第百八十四話
女性の不機嫌というのはこんな体になって論理も半分以上失った今の俺でも持て余すものだと改めて思う。
対象がマリオンちゃんなら割りと簡単だ。
膝の上に乗せてよしよししたり、一緒に新しい食材を開拓したり、ストレス解消に模擬戦したりすればある程度機嫌を直してもらえる。
しかし、問題は普通の女性で、しかも人妻なんだよな。
このヒントでわかると思うが不機嫌なのはアイナなんだ。
「不機嫌オーラというのは近くにいるだけで不愉快ですね」
優れたニュータイプである弊害、それは近くに苛ついていたり、怒ったり、悲しんだりしているとそれを無意識に感じてしまうことだ。親しい人間だと特に感じやすくなるとも言っていた。
それなのに嬉しいや楽しいという感情は自動のON-OFFができるんだからイマイチ基準がわからない。
ちなみにどれぐらい不愉快かというと暗がりでテレビを見てる時の小バエぐらいなんだそうだ。そりゃ不愉快だ。
「という訳でどうにしろ。アムロ」
「ええ、僕ですか?!」
「あれだ。夫の居ぬ間にちょっとした火遊びだ」
「ちょ!何言ってるんですか?!無理です!もし可能でもやりませんよ!」
「ブルーニーさん、さすがにそれはどうかと」
「もちろん冗談だけどな」
そんなことしたら今度はギスギス感で居心地悪くなるわ。
「それで解決策を考えろ。ちなみに不機嫌な理由は知ってるよな」
「えーっと、確か久しぶりにシローさんと会うためにアイナさんがサイド5に向かって、会うには会えたけど仕事で滞在3日間のうち3時間ぐらいしか会うことができなかったからですよね」
「その通りだ。正解したアムロには予算アップだ」
会議に参加しているほぼ全員からええ?!と驚きの声が上がる。
さすがにこんなバカらしい会議で予算が決まるとは思わなかっただろう?しかしマリオンちゃんの悩みを解決するにはそれぐらいはする。
さて、会議に参加しているメンバーの目つきどころか表情が変わる。金って怖いねぇ。
本来ならマハラジャやマレーネなどの事務方に文句を言われるのが正常な組織だが、ここは独裁なのでスルーだ。
それにマハラジャやマレーネも真剣な表情で検討を始めていて、異議はなさそうで何よりだ。
「では策を申せ」
一気に話し始めて何言ってるかわからないから挙手制に変更。
「最初から手を挙げていたはにゃーん様」
カーン一家は本当に律義者が多いよな。だからこそアクシズをまとめ上げることができたんだろうけど。
皆が口々に意見を言い始めた時、律儀に手を上げたはにゃーん様がビクッとしたところが可愛かったし今度ボーナスでも出すかな。
「アイナさんにまた2、3日休暇を与えればいいのでは?」
残念、そういうわけにはイカンのよ。
マフティーに参加してから人脈が増えたのは嬉しいがそれの管理調整という仕事も増えた上に重要度が増した。
そしてそれの対応をしているのがアイナとシーマ様の2人で、営業での彼女達の二つ名は飴のアイナに鞭のシーマ様などと呼ばれている。この2人はセットで3倍以上の活躍をしてくれる。
そんなわけで現在は本格的な忙しさでアイナのスケジュールを空けるなんて無理があるのだ。
「なんだったらはにゃーん様が手伝ってみるか?ニュータイプの能力を使えれば交渉はかなり有利になる」
「働きたくないでござる」
「何処の剣心だよ」
まぁアレはコラ画像だけどな。
……てか、もしかしてラビットを手に入れたから働かない気か?!もしそうなら今までブルーパプワで出していた維持費と燃料費は自分で出してもらうぞ。
遊びたくば自分で働け。ニートは認めん。
もしはにゃーん様が働くなら色をつける予定だったのに……残念だ。
「次は……リリーナ」
「シロー人形、作る、あげる」
めっちゃかわいい回答に会議室がほのぼの、やってみるだけやってみるけど結果関係なくお小遣いに色を付けてやろう。
「ギニアス」
「アプサラスのメガ粒子砲を放ってストレス解消——「却下だ。予算ダウン」——なぜだ!」
そんな物騒なことでストレス解消されたらこっちがストレスが溜まるわ!
