第百九十八話
農業コロニー建設の理由は色々あるが主な原因は穀物相場の高値止まりにある。
コロニーで生産される作物は家畜の餌としての需要が高まっている。
ニューギニア特別地区では普通に食べるのだが、先進国だとコロニー産というだけで忌避される傾向があるが使わないのは損ということで家畜の餌にしているわけだ。
もっともこうなる切っ掛けを作ったのは穀物として卸すと連邦が高値で売るからと言うものなのだから飢えに苦しむ人間にしたら迷惑過ぎる話だ。
それもあって穀物や野菜の相場は独立戦争終了時に少し落ち着いた価格からほぼ横ばいなのに対して畜産業、牛や豚、鳥などの肉は値下がり傾向でステーキ屋が繁盛してるらしい。
農業用コロニーで生産される作物も半分は普通に消費して、もう半分は家畜の餌になる予定だ。
日本人の食べ物への拘りは知っての通りだと思うが、コロニー産の穀物は無農薬栽培が基本なので好まれる……家畜の餌としてな。
普通に食うには味が劣るので不評なんだよ。
普通に食べてるニューギニア特別地区の住民には聞こえないようにしないといけない。
ニューギニア特別地区内でコロニー産不買運動(なぜか変換で出ない)をされては困る。
さすがに家畜の餌だけを生産する農業用コロニーなんて黒字が出るはずもない。
「しかしコロニー産の食料の評価が低いのは火種になりそうだよな」
サイド3はサイドの中では工業力が高いがそれを輸出するにはでかい壁、月がある。
そもそもサイドの中で工業力が高いというのも独立戦争時にジオンが破壊して回ったからに過ぎない。
地球や月に比べるとまだまだ発展途上国、独立戦争で勝利したのは1つの革命と俺達という存在がいたからだ(ドヤァ)。
「もういっそ煽りに煽って戦争でも起こしましょうか」
「………………………俺達にも被害が出るから止めとこう」
万が一俺達がきっかけで戦争になって後でバレたりしたらどんな賠償をさせられるか。
俺って優しいからさ。国民に借金とか背負わしたくないし。
「自分でも思ってもないことを言わない方がいいですよ」
そんな下らないことを話していると来訪者現る。
「突然ですまんが少し耳に入れておきたいことがある」
そう言って入ってきたのは紫ババァことキシリアだった。
相も変わらずマスクが紫色ですなぁ。(褒め言葉)
「以前話した火星基地のことなんだが最近不穏な空気が流れているらしい」
不穏とはまたあやふやな。
「どうやら奴らは連邦に勝利しても交代人員を送られて来ず、辺境の地に左遷されたとジオン公国を恨んでいるようだ」
「……俺の記憶が確かなら送ったのはお前だよな」
「実際はそうだが、表向きはジオン公国ということになっている」
……まさかとは思うがギレンは知らない、キシリアはジオンから外れて資金も人材も権力もなくなったから半ば放置している……とか?
