第二百話
追加ブースターを装着したらステータスに『追加ブースター生成』が増えた。
正直使い道が少ないんだけど……旋回することができない上に加速も段階的にしていく形式なので速効性もない。
強いて言うなら宇宙空間での移動時間短縮できるぐらいか、あまり宇宙に来ることはないからそれほど利便性があるかといえば微妙だけど。
あ、後メリットといえば全力で通常のブースターを吹かすよりは燃費がいいことがあったな。
もっともそれは冷蔵庫の内側にカーテンを付ける付けないの差程度でしかない。つまりほとんど誤差だ。せめて冷蔵庫を開けっ放しにする程度の差があれば使う気になるんだけどな。
さて、今俺達は火星に向かって追加ブースターを第1加速を終了し、第2加速入ったところ……なのだが。
「思ったより身体が痛い」
「頑張れブルーニーさん!負けるなブルーニーさん!」
第2加速を始めてから10分ぐらいで節々が痛くなってきた。
コラーゲン不足か、とかボケれないぐらい身体が痛い。
「まさか敵と戦ってダメージを喰らうんじゃなくて移動でダメージを喰らうはめになるとは」
「私やマリオンズは平気なんですけどね」
『アプサラスIVも大丈夫なんですが』
やはり背中から推すとぶら下がってる手足に負担が掛かる。
若干ではあるが燃料の消費もしているようだし……もしかしたらブルーディスティニーになってから1番の苦行かもしれない。
「そうだ!関節が痛むなら体育座りをすれば回避できますよ!」
なるほど!
では、早速……おお、痛みがなくなった。……なくなったが——
「…………なぁ、これって傍から見るとかなり間抜けじゃないか」
「気、気のせいですよ」
『プッ——』
「おい!No.10!お前、今笑ったよな?!笑ったの隠すために通信切ったよな?!」
くっ、何たる屈辱。いっそ殺せ!
「まぁまぁ落ち着いて。多少間が抜けてても痛みがなくなってよかったじゃないですか。火星まではまだまだ距離がありますから」
「そうなんだがな……ん?あそこに何かないか?」
「へ?……あ、本当ですね。どうやら大きい船みたいです。データ照合……あ、ありました。ジュピトリス級輸送艦です。進路から推測すると木星からの帰路のようです」
ふむ、ジュピトリスか。まだ喰ったことないから是非襲いたい……が今回は公式記録に載る行動中だから迂闊なことはしない方がいい。
だが、喰いたい。どんな味がするのか想像もつかないから尚更だ。
それにこれからしばらく断食であることから考えて襲いたい……いや、待てよ?俺達の行動予定は追加ブースターによる加速が前提となってる。
ここで減速すれば予定されていた日時に到着しない。つまり俺達が寄り道をして予定通りの日時に到着することは不可能。
これが成り立つのは追加ブースターに予備はないからだ。
普通なら不可能、でも俺達は普通ではない。
寄り道(海賊)したところで追加ブースターを生成すれば即解決!
