第百九十五話
俺は今熱気の中にいる。
狙い手は数少ない弾を駆使して相手の命を奪い取るかを模索し、時に流され、時に抗い、時には敗れ、時には勝者となる。
狙われている側は狙われていることを承知の上で時間、眠気、己の才など数々の障害と戦い抜いた猛者達。
戦場の華達はこの舞台のため精一杯の鎧と仮面を被り、惜しげも無く声援に応える。
……色々言ったが、俺は夏コミに来ているだけなんだけどね。
「1枚いいですかー」
「おう、希望はあるか」
「じゃあライフルを正面に構えて——okです。ありがとうございましたー」
ふっ、俺のコスプレは注目の的だな。
……でもなぜか冷たい視線が多い……なぜだ?
(なあ、アレって死神様本家じゃね?)
(さすがに本物じゃないだろ。でもすっげーリアルだよな)
(だよな。再現し過ぎ、てかアレって金属でできてないか?相当重そう)
(きっと中の人はムキムキのおっさんなんだろw)
(熱中症に気をつけろよ、おっさん)
勝手におっさんにするんじゃない。間違ってはないかもしれないが不愉快だ。
もしかして俺の知名度って結構あるのかな?
基本的にマリオンちゃんを前面に押し出して、俺は隠しているわけではないがあまり表に出ない。
それでも俺のことを知っているやつがこんなにいるのか……オタクの聖地だから、という可能性もあるが。
さっきカメコに声をかけられたが、アレで4人目だ。2時間経過して……どんだけ警戒されてんだ?
遠巻きから写真は撮られるが声掛けとかポージングのお願いなどされない。
もう少し経ったらレインボーゴーストで登場する予定なんだが、こんなに知られてるなら止めておくが吉か。
「お、ジャミトフ発見……イーサンもいるな……って偶然か?シャアもいるし」
この世界ってもしかして機動戦士ガンダムじゃなくてガンダムさんの世界なんじゃないか。
ガルマが生きてた頃は漫才してたとかないよな。
何にしても悪目立ちするからスルー推奨か……それとシャア、カメコするならもう少し自重しろ。レイヤーの女の子(10代前半あたり)が引いてるぞ。
「モチツケ」
とりあえずBB弾仕様になってるライフル(30mで辞書にめり込むぐらい)で狙撃しとく。
ピクピクッと痙攣してるが大丈夫だろ。ギャグ補正で生き残るに違いない。
「ブルーニーさんブルーニーさん、あっちに偽物がいましたよ!」
お、買い物は終わったのか?確か東方不敗projectの新作を買いに行ってたはずだが……ちなみに今同行しているのはマリオンちゃんじゃなくてマリオンズだったりする。
容姿の変更ができるからこういう時は便利だな。
初音○クの格好もよく似合う……余談だが片手に持つネギはマリオンズがその気になれば金属すら断つから要注意だ。
それにしても偽物?
「これか噂のプラモか」
そこにあったのはネット上で話題になっていたSD化した俺より大きいプラモである。
初めて見たが、確かに良く出来てる。細部の作りも再現されている……が、1つ思うのは——
「これを作ったのって多分連邦だよな」
「その心は」
「映像データで再現したなら凄いけど難易度が高い。だから1番に考えられるのは設計図を持ってる可能性が高い。そうなると——」
「連邦、ということになりますね。なるほど」
それに後付けの肩のメガ粒子砲やハイドロジェットの作りが甘いのがその証拠だろう。
と、意味もなく推理してみた。
別に肖像権とか著作権侵害と訴えるつもりはないから、そこで怯えてる持ち主はビビらなくていいぞ。
ただし、刺されないように注意しろよ。さすがに俺達が関与しないところで死神扱いされるのは微妙な気分だから。
「他の買い物は終わったのかNo.6、アムロやメイからも何か頼まれてたんだろ」
「大丈夫です。頼まれた独立戦争モビルスーツ全集とモビルスーツマイスターなど購入できました」
見事にモビルスーツ漬けだな。
「いえ、ハロの軌跡というのもありますよ」
自社商品じゃん。それとも俺達が製造し始める前のハロも含めた何かなのか?
