第二百十話
<クワトロ・バジーナ>
『なぜわからん!女性が統治する国の実現のためマリオン様に彼女は必要な存在なのだ!マリオン様を支えるべきニュータイプであるべきなのだ!なぜ理解できん!』
理解できるか!
そもそも彼女等をララァに支えろというのは無理を言い過ぎだ!殺す気か!
まさかこの男、最近密かに流行しているという死神教の信者か。
『なに、貴様……マリオン様の偉大さがわかっていないのか。だからニュータイプとして中途半端なのだよ。貴様は!!』
「偉大は偉大でも死神や魔王のような偉大さだろう!」
くっ、このリック・ディアスの追従性では接近戦は分が悪い。
ビームサーベルとビームサーベルが干渉しあって派手な音が生で聞こえてくる。
ち、ビームサーベルの出力すらもあちらが上か。
『大尉、下がって!』
ララァの声ではない声を聞き、なんとか後ろへ下がると絶妙なタイミングでクレイバズーカを放つ。
『甘い!』
ちぃ、やはりか。
こいつの操縦する機体は死神の鎌が操るサイコタイプとか呼ばれるものだが、死神の鎌ほどではないが見事に使いこなしている。
それを現すようにララァが放った弾は全て撃ち落とされるか回避される。
元々リック・ディアスとサイコタイプではスペックが違いすぎる。
モビルスーツの性能の差が戦力の決定的な差ではないことを〜なんて言っていた過去の自分を殴ってやりたい。
操縦技術が同じ程度ならば性能差が勝敗を決する可能性が高いのは当然だろう。
今なら、と思いビームピストルを取り、撃ち、間違いなく命中するタイミング……だが——
「くそ、距離がありすぎたか」
この機体、ゲルググNNに搭載されていた簡易Iフィールド発生装置が載せられているため距離が開くとビーム兵器が通じなくなる。
ゲルググNNと同じものならば限界があるだろうが、奴ほどの腕があると時間がかかるだろう。
『大人しくマリオン様の贄となれ!』
「『だが断る!』」
それに贄ってどういうことだ。ララァは喰われるのか?そんな……百合は非生産的だ。
私は認めん。認めんぞ!
『私は……私は私のために勝つ!』
『ふ、その程度の機体でマリオン様から頂いたこの機体が敗れるわけがない!』
ララァから今まで感じたことないオーラを感じる。
そして相対するふざけた男からも負けぬほどのオーラを感じる。
撃たれては躱し、斬られれば躱す。
躱しては撃ち、躱しては斬り返す。
これがニュータイプの戦いか……いや、その、なんというか……本気なのはわかるが目的が微妙すぎる気がする。
何にしても——
「ここでララァを失うわけにはいかん!!」
私も負けない。
ララァはニュータイプでモビルスーツにもだいぶ慣れたとはいえ元々はモビルアーマー乗りだ。
このまま1人で奴と戦わせてはそのうち敗れるだろう。
なに、押されているとはいえ、2人掛かりならそのうち——
ゾクッ!
