第二百四話
アフリカの暴動が気合い入り過ぎな件について。
何がって、身体に爆薬を巻き付けてモビルスーツに張り付き自爆とか宗教の過激派がするようなことを始めた。
過激過ぎるその行動に煽られるように暴動も激しくなり、とうとう暴徒はズゴックII6機が北アメリカに襲撃を仕掛けるまでに至った。
ズゴックIIだけでアフリカからアメリカにはステルス性と推進剤の関係で警戒網に引っ掛かるか、途中で溺れるかしかなく、上陸ができない。
となるとステルス性に優れている潜水艦が必要になるが……一体どこでそんなもの手に入れたのか。
もちろんすぐに迎撃部隊が来て鎮圧されたが、この襲撃はアメリカ大陸に住む黒人達に火を灯した。
ただし暴動に参加するなどの直接的なものではなく、資金援助や物資援助など間接的な支援を始めて更に激化。
迷惑なことだ。いいぞもっとやれ。
「この暴動のおかげで販路拡大万々歳」
「アフリカの生産力に頼ってた企業がかなり打撃を受けてましたからね。買収合併余裕でした」
マリオンちゃんが言う通り、アフリカへ進出していたアメリカ、ヨーロッパ系企業が大打撃を受けて倒産寸前になっているところを買い漁った。
人的資源の補充はもちろん、人脈もいくらか築け、民需の販路も確保できた。
1番の大きいのは民需の販路で、ブルーパプワの有力な民需商品はハロとジオンに対しての自然商品ぐらいしかなかったがこれからは自動車や家電などに手を伸ばせるかもしれない。
「しかし中小企業は成功しましたけど大企業はアナハイムとマフティーに取られちゃいましたね」
俺達が取り込みに成功したのはアフリカにあった子会社にしか過ぎず、大元の弱った大企業の取り込みは金に物を言わせて手にしたアナハイムと人種問題の枠から外れているアジア系企業を前面に出したマフティーが大きく動いた。
簡単に言うとブルーパプワは現場レベルが上がって、アナハイムとマフティーは総合レベルが上がったという感じ。
ちなみにそれぞれの組織、企業の資本を表すとアナハイム>>>マフティー>>ブルーパプワ=マフティー加盟企業8社相当、あくまで大雑把なものだがこんなところだ。
人脈という意味では最下位独走中だけどな。
「その代わりにオーストラリアの半分を実質手に入れちゃってるけどな」
「アフリカの資源が手に入ったおかげで物資に困らなくなりましたから」
今まで資源はニューギニア島とジオン地球領、サイド5の廃品回収の物に頼っていたがそれでも足りなかった。
それを解消できたことによりオーストラリアへ大量の物資を流せるようになった。
偶に行っている大気圏突入用コンテナへの妨害の成果なのかは分からないが値下げ合戦でブルーパプワ商品の方が品質よく、安い物となり、アナハイム商品を駆逐することに成功した。
「世界的に見れば遅れを取っているが、限定的に見れば着実に土台を作り上げているな」
「まだまだ油断は許されませんけどね」
「まさかエゥーゴが、ねぇ?」
「連邦の偉い人達は何を考えてるんでしょうね」
話しているのは先ほど入ってきたニュースだ。
11月半ばになり、まだ暴動の収束していない。
ティターンズは大した被害は出ていないし、鎮圧自体はしているんだが次から次へ湧く。
更に悪いことにティターンズの兵士がマスコミの取材に対して「次から次へと湧いてくる様は台所の黒い悪魔みたいだ」などと発言して火に油と火薬を全力で注ぎ込んだ。
そりゃ黒人じゃなくてもゴキブリ扱いされたら怒るぞ。
それが先月の話で、今月初頭にエゥーゴが「市民への虐殺行為を繰り返す悪逆非道なティターンズを討つべきである」と宣戦布告した。
アフリカはエゥーゴの参戦を受け入れ、ここにグリプスじゃないけど原作的にグリプス戦役の幕が切って落とされたわけだ。
おい、連邦。末端組織ぐらい統率しろよ。
「兵士の質はティターンズが上回ってますが、エゥーゴは現地住民を味方につけて量で補っています。どちらが勝つかは先が読めません」
「十中八九エゥーゴが勝つだろうさ。現地住民を敵に回した状態で戦って勝てるわけないさ」
「このまま何もしなければ、ですけどね」
マリオンちゃんの意見にシーマ様がツッコムが、どこ吹く風。
そりゃそうだろう。
なにせティターンズには——
「俺達が付いているんだからな」
「はい、無理ゲー始まりました」
キャラを崩して \(^o^)/ 状態のシーマ様。
「世論的にはエゥーゴ側に付くのが正しいかもだけど、世論なんて関係ないよな。俺達傭兵だし」
「何より勝てば官軍です」
その通り。
今回、エゥーゴは俺達に依頼キャンセル料を払っていない。
何故かと言うとエゥーゴは資金が足りなかったからだ。
エゥーゴ自体は小さい組織で、今回の暴動でスポンサーを集めて急成長した。
現地住民も引き込んだ。しかしそのために兵士はいるのに戦うために必要な武器を購入する必要が出てきた。
そして資金のほとんどを武器購入に当てる(ブルーパプワでも購入)こととなり、俺達へ支払うことは叶わなかった。
噂では何処かのグラサンと黒人ニュータイプが逃げ出そうとしたけど、逃亡に失敗したと聞く……敵意がないのはわかるけど、戦場で遭えばそんなの関係ないよね。
「ジャミトフさんから友好の使者を送ると言ってましたが……」
「今更俺達にそんなのは不要だろうに……まぁこういう心遣いが社会には必要なのはわかるけど」
いつもジャミトフ本人が通信したり、直々に来訪する以上の使者って誰よ。
ジャマイカンとか寄越したら射殺する自信があるぞ。
バスクは死んでるから無いとして……イーサンか?けど、あいつはサファイアに行く時によく寄っていってるしなぁ。
「誰が来るんだか」
「あ、噂をすればですね。到着したようですよ」
「ふーん」
「あれ、あの人……ニュータイプですね」
マジで?
でも、この宇宙世紀ではニュータイプって割りと珍しくないんだよな。
ティターンズ、というかジャミトフがニュータイプの存在を信じ、発掘に力入れてるし、連邦も上層部の半分ほどは半信半疑ながらもニュータイプの研究はしている。
「変な髪型してますね。それに気障ったらしいところがキモイです。全力で殴っていいですか」
「一応使者なんだから止めようね?全力なんて出したら俺でもキツイんだから、人間だと死んじゃう」
それにしてもマリオンちゃんがこれほど嫌うとか、どんな人間なんだ?マリオンちゃんは人見知りなところあるけど、それは表面に出さず、内面の話だ。
基本的に温和なマリオンちゃんなのに。
そんなことを考えているとノックの音が聞こえる。
そういや、なんでこの時代になってまでノックなんだろうね。インターホンあるのに。
「入れ」
答えるとドアが開き、そこにいたのは……
「……」
使者として訪れたであろう彼は黙って動かない。
唖然、呆け、茫然自失、とりあえず動かない。
ツッコミ入れるのも面倒なので動くまで放置。
5分ほど経ち。
「私はパプティマス・シロッコ。…………生まれる前から愛してましたー!」
そう言ってマリオンちゃんにルパンダイブをかます。
……そう、使者として訪れたのは開発者としてもパイロットとしても組織のトップとしても天才と言われているパプティマス・シロッコだったのだ。
「……まぁ、とりあえず死んどけや」
俺はライフルの引き金を引いた。