「写真いいですかー」
「ここはコスプレ会場ではないから却下だ」
「隣の女の子に言ってんだし、お前じゃねぇ——」
ルールが守れないやつは死にさらせ。
ライフル撃ったら俺達まで会場から追放された。解せぬ。
コミケから帰って来たらβタイプが完成してた。
「3ヶ月以上早く完成してるとか……アプサラスにどんだけ時間かける気だったんだ」
「私は悪くない!!」
「いや、有罪だから」
「それでも私は悪くない!!」
それでも、ってことは有罪を認めた上で言ってんのかよ。
「まぁいいや。それで、良いものはできたのか」
「ふっ、私に掛かればこの程度のこと造作も無い」
今日は一段とうざいな。
「変形の機構自体はフジを参考にして、ムーバブルフレーム化によって構造が複雑になって恐ろしいほどコスパが悪いものになってしまったが単独飛行を可能にし、ムーバブルフレームの汎用モビルスーツなら1機を搭載できる程度にはなった」
ほぼZガンダムだな。
頭は普通にガンダムヘッドだけど。
「武装には先制用として使い捨てのスナイパーライフルとビームライフル、バルカン、シールドに付属させたミサイルランチャーとオーソドックスなものになっている」
スナイパーライフル?まぁ1撃離脱戦法が基本となるだろうから問題ない……というかよく考えてあるな。
シールドにミサイルを付属させたのはIフィールド対策にミサイルの威力を上げた結果、腹部や脚部などでは邪魔になるサイズになったかららしい。
変形後の速度はモビルスーツを搭載したSFSより速く、搭載してないSFSより遅いが装甲の耐久性は断然有利で、使い捨てのSFSでは使えないガンダリウムγを使用しているので実弾にはかなり強いので対航空機には活躍できるはず。
「コスパの悪さ、か」
「変形機構が複雑過ぎるために整備性が劣悪、最初から整備を捨てて各パーツを用意した方が将来的には単価が安くなるが、そうすると嵩張ることが問題だ」
兵站への負担が増えるわけか、そのあたりは購入者が考えることだが……整備性か。
やっぱりここは簡易型の変形を視野にいれるべきか、メタスをモデルにしたいけどこの世界ではメタスは存在しない。となると手探りで作るしかない。
「もっと簡易的な変形機構で済ませることはできないか?」
「できなくはないだろう。しかしそれには時間が掛かる。変形機構の設計とはそれぐらい難しい物なのだ」
つまりアプサラスの変形機構に手間取ったわけね。
「とりあえず試験生産ということで10機ほど生産してみるか、拠点防衛ならパーツの置き場所ぐらいは確保できるからニューギニア特別地区ではαタイプより使い勝手が良さそうだ」
「滑走路も必要ないからな。全く、自然保護というのは面倒なものだ」
コロニーには自然保護なんて概念はないからな。あるとしたら空気を汚さない程度のものだろう。
「βタイプが投入されれば治安維持部隊の縮小も可能か、金より人材が欲しい俺達にとってはありがたいことだが」
「費用と釣り合ってないと思うがね」
間違いないな。
まだ後進国でしかないニューギニア特別地区では人材不足の割りには人件費が安い。
軍事力だけならジオンには勝るんだけど……あれ?軍事国家?……今更か。
「ティターンズにも試験に協力してもらうか」
「ニューギニア特別地区の正規兵では質の問題があるからね。クローン兵は普通とは言い辛いし」
「空中分解なんてことにはならないよう念入りに確認を頼むぞ」
「ナンバーズが居てそんな失敗はしないさ」
失敗しても困らない人間がいるというのは本当に便利だ……と言いつつ実はマリオンズが事故死したことないんだよな。
その前にコクピットから自力で脱出するから。
素手でハッチをぶち抜いて飛び出してくる光景は今だに慣れない。
「私は慣れたがね」