『『こ、この気配は?!』』
この強大で絶望を感じる気配は……間違いない。
「『『死神(マリオン様)』』」
<サウス・バニング>
嫌な予感が止まらない。
動悸息切れ……まさか年か?いや、違う。はずだ。
寒気も止まらない……風邪、だろうか。
『サウス・バニング大尉、大丈夫ですか?顔色が悪いようですが』
「コウか、大丈夫だ。問題ない」
あの鈍いコウに気づかれるとはな。
それほど体調が悪いのか、こんな時に……自覚症状が少ないことも問題だ。
いや、実戦になれば忘れるだろう。
「行くぞ!作戦開始」
『『『おう!』』』
大丈夫だ。作戦が始まった。
ここからはいつも通りに動ける。
『ちぃっと早いが、やっこさんも気づいたようだぜ。でも数はそう多くはねぇ』
『情報通りですね。ならジャミトフはあの偽アルビオンに乗っている可能性が高いということですな』
ヒューベリオンは同型艦であって偽物というわけではないぞ、アデル。
『か、数が少ないって言ったって30機はいますよ』
『ハッ、ソロモン決戦の時と比べりゃ大したこたぁねぇよ』
あのノイエ・ジールとかいうバケモンが現れた時はさすがに肝を冷やした。
「お喋りはここまでだ。ミーティング通り戦闘は最小限に、狙うはジャミトフの首だ……遅れるなよ」
『特にコウとキース!ビビって逃げんじゃねぇぞ』
『大尉こそ遅れないでくださいね』
『お、おい!コウ』
『てめぇ』
わざとと分かっているが戦闘目前で騒がしい奴らだ。
だからこそ皆無事で帰りたいものだな。
「攻撃来るぞ!」
まずはティターンズの新型βタイプとかいうブルーパプワ製の可変モビルスーツか。
こちらは重たいSFSをわざわざ運んできて、飛んでいるというのにあちらは可変するだけで飛べる。
こいつらのせいで安全地帯が少なくなって苦戦している。
しかも——
「この射程は厄介——だ!」
俺達が使っている兵器より射程が圧倒的に広く、更には3発程度しか撃てないらしいが撃ち終わると退却するという手堅い戦術のせいで今までろくに撃墜できていない。
『俺とキースで引きつけます。隊長達は先行してください』
『ええ、俺もか?!』
2人の機体は日本製可変モビルスーツのフジ、この中で戦いやすいのは間違いなくこの2人だろう。
「頼む……死ぬなよ」
『隊長こそ』
『死にたくない!』
俺達のシュツルム・ディアスでは加速性などは十分だが推進剤が切れればそれまで。
推力こそ負けないだろうが燃費の悪さも負けない。
艦を落とすのに十分な火力があるからこれにしたが、やはりフジのほうが良かっただろうか。
『くそ。こいつら、いつもは2、3発撃って逃げるくせに今回は普通に挑んできやがる』
『補給しようにも私達が攻撃を仕掛けて、帰るに帰れないんでしょうね』
『それに腕もいい。ジオン兵にも負けないんじゃないか』
艦の護衛なんてこんなものだろう……とは言わない。
3人もわかった上で軽口を叩いている。死の恐怖と闘いながら。
だから俺も——
「なんだお前ら、臆病風に吹かれたのか?」
『『『ハッ、冗談』』』
モンシアがライフルで牽制し、旋回したところでアデルが撃墜を狙う。敵が普通のパイロットならこれで終いだが、相手はティターンズの精鋭。モビルスーツ形態になってきっちりシールドで受ける。
そして俺が背後からビームサーベルでたたっ斬る。
「これでやっと1機か」
『なかなか骨が折れる——な!』
ベイトが死角からモンシアを狙って、隙ができていた敵を撃ちぬく。
コウとキースも敵を落とせてこそないが逃げれているから上等だ。
それを助けようとはせず、そのままSFSを加速させる。
ジャミトフさえ倒せばこの戦いは終わる。
イーサン少将も大した人物だが、ジャミトフと比べれば1歩どころか2歩も3歩も劣るし、トップの交代で時間もできるだろう。
その間にエゥーゴの基盤をアフリカで作れば勝機が見える。
【そんなことはさせませんよ】
ッ?!
『な、なんだよ。これ!震えが止まらねぇ』
『行ける。もうすぐ旗艦に攻撃できるはず……なのにこの絶望感はなんなんでしょう』
『くそ、手が——』
嫌な予感が止まらない。
幸いなのは敵も混乱しているようで動いてないこと、か。
『嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ』
『お、落ち着けキース!!』
キースは予想通り、だがコウはまだ落ち着いている方だな。
アレが若さか?
そんな下らないことを考えていると、俺達がいつの間にか影にいることに気づいた。
そして、絶望を見た。