第百九十六話
10月、やっと新型核融合炉の試作機のデータが届いた。
機体の性能自体は試作機というだけあって高性能だが、現在のβタイプに勝るのは対弾性程度で他は勝っている。
さすがムーバブルフレームとガンダリウムγ。
連邦の最新機を上回るとは……と言ってもガンダムを次世代改造したようなものだが、核融合炉に出力が上昇した関係でビームライフルの出力と収束率が上がったようで射程と直進性、威力が向上機体性能の差は決定的な差ではない。
むしろビームライフルの射程が伸びた分だけβタイプの方が劣るだろう。
もっともそれも解決する——はずだったんだが。
「今の設備だと製造が難しい」
「マジか、サイド5の設備でもか?」
「あちらはガンダリウムγとその製品の製造に特化している部分があるからな。新たに設備を整えなくてはならんのは変わらん。見積もりはもうしてある。これだ」
「……高っ?!なんじゃこりゃ、コロニー1基より高いってどういうことよ?!」
「コロニーは所詮建築物、最新機材はそれじゃ収まらんものさ」
理解はできるが納得できん。モビルスーツなんかはマンションより高いがそれでも納得いかん。
「連邦も、こんなもの作るより復興をすればいいものを」
「いやいや、ブルーニーも考えが浅い。いや、この場合は君の特殊性所以かな。ミノフスキー・イヨネスコ型熱核融合炉が開発され始めてまだ約40年、まだ発展途上と言っていい。モビルスーツはもっと若い。国防という面で考えれば間違っていないさ」
「ジオンでトラウマにでもなったか」
可能性はあるね。と殴りたくなるぐらい爽やかに言ってるが、その原因の一端はお前にもあるからな。
アプサラスでジャブローを焼け野原にしたことを忘れてないだろうな?
まぁ、最大のトラウマはコロニー落としだろうが。
「それはともかく、どうする」
「……ここで引く理由はないだろう。予算は出そう……またマハラジャ達が頭を悩ますかな」
「1から開発するよりは安上がりなのだから問題ない」
言われてみればそうだな。
作るのにこれだけの予算だ。核融合炉の開発費なんて考えたくもない。
「搭載自体は問題ないのか」
「ああ、問題ないね。今までの核融合炉の完全上位互換と言っていい。一回り小型化されているがいいことはあっても悪いことはない」
俺達の進化には役に立たないが(戦艦級の核融合炉だから)——
「これでまたアプサラスが進化するな」
「ああ、これで本格的にアプサラスVも完成できる!それにIIIもIVもVIも大きく進化するだろう!」
これ以上進化したら世界が破滅しそうなんだが……今更か。
今年も残り30日。
新型核融合炉の必要設備はあまりにも使用用途が限定されているため、輸出が制限されてほとんど密輸で入手しているのが現状だ。
2ヶ月以上経ってまだできないってのは若干イラつくが仕方ない。
これは俺が短気なだけなんだがな。
来年の目標は核融合炉の完成とニューギニア特別地区の戦力充実だ。
他にも考えはあるが、俺達が気にかけているのはこの2つ。
とは言っても核融合炉は時間の問題なのでメインは戦力充実。
その充実とはクローン兵の増産やクーンの後継機開発、支援機充実など多岐に渡る。
具体的にはスナイパー部隊の専用機のために本格的なスナイパーライフルの開発やサウートのさらなる開発も入っている。
なぜあまり活躍していないサウートを開発することになったのか、それはマリオンちゃんの一言から始まった。
「アプサラスにサウートをくっつけたらどうでしょう」
言われてみれば砲撃機って艦にくっついているのが普通だ。
何より、可動砲のように個人の負担が軽減されるではないか、と。
幸い、ムーバブルフレーム化されて1機あたりの重量は軽くなっているし、アプサラスにも施せば余裕が出ることは分かっている。
そして何より、これを聞いて燃える男がうちにはいる。
