第二十三話
「後方の警戒って楽でいいな」
「賛成だ。前線じゃ毎日どんちゃん騒ぎだかんな」
「それが宴会ならいいんだけ——何か近づいてくるぞ!は、速い」
「基地へ通信を——チィ、ミノフスキー粒子が戦闘濃度になってやがる」
「おい、もう目の前——」
『ひと〜つ!人の世生き血をすすり』
「くそ!トムがやられた!」
『ふた〜つ!不埒な悪行三昧』
「避けろジェリー!ファック、分けわからなんことを言ってんじゃねぇぞテメ——ッ?!」
『みぃ〜つ!醜い浮世の蒼い死神…ブルーニー只今見参!』
『全部自分のことだったんですね』
『血をすするって言うより鉄をすすってるけどな。しかし名前がジェリーにトムとか一歩間違えたら猫と鼠じゃねぇか』
『鼠とほとんど変わら——』
「ふざけん——」
「さっきのはデザートジムかねぇ?マカロンとかチョコとか色々ウマウマだったから。でも陸ジムの改造には見えなかったけど」
「どちらかというとジム改を砂漠仕様に改修した感じでしたね。砂漠にいるモビルスーツが全部これならしばらくここに滞在したいぐらいです」
イーさんのご希望は損害モビルスーツ10機までって注文があるから後4機か…行けっかなー、基地に近づいてるがまだ少し距離がある。てか、連邦は基本3機編成だって分かってんのに10機なんて割り切れない数を指定したのって絶対嫌がらせだろ。
「急ぎだからってまさかアフリカ横断させられるとは思わなかったわ」
「スエズ運河を使えたら良かったんですけどあそこは海抜…と言っていいか分かりませんが浅いせいでモビルスーツでもバレちゃいますからね」
浅くて狭いとかやってられん。
インドネシアからスリランカ(インドより若干南東の島)によって海底食材を漁りながらマダガスカルより少し北のケニアに上陸。
隠密行動優先ならそのまま南下して大西洋を目指す方がいいんだけど目指すのはリビアのトリボリだから遠回りな上にジブラルタル海峡を超えれる気がしない。
それにしても連邦はよくジオン水泳部から沿岸部を防衛できたな、と感心してたらどうやらジオンのニックネームオデッサの壺さんに壺を贈って非公式な不可侵条約っぽいものができているらしい。
このへんは銀英伝とかと違ってジオンは国と認められてるからまだマシな戦争——いや高々コロニーと月しか移民してないくせに地球にコロニー落としを実行したんだからこっちの方が酷いか?でも第二次世界大戦の核爆弾みたいなものと考えれ…ないか。
「お、あれがトリボリ基地か。思えばずいぶん遠くまで来たもんだ」
「そうですね。ジャブローからキャリフォルニア、日本、インドネシア、続いてアフリカのリビアですか…もうすぐ世界一周ですね。せっかくですし世界一周しておきますか?一度ジャブローに攻撃を仕掛けてイーさんに力を見せつけておくのも有りだと思います」
もうそろそろジオンのジャブロー攻略戦があるかもしれないし…オデッサ攻略作戦はまだだからブルーディスティニー無双にしかならない気がするけど。
「という訳でジャブローに行きますかー」
暗殺をサクッと終わらせて海へダイブ。
いやー、人一人見つけ出すのにこの体は不便で仕方なかったが何とかなるもんだな。偶然見つけてバルカンアタック、ミンチと化した。
司令と側近(イーさんから殺していいって許可もらってる)が死亡したことにより命令系統乱れて余裕で逃げれました。
海底食材を漁ってるとホームレスになった気分になる…実際にホームレスになったことなんてないけど。
燃料に困っているわけではないが多ければ多いほどいいのは人間で言うお金と一緒だ。
おそらく俺達は腕が千切れても脚が千切れても燃料さえあれば回復する。つまり燃料は俺達にとって生命力なのだ。
そして海底食材もできれば効率良く摂りたいから大きい物を探してしまう。
今までの経験上、鮮度が良くと質量が大きいほどほど燃料効率が良いことは分かっている。
海底食材に鮮度は求められないので質量が大きい物を探すってことになるんだけど…客観的にみるとゴミ捨て場を漁ってるみたいなんだよなー。
「おっと、潜水艦じゃないですか。しかも結構な数……?」
あれって確かユーコン級潜水艦とマッドアングラー級潜水母艦か?
もしかしなくても目的地はジャブローか、方角的にも合ってる。
こりゃもしかしてカニ(仮)が食べれるかも?
