第百九十九話
最近ニューギニア特別地区で『悪い子は蒼い死神様が拐って行く』というよくある?子供の躾に使う脅し文句に使われているようだ。
俺達はなまはげか?
ちなみに暇な時にはマリオンちゃんに先導されて、リアルなまはげをしてみたりしたが子供より大人が青い顔してるのがまた楽しい。
むしろ子供には人気の俺だからその脅しは通じないと思う。
実際大人になったら乗せてくれ〜なんてことはよく言われるし、死神の陽炎に就職する〜なんてことも言ってくれたりする。
ニューギニア特別地区外でも一部では脅し文句が流行ってる。
具体的に言えばジオン地球領、オーストラリアだ。
どこも友好地域だが俺達への扱いが友好っぽくない。まぁ俺達がそれだけ強く、恐れられていると思えば悪い気はしないけど。
「という訳で火星には俺達とナンバーズを1人で行くことにした」
キシリアと話をしてから半月が経ち、なんとか目処がたった。
準備は面倒だったが準備も旅行の内と前向きに準備した。
なぜ俺達が火星に行く事になったかというと俺達だけならGなんて無視して最大加速で行けばかなり時間短縮できるからだ。
交代要員は同時に出発するが1ヶ月ほど遅れてゆっくり来る予定。
「脈絡がなさすぎる。もう少しわかるように話してくれませんか」
「キシリアさんに話は伺っていましたがわざわざブルーニー様が足を運ぶ必要性はあるんですか」
語尾を強くして説明を求めるマハラジャと理由を求めるマレーネ。
そしてマレーネの言動に反応して、どういうことだと目で問い詰めるマハラジャ……もしかしてハブられてたのか?
「せ、先日キシリアさんから火星基地の買取をお願いされて、それにブルーニー様が直接出向くという話、ですよね?」
目が泳いでるぞ。
それとマハラジャ、ハブられたからって睨まない。
命と金に関わるようなことじゃない限り寛容なのがブルーパプワの売りだろ。
「フーッ……まぁ事情はわかりました。しかしナンバーズはわかりますがクローン兵でいいのではありませんか?マレーネが言う通りブルーニー様が出向かなくてもいいかと」
納得したけど意見は親子揃って同じ、と。
そりゃ組織のトップの不在なんて短い方がいいですもんね。
「だが断る!」
おい、2人揃って溜息つくなよ。せめてもう少しリアクションがあってもいいだろ。ナンダッテー、とか。
「幸い情勢は安定していて戦争なんて起きそうにないし、クローン兵だと大人数で行かないと返り討ちにあう可能性もある。そうなると距離が遠すぎて物資に不安が出る。それなら少数精鋭で行った方がいい」
俺達さえいればモビルスーツの燃料、推進剤の補給は簡単にできるから遠征向きなんだよな。
ギニアスには俺達用とアプサラスVI用の追加ブースターを用意してもらっている。
いやー、ギニアスがアプサラス遠征用追加ブースターを用意していてくれて助かったよ。
これこそこんな事もあろうかと!だな。
俺達の方は外に取り付けられれば耐久計算とかしなくてもいいから楽なもんだ。
ちなみにアプサラスの追加ブースターのイメージはザンジバル級の追加ブースターだ。
「……いくら反対しても聞いてもらえないことはわかってますが」
「さすがに火星はちょっと……」
「ですよねー。私も行くことになるとは思いませんでした」
親子が堂々と本人を目の前に愚痴り始めましたよ。
そしてさり気なく混ざるな、マリオンちゃん。ものすごく乗り気だったろうが、むしろ今か今かと目を輝かせてただろ。
「俺達が留守の間はいつも通りナンバーズを代表とするように」
「まぁ、なぜかマリオン様に相談しているのと遜色ない回答を得られるので助かりますが」
「むしろブルーニー様がいないと仕事が捗る……」
お、能力のこと話してないのにほぼ答えにたどり着いてるし。
そしてマレーネ、今聞き捨てならないことを言ったな。あ、こら仕事があるからって逃げるな!
