第二十二話
イーサン・ライヤーは思ったより素直に交渉を受け入れた。
マリオンちゃん、いざ出陣。
人質なんかにした場合は〜なんて脅しはかけない、そんな事言えば人質の効果があるように聞こえるからな。
効果はあるけど、抑止じゃなくて爆薬だから注意しろよー言わないけど。
『私が女性だからでしょうか、なんだか舐められてる気が…』
「マリオンちゃんを舐めるとか羨ま——許せんやつだ。ビームサーベルの錆にしてくれる!」
『ブルーニーさんも私を舐めてるでしょ?ビームサーベルに錆は関係ありませんよ』
「HAHAHA、そうだったね。まぁ舐められるのは仕方ないにしても力関係はこっちが上だ。堂々と意地汚く守銭奴な対応してれば大丈夫だ。相手もタヌキだから」
『頑張ってみます』
前回のマリオンちゃんの交渉はジオン基地の司令だったけど人が良すぎて交渉云々はさほどなかった。
今回はガッツリ交渉しないといけない上に光の世界に生きる闇と戦う、きっとマリオンちゃんは成長する…シーマみたいにならないように注意しておこう。
シーマは嫌いじゃないがずっと一緒に居るには辛い。
変態でもロリコンでもあるけどMじゃない。
MだったとしてもソフトMだ。
アクシズの脅威vの難易度HELLはできるけど某動画みたいにモビルスーツ、モビルアーマー禁止とか一年戦争兵器縛りとかできるほどじゃない。
『あ、なんか予想以上にチョロそうです。イーサンさん…言いにくいからイーさんで、どうもかなりビビってるようです。自分の命が関わると途端に判断が鈍る…いえ、どちらかというと慎重になってしまうんでしょうね。こちらの要望をすべて受け入れてもらえました』
俺達の要望は…まぁ理不尽だけど利益があるから受け入れやすいだろう。特にイーさんのような官僚っぽい軍人ならな。
要望した内容は以下のとおり。
・連邦製兵器の買取
・捕虜の扱いと身代金の制定
・技術売買(責任者がイーさんと分かって急遽決めた)
・一定の情報共有(これはギブアンドテイク的な感じ)
・依頼があれば請ける(ただし仕事は選ぶ)
・暗殺依頼も請けますよ(‾ー‾)ニヤリ
『ジム改ですけどジオンの45倍で買い取ってくれるそうですよ!』
45倍ってジオンは大体1000万ぐらいだったから4億5000万か?!
いったいジム改を作るのにいくら掛かるんだ。
『コクピットが壊れてなかったらもっと出すそうです』
ああ、コクピットは精密機器が詰まってるからか。
捕虜の扱いは健康ならテキトーでいいらしい、値段は階級で決めた。
技術はイーさん個人のツテで手に入れて貰う予定だ。もちろんそれ相応の対価は用意するけどな、イーさん個人に。
他はまぁそのままの意味だ。
イーさんの出世欲の敵はジオンではなく連邦にあるのだから…ふっふっふ、おぬしも悪よの〜的な。
「マリオンちゃん、最後の殺し文句忘れずにね」
『了解です』
「約束破ったら———ジャブローに潜っても土をひっくり返してでも見つけ出して——ふふふ、私達の力を知っている貴方には愚問でしたね」
「む、無論だ。約束は守る」
「お願いしますね?」
今回の公式記録では俺達は迎撃され、撃退されたって扱いになった。
マリオンちゃんを回収しようとした時にスナイプされたんだけど躱して報復として近くにいたジム改を6機を『鹵獲』して買い取ってもらうっていうトラブルもあったがイーさんのあの様子だと裏切りは少ないと思う、腰抜けてたし…マリオンちゃんが今回は目を瞑ってあげると言うと壊れたおもちゃみたいに頷いてたからな。
無事交渉を済ませて意気揚々と手頃な無人島構えた拠点へ帰宅。
もちろん、アイナ達もここにいる。
そして改めて思う、基地に行って帰ってきただけで27億稼いでしまった事実。
銀行振込確認したらちゃんと振り込まれてたから間違いない。
これで工場は建てれるだろう…多分、計画書とか無いから今から忙しくなりそうだ。主にシロー…いや、ゴローとアイナが…やっぱゴローは分かりにくいし俺達の間ではシローって呼ぼう。
「最終目標はミデアの部品を作ることではあるけど航空機の部品はそれだけで高度な技術がいるから取っ掛かりとしては不適合、何か思いつくものはないですか?」
「マリアさん、やはり最初はジオンの製品を作りませんか?勢力圏でいえばジオンはお得意様でしょう」
そりゃそうだな。
目的はあくまで俺達が必要な物の生産だけどそれまでの技術を磨かなけりゃならないなら身近な存在に売れる物がいいだろう。
「それなら戦争で消費が見込まれる銃弾を作りましょうか」
「銃弾は消費が激しいから欲しいだろうけど品質管理が心配だ」
「そこはお二人が頑張ってください…と投げるのは簡単ですが実は手段は用意はありますから大丈夫です」
後日、ジオン基地の兵士が到着。
まぁ簡単にいえば休暇という名の肉体労働というブラック企業も真っ青な理論で送り出された臨時労働者だ。
もっとも戦争という枠組みから外れれるだけでも幸せそうなところを見ると戦争の業の深さを感じられる…俺達は苦に思ったことがないあたりさすが兵器か?兵器だけに平気……