「その通りだ。ついでにいえばマ・クベも知らん」
「完璧な自業自得じゃねぇか」
むしろよくその情報を手に入れれたな。
スパイがいるにしても同じぐらい不遇なのに。
「私の人徳だな」
むしろ人徳(笑)だろうが。
「それで?その火星の奴らは何をしようってんだ?」
「ソロモン決戦で連邦が使ったあの忌々しいソーラシステムとやらでサイド3を狙うそうだ」
よくそんな資源と技術があるな。
一応ソーラシステムは連邦もあまり量産したがらない程度には高コストの物なんだが。
「それは将来私が再起するために資源とソーラシステムの製造方法を送ったからな」
「おい、実はお前馬鹿だろ」
「ふ、褒められても何も出んぞ」
こいつ!完全に開き直ってやがる。
(元はお前対策に開発していたのだが——)
「ちょっとキシリアさん、お話があります」(やっぱりこの前の敵意はこの人だったんですね)
「ちょ、何をす——」
マリオンちゃんといつの間にか現れたマリオンズに引き連れられてキシリアは退場する。
外から何か争う声が聞こえたけどそれも一瞬、多分キシリアの部下が無駄な忠誠心を見せたのだろう。
廊下が血で濡れてないといんだが、お掃除ハロは血の跡を掃除しないように設定されている。殺人現場とか犯人の痕跡とか病人の足跡とか消されると困るからな。
しばらくするとマリオンちゃんと何故かロボットダンスをしているかのように歩いてくるキシリアが再び入場。
「ドウモモウシワケナイ」
カクカクと動きながら土下座、そこは土下寝だろ……もちろん冗談だけど。
俺にはイマイチ事情が分からないからマリオンちゃんの方を見るとにっこりいい笑顔……うん、問題ないな。
「まぁ今度から気をつけるように……それで俺達にどうして欲しいわけ」
「ヨケレバ火星基地ヲ買ッテ欲シイ」
「聞こえづらいから普通に話せ。しかし買うって……なんでまた?」
「やはり1番の理由は誰も行きたがらないこと、ついで維持するにも費用がかかること、そして最後にマリオンとナンバーズが怖——イヤナンデモナイ」
別に俺もマリオンちゃんもその程度気にしない。何処かの黒い娼婦ニュータイプみたいに何もしてないのに怖がるようなことがなければ、な。
しかし、火星基地の買取、ねぇ。
俺達でも扱いに困りそうなんだけど。
『クローン兵を遅れば人的問題は解決すると思いますよ』
久しぶりの念話だな。
ふむ、クローン兵か。クローン兵の生産拠点にするのもいいな。
クローン兵なら最初からそういう場所で育てるんだから不平不満は出にくいし、人件費もそれほど掛からない。
『確か木星帝国というものができるんですよね。それの対策にも使えると思うんです』
でもクローン兵だけで運営というのはさすがにちょっと。
『マリオンズを1人送ればいいんですよ』
『断固反対!』
『マリオンズにもブルーニーさんを!』
『本体の横暴を許すな!』
マリオンズから苦情が殺到してるんだが。
『仕方ないですね。間を取って私とブルーニーさんが行ってきます』
どの辺が間を取ったんだ?
『それじゃブルーニーさんと離れ離れになっちゃうのは変わらないじゃないですか!』
『そうだそうだ!』
『どうせ会えないなら私が行く!』
『『『『『どうぞどうぞ』』』』』
『……ハッ?!皆して謀ったな?!』
オチはダチョウさんかよ。
と言うかこれ全部高度な一人芝居なんだよな。
マリオンズなら裏切られる心配なんてこれっぽっちもないから大丈夫か。
「火星基地の値段は」
「人員を引き渡してもらえるならばこれぐらいだ」
たけぇ……まぁ火星の基地となるとそんなものかな。
1から基地を作るよりはいいだろう。そういえば土地の所有権とかどうなってんだろ?
まぁ、もし気づかれたら火星基地のことを知ってる可能性があるキシリア部を全員始末して戦争すればいいか。クローン兵を使う限り身元が割れることはない。
「……代金後払いなら買ってもいい」
手持ちの金じゃ足りなかったんだよ。
金集めに最低でも1年は掛かるだろうが後払いとなると、火星基地を引き渡す作業に1年は掛かるのでちょうどいいだろう。
「商談成立だ」
早速火星基地に伝えるといい、部屋を出て行った。
俺達も色々忙しくなるな。
クローン兵の生産設備も必要だからフラナガン機関にも話を通しておかないといけないし、コールドスリープ技術の開発も急がせたい。
それに火星で動くモビルスーツもいるな。ギニアスとメイに頼むか。ロシアとは比較にならないほど寒いらしいから対策が必要だろう。
「あ、ソーラシステムの製造方法教えてもらったらよかった」
「そんな余裕はないと思いますよ……ソーラシステムを食べたらミラー装甲になったりして」
……なんかやだ。