第百八十九話
「さあ、パーティーの始まりだ」
クリちゃん達の出迎えに可動砲を60門で出迎える。
ファイヤー!……って躱してやがる。各々10しかタゲってないとはいえ、よく躱せるもんだ。
「なら趣旨を変えてこういうのはどうだ」
各機に5門に減らし、その代わりに一斉に撃っていたのを回避行動を予測して撃ち続けるスタイルに変更。
「なかなかやるな。まぁ末席とはいえ死神を名乗るならこれぐらいはしてもらわなくちゃ困るが」
「なるほど、こういう狩り方もあるんですね」
マリオンちゃんズはニュータイプレベルが高くてアプサラスの操縦に関しては既に俺を上回っている。
そのせいで、というべきか戦い方が正攻法な事が多い。
見敵一撃必殺を素で行うマリオンちゃんズにはこういう応用的な戦い方はしない。
追い込む?牽制?そんなもの順次撃破すれば問題ないでしょう、ということだ。
実際それでどうにかなっちゃうあたりさすがですマリオンちゃんズ先生。
「お、Gに耐えられなくなって気絶したかな?」
回避行動と言ったが生半可な旋回や速度の落差で避けられるような射撃はしていない。
それを避けようとしてしまえばパイロット自身に掛かるGは対G処理が追いつくものではなくなり、気絶してしまうのは道理である。
「それでも3機だけか」
「今度からこれもブートキャンプに取り入れます」
最近ブートキャンプはマリオンちゃんズの趣味となりつつあるような……ちょっと嫉妬。
「さて、このまま終わらすのは面白くないし、ちょっと舐めプっぽいけど」
攻撃を0.15秒ほど遅らせる。瞬間に間合いを詰め始めるクリちゃん達……既に人間半分やめてるんじゃね?と思える反応速度だ。
弾幕を潜り抜け、Iフィールド内に入ろうとしている。
その時、陸上でライフルでの射撃と回避に努めていた他の部隊が一気に俺達に向かって飛び始めた。
「おお、これだけの量はともかく、質の高い包囲網はなかなか経験できないな……もっとも予想の範疇だけど」
ほとんどの可動砲をその他大勢に回す。
他から見ると対処が間に合わず苦し紛れにクリちゃん達への攻撃を最低限にしたように見えるだろう。
クリちゃん達もそう思ったのか、ブースターをフルスロットルでこちらに向かってきている。距離はもうない。
ライフルや可動砲で撃たれるがアプサラスアーマーのビームコーティングはその程度のビームでは3層ある内の1層程度を溶かす程度でしかない。
同じ場所を狙い続ければそのうち貫通するだろうが回避しながらというのはさすがに無理があるだろうことはクリちゃんもわかってるから間合いを詰
めてきてるんだろう。
アプサラスシリーズは共通して張り付かれるとそれを引き剥がすための有効手段は少ない。
張り付かれても可動砲で攻撃することもできるが、そもそも可動砲でどうにかできるなら張り付かれることもないからな。
「そろそろ間合いですよ」
「ああ……喰らうがいい」
ガコンッという音と共に現れるのは俺達の第2の腕、アプサラスクロー。
さすがに予想外だったのか一瞬硬直した隙にクリちゃんではない2機をクローで挟むと撃墜判定。
正気を取り戻したクリちゃんは慌てて突っ込んでくる。それ以外の選択肢などここにはないと言わんばかりに。
「だが、甘い。甘いぞ!」
このアプサラスアーマー。
そうアーマーなのだ。
「脱がないとは誰も言ってない」
アプサラスアーマーから離脱。
「さあ、クリちゃん。終焉の時だ」
アプサラスアーマーが他の部隊を撃破しているのを背景に、今、俺達とクリちゃんの決闘(絶望)が始まった。
「勝ったのに納得いかねぇー」
あそこから負けるなんてありえない。
つまり一応俺達が勝った。
勝ったんだが釈然としない。
その理由が——
「仕方ありませんよ。EXAMシステムに機微を判れというのは無理な話です」
クリちゃんと戦っている最中にクリちゃんに10ものビームが降り注ぎ、撃墜された。
犯人はアプサラスアーマー(EXAMシステム)である。
せっかく俺達は盛り上がってきたのにEXAMシステムは問答無用でクリちゃんを撃墜した。
さすがにないわー。
見てた皆が興ざめしてたじゃん。
1番興ざめしたのは俺だけどな。
せめて大型メガ粒子砲なら良かったのに……もっともそれだと俺達も巻き込まれてるだろうけど。
その後の戦いはもう蹂躙だな。
アプサラスの弱点であったはずのビーム兵器への耐性も俺達がカバー(ジェネレータや燃料の容量的な意味で)した結果、マリオンちゃんズのような
ビームでビームを無効化するような無茶をせずとも超兵器と呼べる品物になったわけだ。
俺達以外がこれを実現することは今の技術では不可能だろう。
「うん、とりあえず別の無双ゲーが始まったってのは分かった」
これが南蛮の極意(ハイパー化)の効果というのか……今ならオーラロードが開けるかもしれん。
……ん?そういや俺ってサイズ変更できるんだけど、アプサラスアーマーを着た状態だとどうなるんだろ?
