第二百三話
地球よ。私達は帰って来た!
様式美だな。
帰って来たけど……ちょっと離れてた程度なのにまさか人種問題爆発。
事の発端は連邦高官がマスゴミの前で差別発言したことだ。
なんで政治家って偶に口が軽いんだろうな。やはり世襲制の弊害か?
連邦高官に世襲制はない、ないんだが……こういうものはいつまで経ってもなくならないもんだ。
地球は混乱しているが宇宙では特に混乱は見られない。
理由としてはコロニーで暴動など起きればコロニーの機能が損なわれ下手をすると自分達の首を絞めることになるからやそもそも地球にいらない人間の捨て場所みたいなコロニーだからそれほど格差がなかったことなどがある。
ザビ家が独立に動けたのはギレンのカリスマもあっただろうけど、こういう理由があったからだろう。
宇宙の中で唯一の例外と言えば地面があり、富裕層が居着いた月ぐらいだ。あそこは汚い商人が蠢く魔界だからな。
ん?どこからか『おまゆう!』って声が大量に聞こえてきたような?……気のせいか。
「それでマレーネ、経済状況は」
「アメリカ大陸での暴動は土木関係や下請け工場などの肉体労働者が激減したために物資が減り、物価が一時的に高騰しましたが現在は下降傾向です。アフリカ大陸の暴動では主産業である資源の採掘、もしくは貿易が停止したため、現在も資源の高騰しています」
う〜ん、もしかしてアフリカ大陸の外交戦略でもあるのか?
ジオンに続いてロシアと中国という資源大国が独立したり分割されたりしたことで相対的にアフリカ大陸の価値は向上した。
最初はジオンが裏にいると思っていたが、もしかしたらアフリカ大陸全体が仕組んだ可能性がある。
「もしかして兵器入手ルートの調査の方針を変えないといけないかもしれません」
「今まではジオンを中心に調べていたからな」
そうなるとダイクン派諜報部の力は半減するな。
ダイクン派諜報部もまだまだ若い組織——そもそもニューギニア特別地区が若いが——だから人脈には難点がある。
元々、ダイクン派諜報部全員が生まれも育ちもスペースノイド、アースノイドとは折り合いが悪いんだ。
アースノイドはスペースノイドを見下しと恨み、スペースノイドはアースノイドを妬みと恨み。
ちなみにニューギニア特別地区ではそんなことはないぞ?
なぜなら絶対な存在がいるからな。目くそ鼻くそ、五十歩百歩、どんぐりの背比べなんてしても虚しいだけだ。
決してブルーパプワが圧力を掛けているわけではない。
人類皆兄弟、ただし俺達を除く。
「連邦に資源を提供しようとしたのですがアナハイムと競合してしまい思ったより利が出ませんでした」
「さすがアナハイムだな」
「その代わり、ジオン地球領を通してアフリカの利権を確保しましたからしばらくは資源に困りそうにありません」
おお、俺達も負けてないな。
南中国、オーストラリアに続いてアフリカか、まぁアフリカとは言っても範囲が広いから場所次第だな。
「詳細はこちらです」
……サイド5の廃品回収よりも単価が高いが、リサイクルする手間がない分だけ施設投資が少なくて済む上に量も安定するからいい。
「それにしても凄い量だな。廃品回収業が駆逐されそうなほどだぞ」
「ですが利益重視の会社ではないでしょう?」
「その通りだ」
儲かるから儲からないからではなく、雇用が必要なのだ。
国営は国営でも国が営むではなく、国を営む企業であるブルーパプワは多種多様な人材雇用を目指さなければいけない。
公務員を抱える企業って結構大変なんだよ。赤字の分野を切り捨てるわけにもいかんし。
「そういえば母艦開発の件だけどギニアスに聞いてくれた?」
俺達が直接聞きに行こうとしたんだけど、マリオンちゃんズは書類仕事と人種問題が飛び火しないように火消しをしているし、俺は俺で留守にしていた間の仕事が貯まってるから暇がなかったんだ。
「はい。設計図は完成していました」
「……完成してたんだ?」
「ええ、ギニアス様に問いただしたところ、艦なんて作られるとアプサラスの開発が遅れる!……と」
マレーネの表情を見る限りそれだけじゃないような……設計図はできていた、でも開発されてない……まさか。
「まさかとは思うが母艦開発の予算をアプサラスに使い込んだと?」
「そのようです。私の管理不行き届きです。申し訳ありません」
確かに、開発部の上位組織である政務部の責任はあるだろうが……正直、ギニアスのは病気みたいなもんだからなぁ。
アプサラスの開発も悪くはないんだけどねぇ。
「まぁそれはこっちで処理するから政務部には新たな監査方法でも検討しといて」
「わかりました」
「ギニアスったら〜困ったちゃんなんだから」
マリオンちゃんをチラッと見る。そして意図を汲んでくれたようで頷いて応えてくれる。
今頃護衛で近くにいるマリオンズが動いてくれていることだろう。
お、声が少しだけ聞こえた。
今日は格ゲーごっこ(格ゲーの技を決めるがそれと同時にヒールを行い、痛みはあるが怪我はしない拷問)だろうか、それとも身体アルファベット(アルファベットを身体で表現する……関節が曲がらない方向で)だろうか、それともアプサラス1/10プラモを踏みつぶしたんだろうか?
あ、プラモといえば今日とんでもないことが判明した。
面白半分でガンプラを喰ったんだけどなんとそのガンプラは元となったモビルスーツの味がすることがわかった。
ただし、コンビニ弁当と高級レストランや専門店ぐらいの差があるから本物がいいが、喰いたい物がいつでも喰えるというのは嬉しい。
他に注意することといえば喰ったことのないモビルスーツの味は無味無臭のもにゅもにゅする何かで2度と喰いたくない。
そしてその瞬間、俺達の部屋はガノタの部屋と化すことが決定したわけだ。
とりあえず直ぐに作れるドップ(味:小梅)を大量に用意した。
ちょいちょいつまみながら書類仕事ができるからストレスが軽減できる。
燃料は増えないけど、精神安定剤にはなる。
これで勝つる!
0087年9月。
ティターンズがアフリカ大陸全土に広がる暴動を鎮圧しているを始めて早1ヶ月。
とうとう鎮圧して……なかったりする。
別に負けてるとかそんな話ではなく、潰して回ってはいるが次から次へと湧いて出てきて苦しめられているようだ。
そして旧αタイプの入手ルートが判明した。
「まさかサイド6とは、な」
「サイド6の政府自体は関与してないようですけど、どうします?」
サイド6は治安維持にのみ、モビルスーツを運用することを許されているため相手は海賊が基本となる。
そうなると旧式とはいえ、旧αタイプからαタイプを配備し直す必要性は殆ど無い。にも関わらず暴動が起きる前に旧αタイプからαタイプへと買い替えた。
まだ百歩譲って買い替えはいいとしても旧αタイプを下取りに出さなかった。
そんなに資金に余裕があるはずがないというのに……と疑問に思って調べてみたらこんな結果になった。
「とりあえず政務部に適当に強請ってもらおうか」
国同士の付き合いなんて弱みの探り合い。
欲しい物はあまりないけど、政務部ならなんか手に入れてくるだろう。
「でも最近はジオンが兵器の提供をしているようですけどね」
「そうなんだよなぁ。脅しの材料としてはちょっと弱くなった」
しかも兵器提供したのはサイド6の治安維持部隊のトップが横領したという形だが、どうもそいつの影にはジオンがいるっぽい。
もっとも既に口封じされて真実は闇の中、だけどな。