第百九十四話
突然だが、連邦が軍縮を開始した。
切っ掛けは見せかけだけの政権交代、いい加減民衆の声が無視できなくなってスケープゴートを用意しようと同じ穴の狢達の暴露合戦が開始された。
とは言っても本当に責任を取らないといけない上位高官達はほとんど動かず、蜥蜴の尻尾切り程度でしかないがそれでも一定の効果をあげ、民衆に分かりやすい餌として軍縮という政策を打ち出した。
裏話的には連邦の軍は軍縮するがティターンズとエゥーゴは拡張するんだけどな。
復興が遅れている理由は今まで連邦が腐ってるからと思ってたんだけどさ。どうやら裏でアナハイムが動いてるっぽい。
復興させないのはわざと大不況を起こさせて、利権独占を狙ってるかららしい。
なるほど、理には叶ってる……かな?外道でゲスだけど。
さすがアナハイム、汚い。
「これがスナイパー部隊の引き抜き成功の理由でもあるわけか」
『全く、お前達が動かねばこちらに引き込む予定だったものを……』
「悪かったな。横取りして、俺達も随分前から動いてたんだけど気付かなかった」
『こういう言い方はアレだが、元々お前達を討伐するためにイーサンが選び抜いた精鋭だったからな』
そういやそうだっけ、つまり最初からイーサンの息が掛かった部隊だったわけか。
『ティターンズ結成時はまだ受け入れるほどの規模ではなかったのだ』
「割引クーポン贈るから水に流そうぜ」
『ふん、傭兵のくせに随分庶民的な物を用意するものだな』
庶民的……言われてみれば命を掛ける傭兵が割引クーポンとかなんの冗談だ。
「営業努力と言うやつですね」
『まぁ、そういう方向での営業努力ならこちらも歓迎ではあるな』
ジャミトフが懸念しているのは俺達が戦争を引き起こすような謀略をしないかということだろう。
傭兵なんて戦争がなければただの殺人鬼とそう変わらない。
映画でよくある設定だよな。ベトナム戦争経験者を冷遇してテロに走るとか。
「よく言う。次の戦争があるとすればティターンズとエゥーゴだろうに」
『もう1度ロシアという可能性もあるぞ?もちろん今度は死神の衣を雇った上でな』
そうなるとロシアの勝率0%だな。
ただし、はにゃーん様だけは単独でもロシアの味方になりそうだけど……その時は全力で止めないと……さすがに死神の衣vsはにゃーん様なんて最悪な同士討ちは見たくない。
『ところで連絡してきたのはそれだけの理由か』
「いや、こっちが本題。前話してくれた新型核融合炉の試作機を盗んだ奴が判明した」
『仕事が速いな。しかしそうなると……ジオンか』
「正解。ついでにそのデータをこちらへ回してもらえることになったからオフレコで頼む」
『……既に盗られたものだし、私達が恩恵を得れるなら文句言うまい』
反逆行為と言えることだが、そもそも連邦のお偉方自体が反逆行為とかいう以前の問題なので気にしない。これが大人の対応ってやつだ。
「それでαタイプに関してなんだが」
『うむ、納期が遅れても構わんし値が上がっても構わん』
本当に話がわかる人だよ。
『もっともブルーニー達が新型核融合炉を手に入れることができたのは幸いだったかもしれん。このままだとエゥーゴに遅れを取るところであった』
最近連邦は巨大化し過ぎたティターンズを警戒して、エゥーゴに肩入れするようになり、新型の核融合炉もエゥーゴにだけ提供するそうだ。
「これでアナハイムを出し抜けた……なんて思うのは甘いんだろうな」
『だろうな。ジオンはともかく連邦内にはアナハイムの献金漬けになっておる者も多く居る。コーウェンが更迭されなければもう少し安心できたのだがな』
軍人らしい軍人のコーウェンならそうだろうな。
現在のトップであるティアンムも悪くはないが、元々宇宙をまとめていたため地上では人脈が薄く求心力が足りていない。
アナハイムに情報が漏れるのも時間の問題……かも?
