第十九話
「1つわかったことがある。それは連邦の優れた点はモビルスーツの開発速度ではなく、それをパイロットに苦もなく操作させるOSが優れているのだ」
「そういえば連邦がモビルスーツの運用を始めてまだ間もないなのにモビルスーツを身体とする私達とそこそこ戦えるというのは凄いことですね。元々飛行機乗りや戦車乗りがほとんどでしょうに」
学習型コンピュータの恩恵は凄いの一言だ。
だがしかし弱点もある。
「やはりというか接近戦はお粗末が過ぎる」
今まで陸戦型は学習型コンピュータの恩恵がなかったが優秀なパイロットに優先されたようで接近戦での反応も優れていた。
それに比べジム改に乗るパイロット達は接近戦への切り替えが遅く、無駄にビームライフルを乱射するだけで相手が一般兵ならともかく少し名が知れているパイロットなら余裕を持って対処できる程度のレベルにまで落ちる。
そしてもう1つ。
「連携が拙い、つまりOSでカバーできるのは回避行動と射撃管制というのが確定したな。もっともその弱点も時間が経てば経つほど無くなっていくだろうけど」
「今はこんな感じですね」
ジム改の残骸が20ほど転がるここは地獄のようだ。
ジム・クゥエルはジオンの土産にするためにできるだけ損傷少なくする方針なので適当にあしらって3機とも健在、だからと言ってあまり余裕を見せると劣勢と受け取って逃げられるかもしれないので苦戦しているように演技中。
問題はジム・クゥエルを『普通に動く状態で』確保したいことだ。
あまりにも技術差ができたのでコクピット周りのデータも欲しいのだがいつも俺達がやっているパイロットビーム焼きではそれも叶わない、つまり降伏してもらうしかないのだが自爆なんてされた日にはオレ涙目。
自爆するのはボスボロットだけでいい。
ウイングガンダムとかエヴァ零号機とか修理費高いっての。
ちなみに小隊制が導入されてからやってない。
以前やったシャッフル同盟ならパイロットだけ無力化できるだろうけどアレはアレで隙が大きいんだよな。
こんな多勢に無勢状態でやることじゃない。
何より捕獲しようとしているのがバレたらひょっとすると味方ごと撃ちぬいてくる可能性も否めない、核爆弾使うぐらいだからな。
「とりあえずさり気なく蹴ったり殴ったりしてパイロットの気絶を狙ってみるか」
「本当なら殴ったり蹴ったりする方もモビルスーツの負担もあるのであまりしませんけど私達なら問題なしです」
何より俺達はガンダニュウム合金、あいつらはチタンセラミック複合材だから俺達の方が硬い!…はず…あれ?でも手とか指までガンダニュウム合金なのか?…深く考えずにやってみるだけやってみよー。
「仙気発勁!なんつって」
龍狼伝好きだったけど赤壁当たりが俺の中でピークだったな。
ちなみにただの腰が入った掌打だけどそれでも威力は十分あったらしくコクピットがひしゃげてるけど大丈夫かね?
「なぜか動揺してますね。今まで戦えてたのに急に最新型のジムがやられたからでしょうか」
「そりゃ、本来は0083頃に開発されるジム・クゥエルが特殊機とはいえ旧式のモビルスーツに殴り倒されりゃ動揺もするだろ」
「へーそうなんですか、それにしてもカラーリングが私達と似てますね」
「確かに、パッと見はBD1号機に見えるな」
残り2機になったジム・クゥエルも軽く〆てダウンさせる。
他のジム改は容赦なくコクピット焼き。
今回は文字通り全滅に成功した。ただしジムスナイパーを除く。
ただ若干部品痛になったけど少し待てば治るだろう。
「どうやらジムスナイパーは連射性とエネルギー面の問題があるみたいだな」
「確かに連射は2発まで、合計10発ほど撃っては随分と間を置くかそれ以降攻撃してきませんからその考えは正しいと思います」
おかげで長々と狙撃に苦しめられるなんていう事態にならなくて助かっている。
「さて、ジム・クゥエルを早速食べてみよう」
「最新型ですからね。どんな味がするんでしょう」
1機しか食べれないけどジム改が一杯あるから我慢我慢…タルタルソースの山かー…リアルだったら吐き気がしそうだ。
マリオンちゃんには黙っておこう。
「んー…スポーツドリンクみたいですね」
「ああ、これはアクエリア…いや、ちょっと待てよ。スポーツドリンクで青いモビルスーツ…もしやP○WERADEか?!」
まぁどっちでも味はそんなに大きく変わらない…はず、P○WERADEは日本で売ってないから知らないんだよ。
なんにしても部品痛には効きそうだ。
『うぅ…胸焼けしそうです』
「それは大変だ。しょうがないなーやけどの塗り薬を塗ってあげよう」
『きゃーブルーニーさんのエッチー…というより火傷の薬じゃ胸焼けは治りませんよ』
なんてアホな会話をしているのは暇潰し。
ジム・クゥエル2機とジム改2機を何とかミデアに積み込んでジオン基地へ帰還する。
ただし俺は歩きだけどな!!