すっかり忘れてた。いつもはSDと普通サイズになることあっても大きくなることはあまり…というか全然機会がない。最初にどこまで大きくなれるの
かをテストした時以来やってない。
後で試してみよう。
「クローン兵に関してはまだまだ未熟なのはわかった。と言うか3ヶ月でアレなら上出来か」
「ですね。おそらく25000ほど用意すれば死神の衣は文字通りの意味で全滅する計算ですし、これから質を高めればもっと少なくなるでしょうし」
逆に言えば連邦だろうがジオンだろうが新兵器でもない限り死神の衣は25000までは倒せるってことだ。
つまり俺達やマリオンズが加わればインフィニティ〜って感じだな。あ、元々か。
「更に追加生産で1000体用意するように言っとくか」
「後、この前の模擬戦でフラナガンさんがショックを受けてたので追加融資もしておいてはどうでしょうか。私達的には期待以上の戦果なんですけどさ
すがに50対900で敗れたのはキツかったでしょうし」
あー、こちらが十分な成果だと言っても疑心暗鬼になっちゃうぐらいには衝撃的な映像だったよな。
しかも俺達の予想を覆しての敗北……いくら満足していると言っても納得出来ないと俺でも思うわ。
そういう意味では金というのはありがたいものだ。嫌な話だが金というものは気持ちを伝える上ではそれなりに効果を発揮する。
問題は……
「追加融資となるとさすがに隠し通せる金額じゃなくなるな。アイナに黙って進めている計画だから説得するのに苦労しそうだ」
「シローさんもですねー。あの夫婦は潔癖なところがありますから」
シーマも渋い顔をするだろうが戦場に立つ者として理解を示すだろう。
他も幹部も同様だろう。
しかしアイナ、シロー夫婦は……うん、原作でも軍人として問題がある行動をしてたからな。
アイナはひょっとすると成長(いい方向かどうかは別として)してるからひょっとすると説得できるかもだけどシローが折れないとアイナも折れるこ
とができないだろう。
「とりあえずマハラジャとマレーネに相談かな」
「あの2人なら資金調達ぐらいはしてくれるかもしれません。ですがそれじゃ先延ばししてるだけなんですよね」
強化人間が良くてクローン兵が駄目、イマイチ俺には分からない道理だけどな。
やはり生命としての枠を編み出した存在になったからだろうか?前世でもこんな感じだったと思うけど。
「そのあたりどう思うアイナさん」
「……そんな酷いことをしていたんですか」
面倒事をこれ以上先延ばししても意味ないと思って当たってみた。砕けたらどうしよう。
「クローン兵、家族が生死を心配するようなことがなく、将来的には欠けた四肢の復活すらも可能になるかもしれない。それでも反対するか」
「医療行為はともかく生命の複製なんて……」
「複製なんてして思わなければいい。一卵性双生児を生み出しているに過ぎない」
正確には体外培養なんだけど耳障りが悪いから言わないでおく。
「しかし」
「クローン兵に身内はいない。つまり孤児と同じ扱いにするが兵役を義務付ける。ただそれだけだ」
「それが問題なんです!」
ですよねー。
「命の価値は平等とか言うけど、平等なら誰がどう死のうが生まれようがやっぱり平等だろ」
つまり運がいいか悪いか、それでしかない。
「それに、アイナの中では平等じゃないだろ?なら優先させるものを優先しとけ。脅すわけじゃないが無くすのはアッと言う間だぞ」
俺とマリオンちゃんは一心同体で良かったと心から思う。