第百九十一話
<ギレン・ザビ>
全く、奴らは一体どこで情報を掴んでいるのだ。
ティターンズか?しかしいくら特別地区……ブルーパプワと親密関係であるとはいえ、身内の失敗まで漏らすものだろうか。
そこまでの親密にする理由は……心当たりしかないな。
蒼い死神、死神の鎌、死神の衣、最初の頃は傭兵如きが、と憤慨したものだが当時のインドネシア司令はこのままだとおそらくジオン史に残る英雄になる。死神と縁を結んだという最大の功績を持って。
本来は戦犯なのだが、相手が相手であるし……何より地球領にいる現状奴らの保護下と言えるからどうにもならぬ。
「む、早速届いたか」
元々圧倒的な強さを誇る蒼い死神の新兵器だ。
世界を滅ぼす、とまではいかんだろうがろくでもない兵器なのは間違いないだろう。
それに死神の衣と特別地区の正規兵の演習ということは死神の衣の強さを更にアピールする気か。
もうロシア解放作戦で武名高々だろうに必要があるのかは疑問だがな。
確か死神の衣は依頼キャンセル依頼が不可だったはず。そのうち何処かで戦乱が起これば活躍するのだからわざわざ宣伝なんぞせんでもいいだろう。
……つまり見せたいのはニューギニア特別地区の正規兵の強さということか?
死神の衣の強さは死神様や鎌には及ばないにしても明らかに異常な強さ、それは全員が全員キシリアの玩具であったニュータイプ部隊を彷彿とさせる。それが300人以上確認されているというのだから恐ろしい。
「キシリア様のニュータイプ部隊は数が揃えれなかったため脅威ではありませんでしたから」
「その通りだ。しかし死神の衣は数が用意できるのだからとても玩具などと言えんな」
1人が20人分と換算して300人で6000人分の働きをする兵……悪夢だ。
「さて、魅せてもらおうか。特別地区の戦力とやらを」
分析に長けているセシリアと共に見る。
一時期はBLにハマって別の愛人を探そうかとも思ったがなんとか正気を取り戻したので今のところ様子見である。
セシリアの才は捨てがたいが、さすがにデラーズと話している時に向けられるの視線は耐えられたものではない。
「む、これが噂のサイコガンダムか」
「特別地区での呼称はサイコタイプと呼ばれ、サイコミュを搭載してアプサラスIVが装備する可動砲を6門、そして低出力ながらミノフスキークラフトを搭載する現在のブルーパプワの主力機です」
「それに相対するのは……αタイプとか言われる機体だな」
「はい、デザインが輸出先で変更されるためαタイプと呼称されています。αというのは我軍のガルバルディαから取ったものだとか」
「つまり元々はガルバルディαだったわけか」
原型なんぞ欠片もないな。
それにしてもランドセルが妙に大きい、新武装か?
なんだこれは。
「なんだこれは」
「αタイプのような新兵器……というわけではないのでしょうね」
新兵器なら安心できるのだがな。
ランドセル部分が不明ではあるが送られてきたαタイプのスペックは他の私達が購入しているジェニス、ティターンズのドートレス、サイド6のリーオーと同じものだ。
「にも関わらずあの死神の衣に900機で大打撃を与えているなどと……信じられん。それに正規軍のあの練度を50機で勝利したのはさすがだが」
「演習に手抜きがあったようには見えませんでした。そうなると特別地区の正規兵は連邦の質を凌駕しそして我軍の質も凌駕している可能性が高いかと」
正規兵が全て精鋭だったとしても、一般兵ですら最低で我々に迫るものだと推し量れる。
これはつまり……世界最強の軍を手に入れたと喧伝しているのか。
効果がありすぎて困る。
「とりあえずわかったことは全世界を敵に回してもニューギニア特別地区は敵に回さないこと、だな」
「影響がありそうなことは報連相を行いましょう」
うむ、報連相は大事だ。
もしかしてティターンズ、いやジャミトフはこのような情報を早い内から手に入れ、早々に白旗を揚げた可能性があるな。
「そして閣下、嫌な知らせです。もう1つ動画が添付されているようです」
……そういえば奴ら……いや死神様の新兵器もあるんだったな。
「やめてよね。私のライフはもう0よ……」
小声で言っているが聞こえているぞ。私も同じ気持ちだから小声にせんでもいいぞ。
これ、見ないといけないのだろうか……いや、わかってはいる。
見ないのは現実逃避でしかない、しかし、しかしだ。見ると絶望すると半ば分かっているのに見ようとはとても思えないのだ。
「それに死神様が勧めたのは先にこちらの動画だった。つまりは——」
「それだけの自信があるということ、ですね」
本当に見たくない。
これから本当に死神様を崇拝しないといけなくなりそうだ……というか死神教が現実に現れるのではないか?
