第二百二十二話
「それでエゥーゴ側から宣戦布告はあった?」
『一応あったね。大義名分は独立戦争や日中戦乱騒動、ロシア解放作戦など数多くの争いを影から拡大させた死の商人であるニューギニア特別地区、ブルーパプワを断罪するとかなんとか』
何処の種運命だよ。
それに全てが間違っているわけではないが、それら全てが連邦の不甲斐なさが原因で、何よりお前らに中立だがどちらかと言うとジオンよりな俺達を裁く権利が何処にあるのかと小1時間+マリオンズブートキャンプ(覚醒抜き)で問い詰めたい。
と言うか、いい加減小勢力なくせに戦力の分散ってアホかと。
まぁアプサラスが10機もアフリカに出てるからニューギニア特別地区の守りが手薄で落とせるとまではいかなくても攻撃は成功するだろうと踏んだんだろう。
俺達という圧倒的武力で治めているニューギニア特別地区が直接攻撃されたとなれば俺達の威信は暴落、治安が一気に悪化する……ということはハロがいるからないと思うが、不審、不安、不満が募り統治が難しくなるだろう。
更に現在はティターンズとの契約状態で持ち場から離れるなどすれば違約金が発生する。
実際アプサラスアーマーをニューギニア特別地区に置きに返った時は違約金を払って帰っている。
「防衛は可能か」
『……それは完全なる防衛という意味だな?』
「もちろんだ。それ以外は敗北だろ」
ここでニューギニア特別地区にダメージを負うようなことがあればしばらく面倒なことになる。
『今回は大盤振る舞いをしたせいでアプサラスIIIとIVが不在だが……幸い、敵の規模なんとかなるだろうと予想されている。もちろん戦場ではどんなことが起こるかわからんがな』
「これがシーマ様の最後の姿だとは、この時誰も思わなかった」
『不吉なこと言うんじゃないよ。せっかくマリオンズブートキャンプを卒業して初の戦闘だ。早々死んだら化けて出てやる』
ニュータイプと化した人間が化けて出てやるってのは案外冗談にならないよな。原作のララァ的な意味で。
「じゃあ俺達抜きで頑張ってもらおうかな。幸いシーマ様を始め、ハマーン様、黒い三連星がいる。それにほとんど働いてないキシリア部に頑張ってもらおうか」
アムロはよほど緊急時でないと戦闘に参加しない契約になっている。
今回程度のピンチなら適応外かな。
もちろん本人が望むのなら別だけど、独立戦争で戦争は懲りたと言っていたからまず出撃はないだろう。
リリーナはこちらにいることが若干悔やまれる。
『キシリア部に頼めば高い依頼料が取られるよ』
そこは必要経費として目を瞑ろう。
それにいい加減、ニートもたまには役に立ってもらわないと。
「シーマ様、今回は踏ん張りどころだ。エゥーゴは確かに奇襲を成功させた。だが逆に言えば」
『ブルーニーやマリオン、マリオンズがいない今のニューギニア特別地区がエゥーゴの侵攻を防ぐことができたなら、おかしな真似をしようとする輩が減る……か』
その通り。
良くも悪くも今までは俺達、マリオンズの威光によってニューギニア特別地区が守られてきた。
まぁ、一応ロシア解放作戦の際は死神の衣が頑張ったんだけど、所詮防衛側だからなぁ。
こういう不意打ちされた侵攻を守ってこそ世界に知らしめることができるってもんだ。
「じゃあ健闘楽しみにしている」
<ニューギニア特別地区>
『現在、ニューギニア特別地区はエゥーゴの侵略にあっています。エゥーゴによる宣戦布告がありましたが主張している大義は見当違いであり、事実であったとしても武力による訴えは悪であり、裁く権利すら持ってはいません。私達、ニューギニア特別地区政府はブルーパプワと共同でエゥーゴと徹底抗戦することを決断しました!』
ニューギニア特別地区政府から声明が発表された。
それに特別地区の住民はあまり最初は実感がなく、だからどうした!という反応がほとんどだった。
これは死神という強い守護者が存在することの弊害で、危機感がかなり薄く、特別地区政府の方が住民の反応に戸惑う有り様だ。
しかし死神のほとんどが留守であることが知れ渡ると途端に慌てふためいて避難を始める。特別地区政府はこれを見てホッとしたのは当人達だけの秘密である。
そして軍の運用は当然ブルーパプワの死神の陽炎に一任された。
「さて、ドップブースターの配備は規定数に足りているがβタイプは規定数の半分以下か」
「それは仕方ありません。βタイプの生産、メンテナンスコストを考えればすぐに数が揃えられません」
「もちろんシーマもそれはわかっているさ。有効戦力が少ないというのはなんともしがたいね。ブルーニー達とナンバーズのアプサラスIIIとIVにどれだけ頼ってたのかわかる」
前線指揮官シーマ・ガラハウ、後方指揮官ノルド・ランゲル(グラナダ艦隊司令官の人)、後方指揮官補佐ギニアス・サハリンの3人が会議を行っている。
「現状の戦力なら十分だとわかっているが、予備戦力が欲しかったな」
「クーンに任せるしかないでしょう」
こちらに向かってきているエゥーゴの戦力は輸送機などから概算して700機、エゥーゴの規模からすると勢力の大半をこちらに向けてきていることになる。
しかし実情はそうではなく、アフリカでもエゥーゴはそれなりの戦力を投入している。つまりエゥーゴの戦力を読み違えていたのか、それとも別の勢力が加担しているのか。
「とりあえず、そろそろ私は出るよ。後方は任せた」
「了解しました」
「あまり調子に乗って落とされないように」
わかってるさ。と返答し、今回の相棒の下へ向かう。
そこにあったのは——
「アプサラスVI、一般兵用だけどニュータイプの私が乗れない道理はない」
そう、今は死神が留守ではあるし、アプサラスIIIもIVもいない。しかもドップブースターはそれなりに数がいるが、βタイプはせいぜい20機程度しかいない。
SFSも規定数300に納入予定の100を合わせて400までしかないが、しかしその代わりにアプサラスVIが6機存在する。
このアプサラスVIはIVとの違いはカラーリングがブルーと緑との違いしか無いようにみえる。
実際はサイコミュが搭載されていないため、シーマの養殖ニュータイプとしての才能は100%発揮される舞台ではない。
その代わり、簡易Iフィールドが装備されていてある程度のビームは無効化でき、更におまけでシーマのものだけカラーが専用カラーである枯色でバイコーンのエンブレムと専用機であることを醸し出している。
「さあ、行くよ。遅れるんじゃないよ!」
『『『もちろんですぜ姉御(シーマお姉さま)!』』』
「姉御言わない!」
キシリア部も混ざり、全機合わせて1800機が出撃する。
数はニューギニア特別地区の方が上だ。しかしシーマはそれで楽観するほど甘い性格ではなかった。
「こちらの数なんて相手も知るところだろうさ。せいぜいアプサラスVIの情報を掴み損ねた程度だろう。そう考えれば——」
『敵補足!モビルスーツ……いえ、モビルアーマーらしき機体を多数確認。新型と思われます』
やはりか、とシーマは呟く。
今向かってきている勢力は恐らくエゥーゴの名を語ったアナハイムである可能性が高まった、と溜息を吐いた。
「むっ、でかい上にカラーが目立つな」
新型機は黄色くてまるで円盤のようだ。
大きさは遠近感覚の問題からわかりづらいが、それでも大きいことを察した。
「どんな機体かわからないけど、楽な戦いにはなりそうにないね」