第百八十八話
<クリスチーナ・マッケンジー>
「ハァ、ハァ、ハァ……つ、疲れた」
さすがに50対900はキツイ……でも負けなかった。
私は強くなってる。
これならいつかナンバーズにも勝て………………ないわね。
いくら強くなってもそれ以上の早さでナンバーズが強くなってるはず。
皆も強くなってる。
さすが死神の衣の精鋭にしてブートキャンプ5回以上経験した仲間達。
模擬戦でなかったなら悲しむべきことだけど、これは模擬戦、9割が撃破されようが最後まで生き残った方が勝ち。
1番勝因は敵が多くて補給(鹵獲)に困らなかったこと、そしてなぜか途中から相手の統率が取れなくなったこと。
それに連携がなくても質が高かったけど、なんというか……守りの薄さ、勝つという気迫が感じられなかった。
アレではまるで機械と戦っているように感じるのはなぜ……そもそもこんな質の高い(熟練度が高いとは言ってない)兵士を一体何処から集めたのかしら?
2桁程度ならまだしも4桁に届こうとする規模なんて噂ぐらいはありそうなのに。
『諸君ご苦労だった。ブルーニー代表から話があるそうだから傾聴せよ』
珍しい、代表がこういう時に声を掛けることは今までない。
大体はシーマ様かナンバーズのどちらか、訓練なんかだとコッセルさんやガイアさん達がほとんどなのに。
そんなことを考えていると代表がモニターに映る。
ここで不真面目に聞くようなことはしない。後でナンバーズが現れてどんな目に合わされるか……考えるだけで吐き気がする。
おそらくここにいる皆は心得ているはずだから連帯責任もないはず。
『まずはご苦労。俺の予想では赤組(クローン兵のチーム)が勝利すると予想していたがそれを覆した皆には退職するまで、全てのボーナスを10%アップとする。撃墜ボーナスや鹵獲ボーナスなどももちろん含む』
正直に言えば微妙。
既に死神の衣の上位に連なる者は金や名誉なんてもので動いていないはず、じゃないと2回目以降のブートキャンプに耐え切れないのだから。
それに報酬も既に使い切れないほどもらってる。人口増加と自然保護の関係で値段が高騰してしまった1戸建て、しかも10LDKプール付きに庭(という大自然)500坪、自家用車5台運転手付き、当然使用人もいる。
こんな生活を強要(法律で一定以上収入を得ている者は何割かを投資か消費することを義務付けられている)されてもまだ余ってるのに、これ以上増やされてもあまり有り難みがない。
何より投資(ブルーパプワに)して資産は増え続けているのも更に後押ししている。
ならなんで戦場に出て働くのかって?ナンバーズとそれを総括する代表と副代表への敬意と畏怖と期待でしょうか。
どこまでこの国と企業が大きくなり、代表と副代表、ナンバーズがどこまで強くなるのか。
半ば洗脳されているんじゃないかと自分でも思うけど、それに抵抗する気が起きない。
『検討した君達にサプライズを用意した』
そう言った瞬間に外が暗く……いや、これは大きな影かな。
空を見上げればそこには——
『俺達の新しい装備のテストに協力させてやろう』
蒼いアプサラス?センサーに何も反応がない状態から突然?!