「セラーナも行く」
どこからともなく現れたセラーナちゃん。
カーン家で1番懐いてくれているがこの子で、幹部についで話すことが多い。
「さすがに火星には連れて行ってあげれないなぁ……今度一緒に月にでも行くか」
「月は嫌!断固としてアナハイムと戦う!」
なぜ反アナハイムになっちゃってんの?確かに仮想的ではあるけどそんな教育はしてないはずなんだが。
「友達のお母さんがアナハイムは死の商人だって言ってた」
それはブルーパプワもなんですが?というか子供に何言っちゃってんの。
「後でそのお友達の名前教えてね」
「うん?」
首を傾げる姿も可愛いけど、あまり取り合いすぎると俺の半身が嫉妬するのでほどほどにしないといけない。
その匙加減を間違えて何回壁にめり込んだか……しかもセラーナはそれが遊びか何かと思っているようだし……そんな身体を張った遊びはしたくない。
「連れてって?」
くっ、幼女の上目遣いだと?!これは猫のスリスリぐらいには魅力的だ!
しかし物理的に無理なんだよなぁ。Gに絶対耐えられない。食料も持っていかないし。
「一緒に連れていけない代わりに火星のお土産を用意するぞ」
「ブ〜……仕方ないからそれで我慢する」
「おお、大人になったなセラーナちゃん。よし、火星の基地が手に入った暁には基地の名前をセラーナと名付けよう」
「ほんと?!やったー」
これぐらいで納得するならそれでいいだろう。
そして大きくなってから黒歴史に悶えるがいい。
まぁ、機密性が高い基地だからあまり知られることはないだろうけど、もしセラーナがブルーパプワの幹部になれば……。
「しかしまさかアイナがへそくりしていたとは……」
「厳密には緊急資金だったんですけどね」
おかげで人員交代を早めることができそうだ。
さすがに長い間、貧相な生活を過ごしていたジオン兵に同情したんだろうね。あまり話をしないうちに予算が下りたよ。
クローン兵の生産基地にすることは知らないけどね。アイナには資源採掘に利用すると話してある。
まぁ生産したクローン兵で資源採掘する予定だから嘘は言ってない。
さて、早速宇宙にやって来ました。
現在は追加ブースターを取付中です。
追加ブースターを取り付けているのは俺達、アプサラスIV、ザンジバル級リリ丸、ジャジャ丸、グワジン級1隻だ。
リリ丸、ジャジャ丸の乗組員はクローン兵、艦長と副艦長のみが信頼できる死神の陽炎から出向者だ。
途中で事故でもあったらザンジバル級を失うことになるのでコロンブスやフィッシュボーンが良いと思ったんだが追加ブースターを付けられなかったんだ。
コロンブスは追加ブースターはあるようなのだが設計図がないし、フィッシュボーンはそもそもそういう設計ではないし、やれば折れる可能性が高いため除外。
サラミスとかマゼランは輸送能力に難がある。つまり貴重な機動巡洋艦を駆り出すことになったわけだ。
グワジン級はキシリアが貸出を申し出てきた。と言うのは表向き、どうも裏ではマリオンちゃんが動いていたようだ。さすができる女だ。
「くっ、こういうことはもっと早く知らせて欲しいもんだねぇ。クローン兵への仕込みは付け焼き刃に近いものになっちまった」
「リリー・マルレーンを無事に帰してくださいよ」
シーマ様とコッセルには苦労を掛けたな……でもリリー・マルレーンなんてものは知らないぞ?リリ丸なら知ってるが。
「ハロもいるし最悪は中身が全滅しても外側だけは帰って来れるさ」
「中身全滅って……」
さすがに爆発したりはせんだろ……追加ブースターが不調で爆発とか普通に整備士がいたところで防ぎようがないだろうし。
クローン兵はともかく艦長と副艦長は助け出す努力はする。ただのモブではあるが信頼できるという意味では希少な人材だからな。
「ついででいいから火星人も探しておいでよ」
「いや、いないだろ」
「ブルーニーみたいなのがいるぐらいだからいるかもしれないだろ」
……すっっっっごく不本意だがもしかしたら居るかも、と思ってしまった俺は負けなんだろうな。