第二百二十三話
「イヤッハアァァ!やはり生が1番だ!」
「……意味はわかりますけど、なんだか卑猥なこと言ってるように聞こえます」
「あらやだ、マリオンちゃんも思春期……は随分前に過ぎたよな?」
「私は永遠の16歳です!」
いや、マリオンズの人数を数えれば即バレの嘘を言われても。
まぁ冗談はともかく、今俺達はアナハイムの大船団を襲っている真っ最中だ。
迎撃に出てきたのはR・ジャジャオンリー、なかなかの気合の入れようで嬉しいぞ。
ただし、全部ジャージャー麺と思えば見てるだけでちょっと胸焼けするのは仕方ないことだと思う。
総数は120機、船団に対して規模が小さいのは途中で別口の海賊に襲われたからだろう。
「重力下だと大したことないR・ジャジャだが宇宙だと侮れないな」
「地上だと対空に不安がありますからね」
肩に3連装ミサイルポッドが内蔵されているとはいえ、バルカンがないのは普通の兵士が使うには難しい機体な気がする。
SFSさえ落としたらモビルスーツは地上に落ちるしかないのでSFS対策としてバルカンは結構有用だ。むしろ独立戦争時より有用性が高まっていると言える。
「おっと、攻撃が躱された?」
「アレが例の強化サイボーグですよ」
なるほど、雑魚と同じように狙っていては外れるか。
そして3機が1組となっているようで俺達を包囲するように動いている。
確かにこれははにゃーん様が少し手こずったのもわかる。
攻撃を仕掛けると別の機体がフォローして、更に別の機体が本命の攻撃を繰り出す。
よく出来た連携だ。
「まぁ、でもやっぱりはにゃーん様の経験不足だな」
「その通りですね」
次の瞬間には強化サイボーグの操るR・ジャジャのコクピットをビームが貫く。
もちろんしたのは俺達。
なんでこんな簡単に倒せたかというと、簡単に言うと相手の隙を突いたにすぎない。
強化サイボーグは身体能力は大したものだが、パイロットとして熟練度は一般兵のそれと変わりない。
「人間、避けられ続けると攻撃を当てようと躍起になるよなぁ」
結局強化サイボーグと言っても五感や動体視力などを機械で底上げしているだけで相手は人間であることに変わりはない。
こちらから攻撃をせずに避け続けていると自分が有利であり、当てれば勝てると錯覚して調子に乗る。
しかも強化人間ともなれば不安定さは普通の人間以上だからこういう手にも引っ掛かる。
「死神の衣ではそんな未熟者はいませんからね。ハマーンさんがわからなかったことも無理はありませんよ……次がないようにもう1回鍛え直ししますけどね」
はにゃーん様頑張れ、そのうちいいことあるさ。
強化サイボーグを苦なく3機ほど撃破すると敵は動揺を見せ始めた。
まぁエースが立て続けに落とされたら動揺ぐらいはするだろう。でも手加減はしない。
攻撃の手数が少ないが確実に数を減らしていく。
「さすがに高性能化が進んできて殲滅速度が落ちたな」
「ドムIIと較べて機動性が飛躍的に上がってるため狙いをつけるのに時間がかかってますね」
それも1対1や多対多なら問題ない程度の誤差でしかないが、1対多となると話は変わってくる。
1機を落とす時間が遅くなれば攻撃される回数も増える。そうすると回避行動を取るからそうなると余計に時間が掛かるようになる。
「今はまだいいけど、逆シャアあたりになると苦労が増えそうだな」
そうはいいつつも既にR・ジャジャの数は100機を切っていて、船団の4分の1は行動不能にしている。
ただ、1つ疑問なのはR・ジャジャとギラ・ドーガを較べた場合、ギラ・ドーガが本当に優秀なのかも疑問ではあるがな。
度重なる戦闘で熟練兵士を失っているはずのネオ・ジオンが高機動なモビルスーツを量産したところで使いこなせれるわけがない……実際目の前にいるアナハイムの私兵達も回避、逃げる以外にR・ジャジャを使いこなせているとはいえない。