外壁はミデアのコンテナの予備を連結させたもの、コンテナがそもそも断熱材入りでほとんど無改造でできた。
電力はモビルスーツのジェネレーターを流用、1つでは足りなかったけど複数設置。そのうち本格的な設備を構えるが発電施設なんて結構金が掛かるのでもう少し後。
工業用機器はインドから購入、つまり連邦の膝元から手に入れているわけだ。
社員はオーストラリアからコロニー落としの被害で溢れている貧困層を連れてきた。ちなみに連邦に公式に許可は取っている。
救済という名目で治安改善ができて助かるそうだ。簡単に言ってしまえば厄介者の押し付け先ができて助かっているのだ。
もっともコロニー落としによりジオンへの憎悪が激しいので経営者や協力者、販売先などは秘密にしておかないといけないのでちょっと後悔、早く連邦への販売も考えた方がいいかもな。
ギニアスから開発者を2人ほど派遣してもらって技術指導をしてもらっている。もう大詰めなのでアプサラスの開発者を随時こちらに送ってくれるそうな…原作で殺した人達だろう。
製造するのは銃弾と言ってももちろん人間のものじゃなくてモビルスーツ用のものだ。
普通に考えれば入り込む余地がない…ように思うかもしれないが実は新型であるザク改やゲルググで採用されている90mmマシンガンは旧式のザク系が採用している120mmマシンガンでは銃弾に互換性がない為、90mmの弾の製造は多くない。
ここを狙うわけだ。
ジオン基地でも弾が少なくて文句を言ってたぐらいだから喜ぶだろう…というか伝えたから労働力を借りれたんだけどな。
「ところでライセンスは取ってあるんですか?」
「ライセンス?何ですかそれは」
「取ってないんですか?!」
「統合整備計画が実施されたんだからライセンスも何もないと思うけど、あっても無視。どうせ現状は正式な会社ではありませんから」
引きつった笑顔を浮かべるアイナをシローが慰める…慰み者にするって一瞬過ったがスルー。
そんな感じで俺達は会社(裏)を始めました。
3日ぐらい工場眺めてたら(本当はマリオンちゃんがめっちゃ忙しいだけ)イーさんから連絡があった。
どうやら仕事を頼みたいらしい。
待ち合わせはあまり大きくない無人島、スナイプできるほどの距離もない島だから安心だ。
「それでどんな御用でしょうか」
「以前言っていた暗殺をお願いしたい」
ストレートだねーイーさん。
話が早くて助かるけどな。
「私達を信用するんですね」
「ふん、癪じゃがお前達の力は圧倒的じゃからな。協力してもらえるのなら心強い」
額面通り受け取ったら痛い目見そうだけど、どうにかなるかな。
アイナ達人間はペット飼ってる感覚に近いからどうしても守らないと、という思いはない。
色々気を使ったりしてるのは道楽と俺達に利益になりそうだからだ。
ペットがじゃれあうと俺達の食材になるんだから多少気を使うのも間違いじゃないだろ、人間も家畜で同じことしてるし。
「それでターゲットの情報はどなたですか?」
「北アフリカ方面軍司令を暗殺して欲しい。他の被害は極力抑えた上で、だ」
「それだと私達の旨味が少ないですね。報酬はそれ以上に期待しても?」
「それなんだが、報酬はそれほど出せんが戦時中に買取を行う兵器の価格を全体的に引き上げるのはどうだろうか」
なるほど、後払いにしたいと言うのもあるだろうが今は手元に現金がないと考えるべきだろう。
俺達を罠に嵌めるにしても買取価格を上げるというのはイーさんのピンはねも減るはずだし、自分で言うのも何だが暗殺成功の確率は罠のことを考えてもかなり高い。
更に言うとイーさん自身が暗殺される可能性も考えれば非現実的な報酬とかならともかくコレは現実的で魅力がある。
『どうしますか?罠があっても核兵器レベルが無ければ私達にはそれほど意味はありませんし、それも高確率で防げますから請けてみてもいいと思いますけど』
「問題はインドネシアへの侵攻が目的だった場合か、俺達が留守の間に侵攻されたら耐えれるかどうか…」
『最近は本格的にシーレーンの破壊を行っていて渡海するだけでも苦労するかと思います。それにもし侵攻するようでしたら報復すればいいだけでしょう』
「それもそうか、俺達の会社は知られてないはずだし大丈夫か…それに一応防衛用にジム改を5機ほど置いてるしな」
私兵って便利だよね。
寝首を掻かれないように注意も必要だけど俺達がいる間は搭乗できるのは訓練の時だけにしてるから大丈夫だと思ってる。
一番問題なのはアイナが私情でジオンに援軍として出さないかだけど…それはシローや周りに期待するしかないか。
余談だけどジム改のカラーリングは俺達とお揃いの青色だ。
一瞬でも怯んでくれたら、という思いだ。
好き好んで死んで欲しい訳じゃないから生存率を少しでも上げる工夫ってやつだな。
「じゃあ請けるとしますか」
『分かりました』
ああ、カニ(であろうズゴック)が食べれないのかなぁ。