ミデアの積載量的に3機、無理して4機載せたら俺が乗れなくなったってオチ。
泣く泣く歩くことになったわけさ、そりゃハッチも閉まらないんだから俺が乗れる…いやこの場合載れるか?…わけないよな。
ちなみにミデアの輸送能力が便利だから予備も実は隠してあるんだがそっちにもジム改4機を載せてあるから後で回収しないと…連邦に盗まれませんように…って元々連邦のか。
これでコクピット部分さえ何とかすればジム・クゥエル2機…は研究に回されるか、じゃあジム改6機は戦力になるかな。
もっとも整備がどの程度できるかどうかは不明だけど。
ビームライフルは調整すればジオンのモビルスーツでも使えるかもしれないから全部隠してあるんだがこれも後で回収しないと…いったい何往復することになるやら。
そういえば司令から渡されたデータではビームライフルはエネルギーパック、所謂マガジン式じゃなくて基地や母艦でエネルギー補給しないと撃てない充電式なんだってさ。
ビームライフルの技術は0083に追いついてないようだ。
ただどうもビームスプレーガンを見かけないあたり、威力の妥協はしないようだ。
「6日ぶりの帰還か、予定通りなら増援も到着してるはずだよな」
「はい、これでジオン基地も楽になるはずです」
そうか?連邦の恐ろしいまでの工業力からしてまだ安全ではないような気がするけど。
それこそ航空機を作ってる勢いでモビルスーツを作ってるように感じる。
基地の着くと司令や結構多くの兵士が出迎えてくれた。
…もしかしてマリオンちゃん狙いじゃないだろうな。
もしそうならバルカンで挽き肉にしてやんよ。
「本当に助かりました。昨日着くはずの増援もつい先ほど到着したばかりでして…」
「この季節なら気候ではないでしょうし…シーレーンは安定してるはずですが?」
「それが各戦地で連邦のモビルスーツの性能を目の当たりにした上が急遽改修、改造、設計見直しなどが行われた為輸送に時間がかかったようです。ただモビルスーツが予定より高性能なものになっています」
マリオンちゃんを通じて変更があったモビルスーツを確認する。
ザクJ型→ザク改、ザクキャノン→ドムキャノン、ドム→ゲルググ、に変更となったそうな。
サラッとゲルググが出てきたぞ、おい。
どうやらジム改を分解してジオンの優れた技術(&生産性の妥協)を導入した機体となったらしい。
ビームライフルも装備可能ではあるが地上戦では実弾の方が武器としての信頼性が高いのでMMP80マシンガンが標準装備でビームライフルはお好みでどうぞって感じらしい。
結構アバウトだなジオン。
宇宙もゲルググ配備が始まっていてそちらはビームライフルがメイン武装となっている…ってそりゃそうだ。実弾兵器からビーム兵器に変わった理由は実弾は初速でずっと前進するからヘタしたらコロニーに当たるって話で、つまりジオンこそ一番気を付けなくちゃいけないのだ。
ま、何より驚いたのはどうもゲルググの装甲はチタンセラミック複合材でできていてジム系と同じ防御力なんだって、正面だけ。
経済的な理由で側面や背面の装甲は今まで通り超硬スチール合金、ジム改より重いけど出力も推力もゲルググが上回ってるって話だ。
「連邦の兵器開発競争に付き合わされてるな。ジオン…てかよく考えると統合整備計画か、これ」
もしかしてゲルググはゲルググでもイェーガーですか?
Jですか?
Jってことはまたおにぎりですか?
くそ、ジオンに協力してるせいで喰えね!!
こっそり摘み食い…したら怒られるだろうなー。
こうなったらわざと連邦に殺らせて——
「ブルーニーさん、なんか悪いこと考えてますね」
「ギクッ」
何にしても増援が思ったより期待できそうだ。
「な、なんのことかな。それよりお帰りマリオンちゃん」
「ただいま戻りました。いっぱいお金もらえましたよ。こんなにもらっちゃっていいんでしょうかね」
実は今回から報酬を現金でもらうようにした。
俺達がモビルスーツだけの存在だったら必要なかっただろうけどマリオンちゃんが実体化できるようになったことによってお金にも価値が見出だせるようになった。
と言うのは表向きな理由で司令が俺達の働きがあまりに凄すぎて契約があまりに不公平で自分達に牙剥かれたらどうしようってことになって追加で報酬を出そうって話でまとまったんだとか。
「ちなみにいくらぐらいもらえた?あ、金額言われても物価知らないから何が買えるかとかアバウトな感じでよろしく」
「そうですねー…お家が買えますよ。借地代抜きですけど」
「大金じゃね?!」
それから話しして分かったんだけどマリオンちゃんが言ってるのはコロニーの家で、今まで考えてなかったけどコロニーでは土地の権利って買えないそうだ。あー確かにアパートと似た概念があるよな。
アパートの個室売りがない理由は修繕とか立て直しとかの時に権利の問題で面倒だからなんだけど…マンションはそれでも売るから改築とか修繕とかの時面倒だって話はよく聞いた。
その土地が買えない代わりに建物の値段が据え置きで相続税も安いんだとか…それでも結構な金額なんだけどな。
現代で換算すると大体1000万ぐらいかな?これだけ聞くとアレだけど家はオール家電だけど、みたいな。
「でもこれなら私達が手に入れたモビルスーツを連邦に売り直した方が儲けそうですけどね」
「サラッとジオンを裏切りを?!」