幸いこちらに気づいてないっぽいから無理せず追跡していくかな。
「面白そうな展開になりそうだな」
「ですね。でも下手をすると連邦が落ちてしまうかもしれませんよ」
さすがにそれはないと思うけど、前線にジム・クゥエルを投入したぐらいだから本拠地であるジャブローにはジムカスタムが配置されててもおかしくない。
名場面であるシャア専用ズゴックがジムを貫くシーンは無くなりそうな予感はするけどな。
これはもう確定だろう。
ジャブローまでもうすぐという距離で潜水艦のハッチが一斉に解放され、出てきたのは——
「赤色のズゴック…いやズゴックEだと?!」
「いつかの赤色のザクのパイロットでしょうか」
ズゴックE(エクスペリメントの略)が早くも登場か、いや統合整備計画が実施されてんだから不思議ではないけど…
「他にもハイゴックにグラブロまで居やがる…ちょっと待てグラブロは何をするんだ」
どう考えてもあのサイズはジャブロー攻略の戦力とはならないだろ…制海権確保用戦力だろうか?
「ズゴックやゾックもいるのか…」
そしてジャブローが視界に入った。
「ハハハ…これはなかなかの迫力だな」
「なんですかあの空中要塞」
「あれこそアイナの兄、ギニアス・サハリンが命を削って作り上げた超兵器アプサラスIIIだ」
「あれが…」
放たれるメガ粒子砲の威力はモビルスーツには明らかにオーバーキル、基地も蒸発してしまいそうなほどである。
アプサラスIIIの周りにはグフフライトタイプ6機と数多くのドップ、更に後方には攻撃空母ガウ8機とまたドップ。
「これは…ジャブロー陥落もありえるな」
計画ではジオンの援護のつもりだったがこのままではジオン勝利で戦争が終わってしまうかもしれない。
そうなったらデラーズ・フリートもエゥーゴvsティターンズもアクシズもネオ・ジオンもなくなってしまうじゃないか。
あ、エゥーゴvsティターンズはあるかも?連邦内のスペースノイド派と地球至上主義派との内戦だからな。でも旨味は少ないよな。
ちなみにイーさんに確認したらジャミトフ派だった。性格的にはあってる気がする。
と言うかイーさんがティターンズに居たらバスクって必要なくね?もっと綺麗に悪どく上手くやっていけると思う。
…あ、俺達からしたら駄目じゃん。上手くいっちゃ駄目なんだよ。
「少し様子見——あれは…NT-1?!しかもあの動き…アムロか?!」
「昔そんな名前の歌手がいたそうですね。クローンか何かでしょうか」
くそ、マリオンちゃんのボケのせいでシリアス感が全く出ない。
「それにしてもあのモビルスーツが出てきたらまた盛大にEXAMシステムが騒ぎ始めましたね。そのアムロって人がニュータイプとしてレベルが高いんでしょうね。私もこの距離からでも感じますから」
ニュータイプ同士の共鳴か…俺とマリオンちゃんは共有はできて俺もニュータイプの能力は発揮できるけど、やはりニュータイプ同士の共鳴とは違う。
「空を飛んでるグフが次々落とされて…全滅しましたね。ドップの攻撃もシールドで受けるか完璧に躱されてますし、地上からの砲火も的確にドップを落としてますね」
つまりホワイトベース隊がジャブローにいたのか、オデッサに向かわせなかったのはオデッサ攻略作戦を行うだけの戦力がまだ整っていないからか。
「ガウからモビルスーツ降下確認、ザク改やゲルググ、キャノンタイプなど多数、黒い三連星仕様ドム・トロピカル3機も確認」
おっと、まさかの黒い三連星投入ですか、ガチですなジオン。
降下部隊に対して対空砲で応戦する連邦だがアプサラスIIIが弾道で位置を確認しているようで次々メガ粒子砲の拡散射撃によって黙らされている。
ギニアスの笑い声が聞こえそうだ。
「連邦モビルスーツ新型を確認」
あれはジムキャノンIIか、ホワイトベースから出てきたようだからガンキャノンの代わりか。傍らにノーマルなガンダムもいるな。
「アプサラスIII対NT-1…夢の様な対決だ」
「その夢、間違いなく悪夢ですよ」
確かに。
「どうしよう…とりあえず川の中を泳いでるジオンに付いて行くか」
何よりカニ(仮)食べたいし。
「後ろからプスッとしてアッーするんですね」
「違う、絶対違うぞ!フリじゃないからな!」
そんなくだらない会話をしていたら——
「「あ」」
NT-1がアプサラスIIIのコクピットをビームサーベルで串刺しにする光景が目に飛び込んできた。
ギニアスの執念、ジャブローに届くもアムロに阻まれる。
「アプサラスIIIは複座だったはず…」
「じゃあもしかしてサンダースさんも…」
アイナの言っていた通りアッーな関係なら間違いなく同乗していただろう。
「ケンタッキーここに倒産す」