスーツで競艇するかな」
「自然保護団体からクレームが来ますよ。今回のこともきっとクレームが来ると思いますけど」
「……謀ったな!謀ったなマリオンちゃん!」
「蒼い機体なのが悪いのだよ」
チョバム・アーマー化しろとでも?