第二百七話
『さすが死神、意味がわからん』
「挨拶がそれか、イーさん」
『アプサラス10機だぞ?1機でもどうにもならないものを10機だぞ?敵ではあるが同情を禁じ得ない』
まぁ射程内なら一斉射撃で1000機消し飛ぶんだから絶望として言い様が無いだろうな。
今回落とした基地だってモビルスーツは120機そこそこしかいなかったし、航空機なんて200機程度だし、明らかにオーバーキルだよな。
アプサラスだけで終わりそうだったけど、衣とクローン兵の経験を積ませるためにわざと戦わせたりしてみた。
模擬戦はあくまで模擬戦だからな。
実戦はいいよ。実戦は。
俺達もアプサラスアーマーのテストできて嬉しいし。
「これからはここ、ケニアを中心に鎮圧してけばいいんだよな」
『ああ、それで頼む。暇があれば連絡さえしてもらえれば南下してもらっても構わないぞ』
「それは別料金で」
『考えておこう』
エゥーゴはティターンズより小さい組織だ。
広いアフリカ大陸でエゥーゴが全体をカバーするなんて不可能だ。多少大きいティターンズでも不可能。
ブルーパプワなら区分けして序盤はマリオンズの威光頼りでなんとか凌いでクローン兵を急いで増産といったところか。
ニューギニア特別地区が手に入った当初よりはなんとかなりそう……いや、今からヘイト値を上げるんだから無理だな。
現在エゥーゴの主力がいるのは中央アフリカ、そしてティターンズはカメルーンとチャドに展開している。
ティターンズの本拠地である西中国から言えば反対の位置にいるが、これにはアメリカの暴動を鎮圧した後にアフリカに来たためだ。
「さて、お仕事お仕事」
とりあえず、主要都市とその周辺部にアプサラスアーマーで治安維持用ハロを打ち出して周る。
ハロって頼りになるなぁ。一々暴動鎮圧に人間なんか使ってたら費用がかかって仕方ない。
それに一般人を誤射して更に暴動が拡大なんて堂々巡りは勘弁だ。
何より面倒になってモビルスーツでぬっ殺したくなるだろうが、そんなことしたら間違いなく他の住人が巻き込まれるだろう。……まぁ他の住人も大体仲間なんだろうけど。
ハロならいくら壊されても喰えば燃料に戻るので問題なし。エコですねぇ。
一通りハロを散布してマリオンちゃんズが敵側に加担している者を捕縛して周り、とりあえずの平穏が訪れた。
「お散歩でもしますか」
「いいですね。ついでに汚い花ができなければいいんですけどね」
それじゃストレス解——じゃなくて仕事にならないだろ。
こうして俺達は基地にアプサラスIV2機とサイコタイプ、αタイプ5機ずつを置き、残りはお散歩だ。
補給基地の役割を持つ重要な拠点にしては残した戦力が少ない……ように見えるよなぁ。
アプサラスが残る以上はこの戦力でどうにかなるだろ。
君臨すれども統治せず。
政府が連邦に逆らったわけではないから暴動という。つまり統治機構はそのまま残ってるから俺達の仕事は鎮圧と治安維持のみ。いやー、楽なもんだ。
海賊で有名なソマリアに到着。
途中で3機ほどドムIIを喰ったがそれだけ……というにはそのドムIIが奇怪だった。
あまりに珍しいから1機鹵獲してみたが、別段変わった技術が施されているわけではない。
ただハッチが——
「どこからどう見てもこれって強化プラスチックだよな」
「ですねぇ」
そう、パイロットを守るはずのコクピットのハッチが強化プラスチックでできているんだ。
「なぜに?」
「捕縛したパイロットの話ではモニターで見るより直に見て撃った方が攻撃が当たるから、らしいです」
そういえば、バズーカの弾は正確に大型メガ粒子砲を狙って飛んでたな。
「つまり有視界戦闘の方が効率がいい、と」
「みたいです。視力が10もあるからでしょうか?」
「ああ、マサイ族か?!」
いやいや、だからってハッチを弱くするのってどうなのよ。
