第二百十四話
<幼馴染が腐って逆に悟りを開いた人>
嫌な予感がしてたんだ。
ティターンズの黒人弾圧の反対するのはいいんだ。
武力行使なんて野蛮な行いだと思うが外交というのは時に暴力が必要だと大人になればわかる。
でも……それでも……なんでニューギニア特別地区を奇襲しようと思ったんだ?
1〜11番問題の最大戦力である蒼い死神と死神の鎌がアフリカに出ていて留守だから?いや、万が一成功しても半日としない内に報復の嵐が吹き荒れるのは火を見るより明らか。
くそ、だからアナハイムをスポンサーにすることを反対したんだ。
人員や人脈、武器弾薬、施設、果ては艦まで提供してくれたが、同時にアナハイムの発言権が強まって実質アナハイムの子飼いとなり下がってるに等しいのが現状だ。
実際今回のニューギニア特別地区への奇襲もアナハイムの横槍によって決まったこと。
代わりに半数はアナハイムが用意した兵士、モビルスーツの80%もアナハイムの提供だから文句が言えない。
「ただ、アプサラスシリーズがいないから成功するかも、と何処かで思っていた僕も考えが甘かったんだろうな」
「戦場では常に予想を上回ることを想定しています。しかし、これは……」
「予想なんてできないでしょう。小国とそれを支配している企業の軍事力じゃない」
シナプス艦長が言い淀むのを僕が引き継ぐ。
アプサラスシリーズが6機も配置されているなんて予想外もいいところだ。
唯一の救いはカラーリングが1機を除いてブルーではなくグリーンと、通常カラーであること、そして例外の1機もエンブレムとカラーで登録データを照合した結果、元ジオン軍のシーマ・ガラハウというブルーパプワの幹部であることがわかった。
これらのことから死神はこの戦場にいない……もっとも死神の衣はいるだろうが、あちらはまだ常識的な強さだ。
その証拠にビームの相殺はされないし、Iフィールドを貫通してビームコーティングで防がれて決定的なダメージにはなっていないがいくらかは被弾している。
「倒せない相手ではない……はずなんだけど、対処が遅れたか」
アプサラスという圧倒的脅威がいたことで僕を始めとした指揮官は動揺していて、しばらく気付かなかった。
この場で1番危険な存在は——
「あのβタイプだということに」
純白、その表すのに相応しい綺麗過ぎるほどに白い機体の動きはまるでソロモン決戦の時のアムロ……いや、それ以上か。
まさかアムロなのか、彼は戦闘員としては登録されていない。でもこういう緊急時に徴発されても不思議はない。
「ハヤト君、恐らく奴はアムロ君ではない。奴は、ハマーン・カーンだ。ロシア解放作戦の失敗する要因となった存在だ」
そういえばアムロは白い悪魔と呼ばれているが、アレはガンダムの色が偶々白いだけでパーソナルカラーというわけじゃなかったな。
アッシマーが次々撃破され、周りにいなくなったと思ったら次はネモに——
「これはマズイ!通信士、周囲の味方に伝達!あの白いβタイプを何としても止めろ!」
「りょ、了解!」
突然のシナプス艦長が大声で指示を飛ばす。
いったいどうしんだ・
「あのお嬢さんは……儂等を狙っておる」
「え?!」
慌ててモニターに目を戻すと確かに、こちらに、確実に、一直線に、近づいてきているのがハッキリわかる。
「なんとかなると思いますか」
「良くてわからん、悪くて想像通り、だ」
僕の思い描く嫌な未来図を否定する要素がほとんどないらしい。
事実、モニターに映し出される白いモビルスーツは踊るようにネモやドムIIを悉く蹂躙してこちらに迫ってくる。
いや、よく見るとβタイプだけではなく、アプサラスがこちらが対処しようとする動きを阻害しているのか。
「これ以上接近を許すわけにはいかん。奴らを出すしかない」
シナプス艦長が僕を見ていう。