……でも今回はやめとくか、襲撃ポイントと進路が近いから疑われるのは困るし。
「ということでスルー」
「アイアイサー」
うん、無計画に犯罪なんてするもんじゃない。
しばらくしてマリオンちゃんが言う。
「でもいいんですか?ブルーニーさんの恥ずかしい姿(体育座り)を撮られてるかもしれませんけど」
「なんでこんなに離れてから言うかな?!」
しばらく引き返すかどうか悩んだが歯を食いしばりながら耐えることにした。
もしネットで流れるようなことがあったら……TADAZYASUMASEN。
宇宙空間をどんぶらこ〜どんぶらこ〜と流れる。
これで割られたら桃太郎とかぐや姫とパッカーン友達になれるかな。
1番パッカーンしてるのは俺達……あ、俺達は貫いてるだけか。
「お、火星が見えてきたな。そろそろ威嚇用のアプサラスアーマーも着ておくか」
「ブルーニーさんが穏便に済ます気がない件について」
本能が闘争を求めている!……でも殺したらキシリアに賠償金を払わないといけないからあくまで実戦形式の遊びでしかないが。
アプサラスアーマー生成を始める。
俺達の腰辺りから少しずつ蒼い装甲が生え、横へ広がってアプサラスアーマーの形を成していく。
展開までに1秒ぐらい掛かる。その間身動きが取れず、いい的となる上にダメージを喰らうと生成がキャンセルされるので注意が必要だ。
「そういやこの状態で追加ブースターは生成……できるのか、しかもちゃんとアプサラス用とは親切設計だ」
「よく考えると大気圏離脱も単機で可能になっちゃいましたね」
あ、そうか、ミノフスキークラフトと通常ブースターを併用して離脱するなんて不格好なことをしなくて済むのか。
「でも大気圏離脱だともっと節々がもっと痛いだろうなぁ」
「半分は優しさでできてるお薬出しておきますか?」
「アレは頭痛薬だろ」
「一応解熱鎮痛剤なので痛みはマシになるかも」
それ以前に飲めないだろ。
さて、一通りコントしていると火星がだいぶ大きく見えてきた。
「火星は赤かった」
「今から血に染めるわけですね。わかります」
ちげーよ。
さて、そんなこと言ってる場合じゃない、通信を入れてみるか。
「えー、こちらニューギニア特別地区ブルーパプワ代表ブルーニー」
『こちらジオン公国軍火星方面——「今から侵略を開始する。全力で抗わなければ全員船の甲板に張り付けられて帰国することになるから頑張るように、以上」——て、ええ?!』
ちなみにだが、この戦いは私情じゃないぞ?
火星なんてど田舎に左遷された奴らだが、一応ソーラシステムを作るぐらい気概はある奴らでもあるからブルーパプワの下部組織となったキシリア部に所属することに抵抗を感じる奴もいるだろう。
それを見越して少しでもへし折っておこうということになっている。
だから私情じゃない。
繰り返す、私情じゃない。
「モビルスーツ出撃確認、さすが軍人ですね。あんな遊び半分っぽい勧告でも出撃するなんて」
「だな。……にしても見事にギャンばかりってどういうこった」
なんでギャンなんだよ。
原作通りゲルググ主体になっててギャンはほとんど生産されてないはずだよな。
地球に帰ってからキシリアに聞いて知ったんだが、どうやら壺の仕業らしい。一瞬で納得した。
敵の数は……24……ま、辺境の防衛部隊だからこんなものか?いや、ジオンの国力からすると多いか。
「あ、あれってフォルムからしてギャンキャノンですかね」
「だろうな」
バックパックから生えるキャノンをこちらに向け照準を付けて——
「相殺!ただしマリオンズが!」
見事に割り込んで防いでくれるマリオンズが操るアプサラスIV。
うーむ、間近でみると本当に神業だな。
そして感じるぞ。敵のハ?という理解が追いつかない存在を見た時の思考の空白を感じるぞ!
「初見だとそうなるよなぁ。むしろそれに慣れてる死神の陽炎が異常なんだが」
「それって褒められてるんですよね?」
「もちろんだ」
俺がマリオンちゃんを批難したり妬んだりするわけないじゃないか!
固まっていた敵が正気を取り戻して……はないか、半狂乱状態で乱れ撃ちを始める。
さすがに数が多いので俺も迎撃を開始する。
シールドからミサイルが飛んでくるが——
「フハハハハ!これぐらいなら俺でも迎撃ができるぞ!」
バババババッ!と花火が舞い散る。
まぁそもそもの話、当たってもほとんどノーダメなんだけど。
「おっと逃げるのは駄目ぞ」
とりあえず可動砲をファンネルとして飛ばし、四肢と頭を貫いて放置する。
背面に設置されている可動砲は全てファンネルとして飛ばす。
「まぁそれだけで40機だから敵の総数より多くなる時点で無理ゲーだよな」
「相手がどこの国の精鋭でも変わらない結果でしょうね。強いて言えばノイエ・ジールなら多少は抵抗できるかもです」
それもIフィールドの内側に入らせないだけの腕があればだけどな。