ジオンは現在キシリアがいなくなって一枚岩となったため組織は盤石と言っていい。
わざわざ自分達が盗んだという証拠を提出する必要もないだろうからこちらから情報が漏れる可能性はあまりない。
もちろんアナハイムのスパイがどの程度浸透しているのかは知らないが。
盗まれた側より盗んだ側の方がしっかりしているとかなんて皮肉。
『ではβタイプも期待しているぞ』
そう言って通信が切れた。
可変モビルスーツを重視しているティターンズには待ちきれないようだ。
今回の核融合炉のおかげで出力を増やすことができるから予定より少し早くなりそうだとギニアスから聞いている……もっとも本当に早くなった理由は——
「まさかアプサラスを可変させようとして時間が掛かってたとはな」
「もっと早く気付ければよかったんですけどね」
ブルーパプワ初の可変機はアプサラスなのだ!とか言ってβタイプの開発を遅らせていたのだ。
問答無用で殴った俺は悪くない。
アプサラスが可変しても機能にそんな変化はないんだから無駄をするな。
「一応飛行形態を採用することで速度は速くなる予定らしいですけど」
「可変機構を実施して3倍の値段になる方が問題だ」
普通なら速度向上はあの巨体故に必須なのだが、今のところ実戦に出るのはマリオンズのみだから回避性能はそこまで重視していない。
それにコストが3倍にもなるだけでなく、整備性も酷いことになる。合算すると5倍を超えることになる。
それなら最初からブースター増設した方がまだマシだ。
「本当にアプサラスのことになると暴走するよな」
「ギニアスさんの長所にして短所ですから仕方ありませんよ」
主人公がモビルアーマー的なものを使うのってスターダストとSEEDぐらいなんだけどねぇ。つまりほとんどが敵、つまりは俺達は敵側なわけか?
……
……
……まぁ、主人公側になる要素はほとんどないよな。せいぜいガンダムヘッドであるぐらいだ。
<マリオンズブートキャンプ>
「寝ずに頑張り、死ぬ気で頑張り、死んでも頑張る。全てはブルーニーさんのため、人のため」
「「「……」」」
「死んでも死なず、生きていても死んでいる。全てはブルーニーさんのため」
「「「……」」」
「勝つために命捨て、負けぬために生き、死ぬために戦え、全てはブルーニーさんのため」
「「「……」」」
「全てはブルーニーさんのため!」
(おい、誰かツッコめよ)
(じゃあ言い出しっぺのお前がやれよ)
(嫌だよ。死ににいくような——)
——パァンッ!
「死後は慎みましょう」
(((字がちげぇ!)))
(やっぱり来たのは間違いだったかねぇ)
現在、スナイパー部隊とシーマさんがスペシャルコースを受講中です。
さすがは連邦の精鋭とシーマさんですね。スペシャルコースでもそれなりに食らいついていきます。
このコースは通常のブートキャンプコース卒業者でも半分は脱落するコースなんですけど……もちろん死にませんよ?
幸い士官コースを受講することはないようなので徹底して鍛えることができます。
「目で見ない。心で見て感じること」
「「「はいっ!」」」
「年齢を言い訳にして休もうとしない!」
(絶対1発殴るから覚悟しな!……冗談だけどさ。だからそんなおっかないオーラを収めてくれないかブルーニー)
スナイパーを名乗るだけあって狙撃は大したものです。
まぁ私の1/100にも届きませんが。
ここで問題になるのは教育方針です。
長所を伸ばすか、短所を埋めるかですね。
普通なら長所を育てるところですが、問題は狙撃ということですね。
狙撃というのは持つライフルの射程以内という限りがあり、射程内の狙撃を習得するのはそれほど難しくありません。
結局のところどう頑張ってもリリーナと変わらない、いえ、スナイパーを専業させるとリリーナの総合戦闘力に大きく劣ることは間違いないです。
となると短所である近距離、中距離戦を習得……とかんがえるのが普通ですが、間違った教育を施すとスナイパーとしての腕が鈍る可能性が高いですね。
バランスのさじ加減が難しくなりそうです。
「それに比べればシーマさんはわかりやすくていいんですけどね」
一言で言うとオールラウンダー、器用貧乏なんて言われますけどシーマさんは前線指揮官で、撃破されないことが最善なのでこれでいいと思います。
元々はクローン兵に苦戦しての参加しただけで、オールドタイプのパイロットには負けることはほとんどない腕前の持ち主ですし。
……本当はガイアさんに負けて悔しかったんでしょうけど、それは言わぬが花ってやつですね。
「では10分程度の酸素が入ってるこのスーツで1時間コロニー清掃頑張ってください」
「「「「……ハァ?!」」」」
頑張れ、ブルーニーさんのために!