「他にもパイロットが見えることで相手に心理的圧力を掛けることができるそうです」
なるほど、モビルスーツって人型だけど見た目はロボットでしかないから人を殺しているという意識が薄くなっている。
そこでパイロットの見えるモビルスーツが出てきたら……戸惑うかもしれないな。
「しかも相手は少し前まで連邦の一般市民だったんだからな。なかなか厭らしい手を使う」
とは言ってもティターンズの精鋭にどの程度の効果があるやら……まぁPTSDになる可能性が高くなると考えれば悪い手ではないかもな。
「まぁそれはいいとして、次はソマリアの暴動鎮圧だけど拠点の割り出しは?」
「先ほど終わりました」
拠点の割り出し、本来はこれに相当時間がかかる。
現地民がゲリラの協力で隠遁しているのと同じで暴動も現地民の中に溶け込んでいる。
そしてこの場合の拠点とは武器庫のことを指す……正確に言うとモビルスーツの格納庫のことだ。
正直、銃火器程度ならハロの物量戦でどうとでもなるから問題になるのはモビルスーツや戦車、航空機など大物のみだ。
「アプサラスで適当に見て周ると引っかかりました」
拠点には少なくない見張りがいるはずで、その見張りがアプサラスを見つければ敵意や恐怖を感じるのでマリオンちゃんズはそれを察知して発覚する。つまりニュータイプ能力を探知機代わりに使ったわけだ。
まぁアプサラスを見られないとわかりづらいという難点もあるけどな。
「じゃあ早速。鎮圧に向かうか」
3箇所ほど拠点を潰したところで隠れてても見つかると思ったのか、決戦を挑んできた。
数はモビルスーツ400、戦車60、航空機2000(なんかデータベースに無い年代物まで混ぜた混合)となかなかの規模だ。
「暴動にしては多くない?」
「おそらく海賊が協力しているんでしょうね」
え、まだ海賊っているの?
「いますよ。最近ブルーパプワの海上仕様が人気ですね」
「って俺達の客なのかよ?!」
確かに海賊受けしそうな装備だけどさ。
「犯罪者でも金を払ってもらえるならお客様です」
ま、細かいところは気にすまい。
最近思ったけど俺達ってアナハイムと同じ穴の狢だよな。
「というわけで出始めから大型メガ粒子砲一斉射撃」
俺達とアプサラスIIIの2機から放つ、3つの死の粒子が色々な思いを消し炭にしていく。
それだけで航空機が半数以下になるとか同情するわ。
「でも遠慮はしねぇ。暴動起こす前にニューギニア特別地区に来るべきだったな」
「今暴動起こしてる人達が移民してきたら食糧危機ですよ?!」
勢いで言ってみただけだから気にしない。
そして敵混乱、そりゃそうだよな。いきなり1000機以上の味方が消えるなんて思わないだろうし。
「さあ、陣は乱れた。突撃せよ」
「別に陣が整っててもあまり変わりませんけどね」
そういうことは言っちゃ駄目、気分の問題だから。
「それにしてもこの可動砲を動かすのって不思議な感覚だ」
アプサラスアーマーを着ている時はアプサラスアーマーも体の一部という感覚になるんだけど、付いてる可動砲80門は人間の時の指を動かしているような感覚なんだ。
普通に考えて80本もの指は動かせるわけないんだけど、そこはやはり人間じゃないからだろうね。スマートに操ることができる。
固定されているメガ粒子砲は意識すれば撃ってるから人間の感覚で言い表せない。強いて言えば突然目の前に虫が飛んできた時に起こすリアクションみたいな?
反射的に撃っちゃってるみたいな?
「マリオンズはモビルスーツを半分落としたら後退ね。後のことは衣とクローン達の同数で勝負な」
『むう、全然足りない』
『私達のストレスも解消したい!』
『あ、じゃあ私はブルーニーさんと空中デートしたい』
その発言に空気が変わった。
そして、この後に行われるマリオンちゃんズによるアプサラスを足場に使って行われる 生 身 の空中戦はまた新たな伝説となる。