使い勝手自体はドムIIの方が良さそうだと思うのは敵兵士の訓練不足か、それとも俺の考えている通り一般兵士の限界か。
「あ、私達を倒すのは諦めたみたいですね。時間稼ぎに切り替わったようです」
「最初からそうすればもう少し船を逃せただろうに……レインボーゴーストの畏怖も薄れてたのかな?」
それでもやることは変わらない。
R・ジャジャを撃って撃って撃ちまくる。
80機を切ったあたりで新たな敵が現れた。
「おっと、新型か。アナハイムも色々作ってんな」
それにしても見覚えのない機体だ。この世界の完全オリジナルか。
そもそもドム系列のデザインなんだからこの後はドライセン以外のドム系列は見覚えなくて当然だけどな。
ドムのランドセルの左右にでかいジェネレータが2つ、地上で見たならモビルスーツの可変せずに単機飛行を目指したモビルスーツかと思うところだが、ここは宇宙。
「そうなると——」
とりあえずビームで挨拶。
しかしやはりというか——
「ビームが拡散したな」
「Iフィールド搭載機……と言っていいのでしょうか?」
「搭載っていうにはお粗末だな」
外部取り付けしただけだろ。
あ、あのジェネレータ、もしかしてGP03のIフィールド・ジェネレータか……いや、違う?片方がIフィールド発生装置で片方がジェネレータなのかな。
まぁ何にしても。
「捕獲はしておくべきだな」
「ですね」
新型ドムを狙うために近づこうとブースターを吹かす……がR・ジャジャが邪魔に入る。
しかもちゃっかりIフィールド内に逃げたり出てきたりしてウザイ。
「スマートに倒そうと思わなければいくらでもやり方はあるんだけどな」
日頃あまり使わないから知られてないし、俺自身も忘れているが実弾もあるんだよ。
シールドから実弾用ライフルに持ち替えて弾をばら撒く。
ライフルとは言うもののマシンガンだから連射ができ、狙いはそこそこにして適当に撃つ。
1発、装甲を貫通、2発、動きが鈍くなる、3発、頭部を破壊、4発、爆発。
うーん、やっぱりスマートじゃないなぁ。
「1撃で終わらないあたり俺の趣味に合わないな」
「燃料的な意味でも無駄が多くなりますし、必要に迫られた時以外はいらない子ですね」
本当は攻撃力的な意味ではバズーカの類がいいんだけど、アレは迎撃される可能性を考えると効率が良いとはとても言えない。
9機ほどのR・ジャジャを片付けてようやく新型ドムまで辿り着くとライフルをこちらに向けている。
戦う気のようだ。
「お、実弾装備か」
「ジェネレータをギリギリまでIフィールドに回してるでしょうからエネルギー消費を最低限にしているのでしょう」
でもやっぱりお粗末だよなぁ。パイロットの腕前も機体自体も。
マシンガンの部類じゃレインボーゴースト(フルアーマー)は抜けないぜ。5秒もしない内に元通りだ。
「というわけでご苦労さん」
新型ドムのコクピットを出力を落としたビームサーベルで貫く。
「これで……あ、しまった。最低限の損害で捕獲したのはいいけど最低限過ぎてIフィールドが切れてねぇ」
「敵も撤退していますからちょうどいいのでは」
んー、半数以上逃すのは面白くないが今回は見逃そう。
下手に追撃すると新型を放棄しないといけなくなるかもしれない。
しかしこんな機体にどんな使い道が?護衛艦イージスの真似事か?いや、Iフィールドのテスト機と考える方が自然なんだが……なぜ地上へ運ぼうとしたのかがわからない。
「船団の護衛でしょうか」
「テスト機を護衛って」
「ないですねぇ」
結局考えても結論は出なかった。
ちなみにまき散らしたR・ジャジャはスタッフ一同で美味しくいただきました。