しかもヘッド部分が——ブルーディスティニーになってる?!つまりこれは新たな蒼い死神なのね。
『さあ、システムはリセットしたから動けるはずだ5分待つから準備を始めるように。それと赤組は軍機もあって指揮権は統合できないので指揮官はしっかり打ち合わせするように』
休憩なしですか、まぁいつも通りと言えばいつも通りですけど……赤組は大丈夫なのかな。才能は感じるけど成熟したとは言い辛い練度だったけど……心配しても仕方ないので赤組の指揮官と打ち合わせしないと。
「フハハハハッ、モビルスーツがゴミのようだ!」
飛んでくるレーザー(擬似ビーム)がIフィールドに当たる判定が出て消費燃料を割り出しているがノイエ・ジールのIフィールドになって計測した結果、ブルーパプワのビームライフル1発に燃料消費500%程度と随分控えめになった。
今も次々当たっているがまだ万までは到達していない。
「いやー、これって俺達の時代が来たんじゃね?」
「随分前から私達の時代のような気がしてましたけどね」
「それはちょっと調子に乗りすぎだぞ、マリオンちゃん」
マリオンちゃんの無双っぷりを見ていたら気持ちは分からないではないが。
「メガ粒子砲の雨を喰らうがいい!」
大型メガ粒子砲をあえて収束させずに拡散させて発射する。
凄い応用が効くな。肩のメガ粒子砲ではこうはイカン。
ただし、本物の『拡散メガ粒子砲』と比べると減衰率が半端無いからドムの拡散ビーム砲みたいにめっちゃ眩しいだけなんだけどな。
ただし至近距離だときっちりダメージが入るぞ。
初お披露目な上に経験もないクローン兵は結構ダメージを受けていて動きが硬直している。そこに可動砲で狙い撃ちしていく。
それだけで200機近くが撃墜判定と出た。
やっぱりスター○ォーズやスパロボのWシリーズみたいに経験までは移植できていないため、練度は低いな。
そもそもクローン兵は自分が何者なのか、自分が何をしているのかなんて理解せず、教えられた通りに動いているだけだから少しマニュアルから外れた動作を相手がすれば対処が遅れるというのは報告にあった通りのようだ。
このあたりは教育していくしかない。飲み込みは良くもなく悪くもなくという感じだから教えればそれなりに反映されて見てる分には面白いけど。
面白いといえばクローン兵の容姿や性格だけど、俺はてっきり同じ容姿のものが量産されると思っていたが成長過程で容姿は結構変化があるらしい。
培養槽で作ってるのになんで変化が起こるのかは不明で、プルシリーズはどうやって生まれたのか謎になった。
そして性格だが、どうも好き嫌い、得手不得手に違いがあるとこから察するに一卵性双生児と一緒で似ているだけでしかないわけだ。
将来的には自我が芽生えるだろうけど……その時どうするかは悩むところだ。やはりマリオンちゃんズの刷り込み(という名のトラウマ)すべきか?
「死神の衣はわかってたけどいい動きをする」
「私が育てました(キリッ」
「そうだね。よしよし」
頭を撫でて褒めてみる。
なんて甘々な空気を発しながらも地上は地獄絵図。
必死になって回避している様はなかなか面白いが——
「逃げているだけでは駄目なのだよ」
大型メガ粒子砲、今度は収束版を発射。
回避?なにそれ?的な範囲攻撃で123機が撃墜判定。追い込んだかいがあったな。
撃墜された中には死神の衣が5機いたがクリちゃんはもちろんいない。
ちなみにこの収束大型メガ粒子砲は燃料5000%消費とあまり優しくない燃費である。
(((((こっちから攻撃できず、回避不可攻撃とか無理ゲー過ぎるだろ!!!!!)))))
って気配を俺でも感じる。
あ、ちなみに今、マリオンちゃんと共有せずに俺だけで操縦している。
EXAMシステムも俺のではなく、無印を使ってデータの蓄積中だ。
「つまり手加減してコレだからなぁ。本気出したらどうなるやら」
「私達特有の運動性と機動性は死んでますけど、それでもお釣りが来ますね」
「全くだ……お、打開のために飛んできたな。間合いさえ詰めればIフィールドは無効化されるから正しいように感じる選択肢だな」
「ですが甘いですね。クリスちゃん」
そう、飛んできているのはクリちゃんとおそらく精鋭中の精鋭だろう随伴5機。
多分だけどこれで終わらせれなかったら時間の問題と割りきって指揮官でありながら特攻を仕掛けてきたんだろう。
「さあ、いらっしゃい」