と言うか妹の悩みなんだから少しはまじめに考えろよ。
「シーマ様」
「シローに休みを作らせればいいんじゃないかい。アイナよりは忙しくないだろ」
それは考えたんだけど問題はサイド5責任者になってからあまり間がないってことだ。
組織のトップが就任して早々休むのは問題があるだろ?
「そうだねぇ。これからのことを考えればこのぐらい我慢できないと辛いかもね」
そもそもべったりし過ぎるとアッと言う間に夫婦が破綻してしまうと思うんだが。
「ガイア」
「録音目覚ましにシローの声を——「却下だ。古い」——古い」orz
発想が古いんだよ。何時の時代だ。石器時代の勇者って呼ぶぞ。
まぁむしろ黒歴史の勇者みたいな気がするが……それとシローは厨二の勇者だけどな。
他にもモブキャラからも色々出てきたがしっくり来るものがない。
「マレーネ」
「サイド5に私が赴き、シローさんと交代しましょう」(こんなことになるならもう少しまともな補佐をつければよかったですね)
ふむ、責任者がコロコロ変わるのもどうかと思うが実務上は問題ない。
しかしそれじゃ——
「俺達の仕事が増えるじゃないか!」
「そこは我慢していただくしかありません」
いやいや、マレーネが抜けると大変だから無しだな、無し。
……おい、なんで皆、それでいいんじゃね?みたいな顔してんだよ。
このままでは俺達の仕事が増えてしまう。
「他に代案はないか!」
目を逸らすな。もっと考えろよ。もっと熱くなれよ!!
「代案もありませんし、よろしいですね」
最後の救い、マリオンちゃん!
\(^o^)/オワタ
……諦めるしかないのか……無念。
そう決まったので早々にシローとマレーネを交代が行われた。
そして地球へ帰還中、シローの乗ったシャトルがテロに巻き込まれ、死亡。
アイナは何者かに拉致された。
それから何ヶ月後かに黒百合と呼ばれるモビルスーツを操り、アナハイムを襲う脳まで改造されたシローの姿があった。
「一体何処の劇場版撫子ですか」
くそう、妄想も許されないのか。
久々に仕事に埋もれることになるとはな。
決算はマハラジャとマレーネなどがまとめてくれたものを読んで可否を決めるだけだから簡単なのだが今回されてくる仕事はマレーネがまとめるはずだったものなので面倒なんだよ。
イリュージョンデータ(計算を自動的にして数字が浮かび上がる能力のこと)で会計は楽なんだけどなぁ。
「それにしてもアイナ、浮かれすぎだろ」
「アレはアレで咽(むせ)るぐらい甘くて辛いですけど、視界に入らなければ問題ありません」
「仕事の効率も想像以上だしな。俺達の仕事の量もそれに合わせて増えるけど」
こんなことなら責任者はコッセルあたりにすればよかった。
さすがにシーマ様があんな醜態を見せることはない……はず、だよな?恋愛ってわからないからな。
「そういえばジャミトフさんからムーバブルフレームのデータを頂きましたよ。早速可変モビルスーツの開発とサイコタイプへの導入を検討します」
「おう……さすがにサイコタイプを可変にはできないだろうけど軽量化されれば結果的に運動性能が上がる。ニュータイプは回避命だからな」
「Iフィールド搭載も可能かもしれませんね」
なんだかんだ言ってIフィールドはジオンしか使われてない。
もっとも回避するからいるかどうかは疑問だけど……ああ、でもシールドにIフィールドを張るのはいいかも。
確か原作でもそんなものがあったはずだしな。