第二百六話
「ところでジャミトフ。すっごい今更の質問だけど、エゥーゴと戦っていいわけ?」
『本当に今更だな。私とティターンズとしては問題はないが連邦としては問題ありだ』
現在戦場を有利に進めているのはティターンズだ。
いつから作ってたのか、超大型輸送機ガルダを4機も保有してるっぽいんだ。
1機は連邦からもぎ取って来たらしいが、それでも3機は作ったってんだから凄い。
ガルダの最大積載量は9800トン、それが4機だから39200トンもの輸送能力を保有してるんだからゲリラ化してる暴動に対して継戦能力が衰えないわけだ。
しかもエゥーゴ込みにしても暴動側は航空戦力が少ないため、制空権を抑えている。
以上からティターンズ的には問題ない。じゃあ連邦側は?
『連邦の意見が真っ二つに割れた。もちろん私とエゥーゴの争いの対応に関してだ』
「いや、そこは割れるところじゃないだろ。せめてティターンズを撤退させるとか」
『連邦はこれ以上威信失墜は許されんとどちらも撤退させられないのだ。ティターンズを撤退させれば暴動に敗北したと認めたような形になり、エゥーゴを撤退させれば世論に黒人を差別していることとされてしまう』
……これって連邦詰んでね?
そろそろ地球(半分)連邦に改名する準備を始めるべきだろ。
『そして連邦の対応は結局静観となった。ティターンズなら武力で、エゥーゴなら黒人の味方という評判で連邦の主導権を握らせ、不満や怒り、期待や希望を押し付ける予定だそうだ』
「つまりはティターンズ(地球連邦)エゥーゴ(地球連邦)のどっちになるか決める戦いってわけか」
『そういうことだ。最新の情報ではコーウェンがエゥーゴに参加したようだ』
そのまま退場すると思ってたのにご苦労様。
『とは言っても本人はそんなつもりはなかったようだが、ブレックスとヘンケンに担ぎ上げられたようだ』
ヘンケンはともかく、ブレックスって見た目だけでは黒人差別してそうだよな……俺の勝手な偏見だけど。
実際はララァも仲間に入れてるんだから違うってのはわかるんだけどさ。
「そうなるとコーウェン派のやつらも……」
『多くが参加しておるな。まぁ死神がこちらに付いている以上、勝ちは揺らがんがな』
「その通りだ。さて、そろそろ攻撃地点に到着するから通信切るぞ」
『ああ、気をつけて、武運を、などというつもりはない。徹底的に頼む』
「もちろんだ」
話通りに進むとすればティターンズが勝てば政権(表向き)を手に入れることになる。
そうなると反ティターンズ組織であるエゥーゴは残ってても仕方ない。
ティターンズが勝利すればブルーパプワの将来は安泰だな。そもそも不安に感じたことはほとんどないが。
ついでにシャアやララァもここで始末しとくかな。
無いとは思うけどアクシズ落としなんてされたらさすがに俺達も止められ……?……面倒だからな。
ブレックスとコーウェンは生け捕りにして欲しいと依頼されてるから手加減し過ぎて逃げられんように要注意。
「各機に告げる。
始めての死神の陽炎全部隊(俺達、鎌、衣、クローン兵)共同作戦であるが不安に思わなくていい。
死に呑まれそうになった時は空を見ろ。
死は空にこそいる。
そして死は味方である。
死は等しく訪れるものではなく、死はお前達の上にいる。
死を恐れるな。
死を敬え、死を掲げよ、敵には——」
『『『『『死を』』』』』
「では全てに死を与えん。全機出撃」
ちなみにこれ考えたのセラーナだったりする。
……さすが10代前半にしてはにゃーん様の妹、中二病だなぁ。
俺達の戦力はザンジバル級2隻はもちろんとして、ミデア150機、兵站はガルダがピストンで運んでくれるので積載は全てモビルスーツと2日分程度の戦闘物資程度。
モビルスーツの数は600を超えるがやはり見どころは————
<エゥーゴ兵士>
現代において悪魔だ、天使だ、と2つ名を自分に付けている兵士は多くいる。
しかし、我々は今、目の前に————
「死神」
誰かが呟く声が聞こえた。
まさしく死神。
異名が蒼い死神だからとかそういうものではない。