「……ふぅ、逃げていても先には進まんか……流してくれ」
「お伴します」
たかが動画であるのに、戦地へ飛び込むような気力がいるとは思いもしなかった。
……後に、その程度の気力では少しの役にも立たないと思い知らされることになる。
「これは、ないな」
「なしですね」
これはない。
この際、死神様が変なことになってるのは飲み込むとして、なんであのサイズであんな大型モビルアーマーを浮遊させるほどのミノフスキークラフトを搭載した上にIフィールドまで搭載し、更に可動砲まで装備できるのだ。
明らかにオーパーツだろう。
特別地区の正規兵や死神の衣すら歯が立たない……アプサラスIVも意味不明であったが、こちらも負けず劣らずの意味不明さだ。
「どう考えてもジェネレータ出力が足りないだろう。それに膨大なエネルギーはどこから……演習とはいえ実際に出来ないことをしては意味がない」
「おまけに近接戦闘まで熟し、グワジン級に匹敵するメガ粒子砲を10門も装備しているようですし」
意味がわからない。誰か説明を要求する!
「それでこの動画、どうしましょう。分析班に回しますか?」
「……いや、ニューギニア特別地区への反発が高まって来た時に公開するようにする。それはまでは最重要機密だ」
ニューギニア特別地区の天上天下唯我独尊ぶりに少なくない人間が不愉快に思っている。
それが自己のアピールなのか本気なのかは知らないが、1つの勢力として存在する以上暴走も念頭に置いておかなくてはならない。
「わかりました」
ただ、不安な点がある。
この動画を本当に信じる者がどれだけいるのかという点だ。
「もう少しお手柔らかに頼む!!」
いや本当に!切実に!
眉なしのキャラ崩壊した絶叫が聞こえた気がしたが華麗にスルー。
さて、新型核融合炉のデータはまだ届いてない。
ジオンの解析が終わってからだと思うから気長に待つとしよう。
クローン兵+アプサラスIVとVIの組み合わせをテストしてみた。
アプサラスIVはやっぱり処理が追いつけずに死神の衣より悪い結果になった。VIは……一般兵よりはいいかな。
自我がない分だけ自分や味方の命を守ろうという意識がないため防御がどうしても手薄になってしまうためIフィールドとの相性はいいようだ。
うーむ、サイコミュ+ミノクラよりサイコミュ+Iフィールドの方がいいか……あ、普通に考えればこっちの方がいいよな。
死神の衣は回避を前提に考えてたからすっかり忘れてた。
問題は簡易Iフィールドでも結構大きいことだ。小型化や指向性とか研究を進めているがなかなか上手くいかない。
まぁ研究が先行しているジオンが開発に成功していないから無理もないか。
原作のサイコガンダムを開発したムラサメ研究所だが、この世界ではジオニック社がアナハイムに取り込まれていないせいか、Iフィールドの研究は行われていない。
俺達が提供すればいいだけなようにも聞こえるが、一応提供はしている。
どうやら研究者自体が流れてきてないようなんだよな。
「もういっそ宇宙はノイエ・ジールを量産してみたらどうですか」
「……ジオンの魂の大安売りと申すか」