そんなわけでVの空母にあたるのか、それともVIIにあたるのかは不明だがサウートがくっついたアプサラスがそのうちお目にかかれるかもしれない。
「もっとも今は——」
続けて同じようなネタになってしまうが——
「俺達のコミケ、冬コミ0086の開催だ!」
本来は12月下旬に開催する本祭だが、世界規模のイベントとなり年末にすると来れない人が多く出るようなので変更することになった。
開催日数1週間、内容に制限は一切ない。
品切れなんぞ認めない、印刷所は何処にでもあるからすぐに用意しろ。
商用目的?サファイア内でなら全てが合法だ!……まぁ引用やコピー盗用は違法だがな。
モビルスーツに乗りたい?乗せてやろうじゃないか。ただし武装は模擬専用レーザーで勘弁な。
「お祭りはいくらあってもいいな」
「あ、写真お願いします」
「おう、いいぞ」
夏コミとは違って俺がいても普通に馴染むな。
やはり不意打ちがいけなかったか。
「私はサインをお願いします!」
「おう」
「私は撃たれたい」
「模擬弾でいいか?さすがに実弾はコロニー内だと……」
「つの、ちょうだい!」
「ボウズ、これは取れないんだ——って引っ張るな!」
お前ら馴染みすぎだろ。
これでも一応蒼い死神だぞ?死神様だぞ?
「撃たれたいなら私が撃ってあげます」
そして続く発砲音。
まぁ、誰が撃ったかは説明しなくてもわかるだろう。
「本家様がご降臨になったぞ!」
「本家様じゃー」
「本家様万歳」
「本家様!俺も撃って!」
「俺を踏んでくれ!」
マリオンちゃん人気に俺嫉妬。
集まる人を千切っては投げ、千切っては投げ、逃走するマリオンちゃん。
どこかでマリオンズと交代して逃げれるだろうから心配はしない。
むしろ客に怪我人が出ないか心配だ。セクハラしようとしたやつは殺すけどな。
「む、こんなところで会うとはな」
「その鑑定団のナレーションの声はギレ……ン?」
眉毛がある——だと?!
「……人違いだったようだ。レイヤーの方?」
「お前までその反応か、よほど私に眉毛があることが不思議らしいな。セシリアが変装ならこれが1番だと言うからしてみたのだが」
セシリアなにやっちゃってんの?!
いや、それにコスプレまでしてるじゃないか……ベジータ王とはまた地味なところを……
「これは私が選んだのだ。似合うと思わんか」
やられ役という意味でなら……いや、ベジータ王と一緒にしたらギレンが可哀想だが。
「それにしてもコロニーをこういう使い方をするとは……いまだに信じられん」
「コロニーには歴史的価値はないし、生産能力だって地上より勝る部分があるが劣る部分もあるから一長一短。ならコロニーという利点を活かした使い方をすべきだろ」
「いや、これがコロニーを活かしたかどうかは甚だ思えないのだが」
レイヤーらしくない会話をしばししているとセシリアが現れ、そこで別れた。
「これは……いい物だ」
あ、壺さん発見。
手に持ってるのは……壺プラモ?なんだその謎の物体は……うん、スルーするのが正解だ。
「ん?アレは?」
でかでかと書かれた『死』という文字、不吉過ぎるだろ。と思わなくもないがサイド5でこの文字……もしかしてと思い覗いてみると……
「マリオンズ(ナンバーズ)ホイホイだったか」
「「「こ、これには海より深い事情がありまして!」」」
商品を見てみると案の定、俺達に関連するものばかりが並んでいる。
「マリオンズ(ナンバーズ)が経営してるわけじゃないよな?」
「「「違います!」」」
しかしなぜリアルが近くにいるのにグッズを買おうと?
「デートしてくれる頻度が少なすぎますよぉ」
「それにこれからも私達が増え続けるんですよ?」
「さすがに全員を均等に、というのは無理がありますし」
つまりおかず用——
「「「百式マリオン!」」」
なんか背景にでっかいマリオンちゃんズが……俺、死んだか?