ネットでみた意味の分からない動画なんて関係ない。
アレは……アレは、死神としか言い表せない。
「呆けている場合か!!緊急事態用の警報を鳴らせ!!蒼い死神が降臨し——」
上官が何か言っているが、正直どうでもいい。
なぜなら、なぜなら——
「あんなものが10機も飛んでるんだ……どうすりゃいい」
こんな死神を見た途端に心が折れた根性なしの俺とは違って、勇敢と無謀を兼ね備えた奴らが滑走路から日本提供の可変モビルスーツ、フジやTINコッド、コアブースター、ドップブースターが飛ぶ。
すげぇよ。お前ら、尊敬するよ。
お前らは勇者だ。輝いてるよ。……ほら、綺麗な花火として。
飛び立ったフジ20機、その他航空機100以上が瞬く間もなく、更には地上から砲撃していたザクキャノンやドムキャノンをも花火にした。
「これは無理だ」
勝てるわけがない。
先頭を飛ぶ死神にビームが何発か命中している……と思ったら拡散するのが目に入ってくる。
意味がわからない。
いや、以前ジオンのノイエ・ジールとかいう機体とイージスとかいう艦にも同じような現象が——
『こちら第112小隊!援軍を!なんなんだ奴らは?!ビームが全く当たらな——』
第112小隊……おかしい、配置場所から考えてもう死神は通り過ぎているはず……まさか。
『こちら第131小隊!敵と交戦ちゅ——』
『本部へ敵は空だけにあらず。繰り返す、敵は空だけにあらず』
『来るな!来るな!来るなぁぁぁ——』
『死神の衣——』
通信が入っては切れ、入っては切れ。
ミノフスキー粒子じゃない、おそらくやられているのだ。全員。
「……司令、撤退を進言します」
「却下だ」
「なぜですか、既に戦力半数を失っているんですよ」
「……もう、遅いのだ」
遅い?
司令が外を見ているのに気付き、冷や汗が止まらない。
振り返ったら終わりが待っている気がした。
「振り返らなくても終わる、か」
俺の目に飛び込んできたのは、死神の大口が光輝く。
「……これが俗にいう、ゲロビーム————」
なんか司令塔を破壊するために大型メガ粒子砲をチャージしてたら凄い不本意なこと言われた気がする。
とりあえず、エゥーゴ側についた基地の1つを占拠、ここを中心として活動していく予定……だが。
「狙撃部隊、南南西から来るミサイルを迎撃せよ」
『了解』
不愉快な感覚が南南西から迫っていたから確認するとミサイルだった。
普通のミサイルなわけもなく、後で確認してみたら核ミサイルであることがわかった。
エゥーゴ、沸点低すぎだろ。
いや、むしろ俺達が恐れられすぎてるのか?正当な評価だとは思うが、地球で核を使うとか踏ん切りが良すぎるだろ。
ティターンズとやってることが逆というのも面白いな。
今回は最初から皆殺しにする予定だったから捕虜は0、生存者は……3桁いればいいね。
「マリオンちゃん、こちらの被害は」
「動作不良が2機、体調不良が2名、以上です」
「さすが俺達、この程度の戦闘なら無傷は当然か」
「それにアプサラスIVを7機、IIIを2機も連れてきてますからね。航空部隊と砲撃支援をこちらに集中させることで対モビルスーツ戦で負けることはありえません」
油断大敵……と言いたいが、正直1番苦戦しそうな連邦のスナイパー部隊が味方になっちゃってるからな。今も元気に核ミサイルを落としてるし。
「ま、これは前哨戦だから気を緩めすぎないようにしないとな」
「ですね。私達がフォローしなければ出ただろう被害予想は8機もありましたからね。これからのことを考えれば気を引き締めないと」
「特に死神の衣だな」
そういう意味ではクローンは便利だ。
感情に左右されない兵士というのはありがたい。
敵を殺すこととか肉壁に使えるからという意味ではなく、正確に教えた通りフォローができるからだ。
味方の死ぬ数が単純に減る。
死神の衣もいくら鍛えても混乱することぐらいはあるからな。
もちろん肉壁としても役に立つ。
αタイプとサイコタイプでは生産コストだけで4:1ほどだからサイコタイプはなるべく大事に使いたい。