アナハイムから切り札として託された部隊のことだろう。当初はこれ以上アナハイムに借りを作りたくないため僕が反対して出撃させてなかった。
今となってはそれが良い判断だったのかもしれないと思える。
「ニュータイプ部隊を出撃させろ」
「了解」
ニュータイプ部隊、か。
ニュータイプなんてよく言える。人体を科学的強化し、薬漬けにして無理やりニュータイプにした存在をニュータイプとは断じて言えない。
こんな存在に頼ってまで戦わなければいけないのか……自分の中にある正義が揺らぐ。
僕は、今、何のために戦ってるんだ。
<ハマーン・カーン>
「ふん、アッシマーは大したものだが、やはり他の敵は大したことない」
SFSの弱点は製造段階から分かっている。
下に潜り込めば攻撃手段が乏しく、モビルスーツを載せている関係上、上下運動にも難がある。
それらをカバーするだけの経験が必要なのだが、新米兵士にそれを求めるのは酷だろう。
「だからと言って手は抜かんぞ」
SFSの下からモビルスーツの位置へサーベルを突き刺す。
捕虜を捕る必要がないということだから効率はいい……気持ちは悪いがな。
「アレが旗艦か」
ウェイブライダー形態で後もう一息というところまで来た。
「私の、私達の家を燃やそうというのだ。それ相応の報いを受けてもらおう」
そう、あのつまらない実験を繰り返した月でもなく、平穏ではあったが息が詰まるようだったアクシズではなく、既にここは私の、私達の家だ。
それを奪おうなどという者は——誰であろうと許さん。
私を阻むかのように迫るメガ粒子砲などの弾幕を躱し、こちらの有効射程に入れようとした時、新たなモビルスーツが出撃してくる。
数は3機、どれも新型か……そしてこの感覚。
「ニュータイプ……いや、ゼロ・ムラサメと似た感覚……強化人間か?それにしては気持ち悪さが酷いな」
エゥーゴかアナハイムかは知らんがろくでもないことをしているな……もっともそれは私達も変わらんか。
さて、ここで敵が出してきたということは虎の子だろう。一段と気を引き締めなければならないな。
「それに……これで負けようものなら零式が取り上げられるかもしれん」
私達の標語にこういうものがある。
対1なら圧勝、対2なら快勝、対3なら楽勝、対4なら勝って当然、対5なら勝て。
もしこれであまり苦戦するようでは私の立場が危うい。
なんとしても早急に片付ける。
敵は3機とも同じモビルスーツで、後で聞いた情報ではR・ジャジャという機体だったらしい。
手始めに1射、決して手を抜いたわけではないが余裕で躱される。
「どうやら今までの敵とは違うようだな」
今まではさっきので確実に撃墜、悪くて中破程度にはなっていたはず、見事な回避だ。SFSに乗っているとは思えない。
「ならば」
SFSの弱点である下から潜り込んでの攻撃だが、他の敵がフォローしあって攻撃するどころか躱すだけで精一杯だ。
下からすれ違うように出た後、すぐに可変してモビルスーツ状態になってサーベルで斬りかかったが見事にサーベルで受けられてしまった。
少しの間、鍔迫り合いが発生したがすぐに別の敵から殺気を感じ慌てて上半身を後ろに下げると、そこをビームが通過する。
重心が後ろになったので一時的に離れようと思うが、ただ離れるのは負けた気がするからSFSから落とすつもりで蹴り飛ばしつつウェイブライダー状態になる。
「ちっ、今までまともに戦闘になったのは赤い奴以来か」
短いやりとりだったが相手は攻撃はそこそこ、連携もそこそこ、特筆すべきは回避能力だろう。
どうやら相手は反射速度か未来予測能力が優れているのか、先読みしたような避け方をする。
強化人間とは言ってもニュータイプ能力ではないはずだ。ニュータイプのレベルはそれほど高いものではないと感じている。
「リリーナがいればな……言っても仕方ないが」