第二百十三話
<ニューギニア特別地区・領海国境付近>
『こちらニューギニア特別地区軍、ここまで深く侵入してきたんだ。警告はしない。死んじまいな』
シーマが全チャンネルで簡潔に伝えると共にアプサラスVI6機の可動砲が光ると次々火花が散る。
敵の円盤型新型機が円盤の形状から唯一飛び出している大型ビームライフルで応戦、まだ距離があるため遠くからでも目立ち、当てやすいアプサラスVIにビームが降り注ぐ。
しかしアプサラスVIは簡易ではあるがIフィールドを搭載していて敵のビームを拡散させ、無傷の姿を保つ。
もっとも外見こそ無傷だが内情は少し違っていた。
「警告!警告!敵新型機のビーム高収束率!高収束率!Iフィールド無効距離60%に修正!60%に修正!Iフィールド残り時間1時間45分!1時間45分」
「さすが新型だねぇ。いい武装を持ってるじゃないか」
ハロが忙しなく警告を発するのを聞き、感想を漏らすシーマ。
もちろん嬉々とした声ではなく、若干苦い声なのは当然だろう。回避に向かないアプサラスVIの運用はIフィールドに頼るところが大きい。
ノイエ・ジールほどのIフィールドなら問題ないがIフィールドはIフィールドでも簡易でしかないため収束率が高ければ高いほど無効にできる距離が短くなる。
そうなると距離を詰められればビームコーティング頼みとなり、かなり心細い防御力となって撃墜までのカウントダウンが始まる。
「となると、あの黄色い円盤を他の奴らに任せつつ優先的に落とすとするかねぇ」
そう言ってβタイプに乗るハマーンに繋ぐ。
「あの円盤のライフルはIフィールドで防ぐには荷が重いから相手しておくれ」
『わかった。周りの蝿はそちらに任せる』
あいよ。と答えると通信が切れる。
現在βタイプの指揮を執っているのはハマーン、本来指揮能力が高い黒い三連星のガイアが順当なのだが、偶然なのか必然なのか黒い三連星は揃いも揃ってβタイプの操縦があまり上手くないのだ。
正確に言うと変形するタイミングが下手で、それに比べてサイコタイプの操縦と遜色なく操るハマーンが空中での機動力の差で別部隊となるβタイプを率いることとなったわけだ。
ハマーンは速度的に付いていけるドップブースターも30機ほど連れて先行して黄色い円盤を狙う。
「ほう、機動が滑らかだ。新型のパイロットにしては腕がいいな」
ハマーンは知らないが黄色い円盤は航空機と変わらない、つまり長い航空機の歴史と経験を蓄積している連邦の操縦ノウハウが生きている。
その点、ジオンは航空機に関しては遥かに劣り、だからこそドップみたいな高加速!でも継戦能力お察し!みたいな長所と短所がハッキリした兵器が開発されたのだろう。
「しかしそれが仇となるとは皮肉だな」
相手の狙ったイメージと実際の弾道、それが同じ場合は高レベルのニュータイプには視えてしまう。
逆に言うと狙ったイメージと腕が悪くて狙い通りに撃てないパイロットの射撃は躱しにくいのだが、そうなるとそもそも当たる確率がかなり低い。
今のハマーンにはよほど不意打ちがない限り攻撃が当たることはない。
「まずは1機、か。新型とはいえこの程度か」
スナイパーライフルは黄色い円盤を貫き、爆発する。
黄色い円盤は大きいためスナイパーライフルの最大射程からの威力では1撃で仕留めれるかわからなかったから本来有効な射程より近づいての1撃。
スナイパーライフルは弾数が少なく、無駄弾を減らすための努力である。
「なるほど、この新型はそういうものだったか」
間合いが近接戦闘を行う距離に近づいたところで、それは発覚した。
ハマーンが目にしたのは味方が黄色い円盤とすれ違うような機動をとろうとした時だった。
黄色い円盤が人型に変形となったのだ。つまり可変モビルスーツだったのである。
この黄色い円盤、原作で言うとアッシマーと呼ばれる機体だ。
「だが変形のタイミングがお粗末だな。死神の陽炎の一般兵にも劣る」
自分もモビルスーツ形態となり、ビームライフルを見舞うと容易く撃墜することができた。航空機の操縦は上手くてもモビルスーツの適正があるとは限らない。
普通なら両方一定レベルに達した兵士を採用するところだがエゥーゴの人材不足は深刻で、今回の任務は空中戦がメインということで航空機適正が優先されることとなった結果がこれだ。
「兵器が良くても使いこなせなければ意味はない」
ビームライフルは威力が高いが、ハマーンから言わせれば——いや、他のβタイプの死神の衣からですら的でしかない。
「問題は数だが……あちらが派手にやってくれているから大丈夫か」
あちらとはもちろんアプサラスVIである。
IVから比べると可動砲が100から60に減らされているが、それでもノイエ・ジールのような決戦用のモビルアーマーを上回り十分な数で、敵を次々花火に変えている。
「フハハハハッ!蝿如きがよってくるんじゃないよ!」
シーマ様は絶好調だ。
アッシマーのほとんどはハマーン達が撃墜したか現在進行形で戦闘中なためアプサラスVIに集中できない。
何よりSFSに乗るサイコタイプやαタイプが壁のように阻んでいてアプサラスVIには簡単には突破することができない上にアプサラスVIは6機も存在する。
単機や少数で突破できたとしてもアプサラスVIを6機を相手しないといけないとか罰ゲームだ。
「とは言ってもIフィールドも随分削られたけどさ」
絶好調とは言ってもアプサラスのような大きな身体を戦場で晒し続けている。
そのせいかかなりIフィールドの時間が削られ、現在の残り時間は1時間と迫っていた。
「まぁこれからあまり被害は出さない予定だから問題にはならないはずだ」
むしろ被弾が少なかったので可動砲のエネルギーを心配している。
アプサラスVIは次々と敵を撃墜してるのだが正直弾数はあまり多くない、たまにミデアから補給を受けられるが隙が大きすぎてうまく行えない……普通ならば、だ。
結局のところ運用次第で、シーマは少し予定を繰り上げることにした。
「まだ時間的に早いがローテーションで本隊から補給を受けろ」
これはアプサラスVIの初陣であるし、いつもなら頼もしい存在であるブルーニーやマリオンちゃんズの不在で慎重になっている証拠である。
全体の戦況は圧倒的にニューギニア特別地区が押している。
ニューギニア特別地区の被害は25機程度に対してエゥーゴは130機程度、しかもニューギニア特別地区の被害はクローン兵のみとモビルスーツにそれほど差がないことを考えればありえない戦果だ。
もっともそれはブルーニー達の戦果を前にすれば吹けば飛ぶようなものでしかないが。
何にしてもエゥーゴがここから盛り返すには何か切り札がない限り無理だろう。元々数はニューギニア特別地区の方が多かったのだから当然だ。
「ここからひっくり返す方法……アプサラス級の切り札?そんなものあるわけがない……となると……核か?」
ケニアで遠慮無くぶっ放しているので、ここで使わない理由もない。
そして1番厄介なのは——
「自爆なんてやめて欲しいものだねぇ」
ミサイルなら撃墜できるが自爆だと突然だから巻き込まれる可能性が高い。
放射能を浴びるぐらいならマリオンちゃんズのヒールで回復できるが死後……しかも死体が蒸発なんてされたら絶対回復ができない。
「と、そんなこと考えてる間にハマーン達が母艦……ペガサス級の、確かアルビオンだったか……に張り付いたか」
エイパー・シナプスの運命やいかに!