第二百二十六話
平和だ。
クリスマス休戦で一時的とはいえ世界が和やかな雰囲気を醸し出し、市場は活気づいている。
仮初の平和でしかないにしても休息は重要だ。
戦争……というより内乱か……で、全世界がいつ飛び火するのか(黒人は世界の何処にでもいる)戦々恐々、消費が落ち込み、経済が滞ってきて中小企業はそろそろ限界だったところをギリギリで間に合った形だ。
まぁいつも通り弱った中小企業を飲み込むアナハイム一人勝ち、さすが経済ヤッさんである。
一応ブルーパプワとマフティーも動いてるがいつも通りアナハイムには一歩劣る。
俺達が与えた損失はこの休戦期間で回復するという予想がされる……本当に化け物企業だよな。
「それでエゥーゴと暴動側の戦力はわかったか?」
「現状ではアッシマー3000、R・ジャジャ1000、ペガサス級の新型艦と予想されるものが3隻、航空機4000、タンクタイプ1400程度かと」
モビルスーツはともかく新型艦を3隻も簡単に出せるなんて……と呆れ半分感心半分といった感じに呟くマレーネ。
これが新たに配備された戦力だけであって、総戦力はどれだけあるやら。
「極悪な数だな。エゥーゴと暴動にそれほど支払い能力があるとは思えないのに」
「どうやら占領した国の国宝や重要文化財などを売って資金を確保しているようですね。他にも鉱物や動植物なども売られてます。そして1番多いのは人ですね」
ああ、今は戦争や内乱続きで人口が減少傾向だから人間の価値が上がってるから値がつくのか。
これが独立戦争以前なら二束三文で売り物にならなかっただろうけどな。
人身売買とは……さすがアナハイム、汚い。
「クローン兵を作ってる私達が言えた義理ではありませんけど」
大丈夫、バレなければいいのだ。バレなければ。だからこそ防諜には力入れてるわけだしな。
「どうやら強化サイボーグの生産と研究に回すようです。あんなものが大量生産されては世界がめちゃくちゃになりそうですが」
うへ、クローン兵vs強化サイボーグなんてもう道徳崩壊待った無しって感じだな。道徳なんて投げ捨てるもの。
トレーズ閣下が激怒しそうだ……いや、一応人間同士ではあるから許容範囲だろうか?
「幸い、今のところ強化サイボーグの追加配備は確認されていません。恐らくブルーニー様達が暴れたおかげで護衛に回されているのでしょう」
「ティターンズも海賊してるっぽいけどな」
強化サイボーグは死神の衣を前線に投入すれば大して問題にならない。
しかしティターンズの総戦力は旗艦ペガサス級ヒューベリオンとガルダ4、ミデア数不明、βタイプ70、量産型β2100、航空機2000、αタイプ920、タンクタイプ300と明らかに劣っている。
死神の陽炎から1000が追加されたところで数字上の劣勢は覆らない……まぁあくまで数字上は、だけどな。
マリオンズが参戦できないが、その代わりにクリちゃんを始め、はにゃーん様(小遣い希望)、リリーナ、黒い三連星、ゼロ・ムラサメ、そして初陣を飾るサラ・ザビアロフが参加する。
初陣のサラは心配の種だが、一応マリオンズブートキャンプを卒業生して今回はクリちゃん、はにゃーん様、リリーナの3人と組むことになっているので死ぬことはあまりないだろう。
そして今回はなんと、更にキシリア部よりマリガンを指揮官として赤い詐欺、クスコ、アスナ、サイクロプス隊(ガルシアを除く)が参加する予定になっている。
グラナダ特戦隊やキマイラ隊はお留守番だ。
なかなか豪華なキャストだな。素でニュータイプが5人(サラは微妙だが)もいるなんてな。
キシリア部が設立されて初めての戦争という点に不安を感じるが、命令系統は統一されているので大丈夫……なはずだ。
マリガンは同じ転生者だし、たまに話す機会があったが頑固さや自己顕示欲などはあまりないようなので支障はないはず……あ、副官のシムスがうるさいって愚痴ってたな。念の為に出陣前に凹ますように指示しとくか。
ちなみにグラナダ特戦隊が外されたのはこちらの指示を聞きそうにないからだとキシリア自身が語っていた。
キシリア自身が持て余すとは……これだから狂信者は。しかもグラナダ特戦隊達は俺達が外したと思っているらしく、不穏な空気を漂わせている。
ちょっとお仕置きが必要かもしれないな。犬の躾はきっちりしないとな。
「シミュレーションの結果は」
「大体60%はこちらの勝利に終わるそうです。ただしこれは最悪の事態を想定してのもので、敵が全て強化サイボーグであった場合です」
つまり現実的ではない数字なわけか。
「もし一般兵が通常のものと変わらず、トラブルがなにも起きずと仮定した場合勝率は80%を超えると思われます」
まぁそんなもんだろうね。
90%は夢見すぎか、戦場だと何が起こるかわからない。
「何よりエゥーゴのほとんどのエースは捕獲してますから、陽動も掛けずに攻撃を仕掛けても包囲網状態に陥ったとしても突破することは可能でしょう。アナハイムが新兵器など出さなければですけど」
「新兵器か」
ノイエジールの設計図が出回っているので派生機や流用された機体が作られていても不思議ではない。
ただ、モビルスーツやモビルアーマーの類なら問題ない。
問題なのはサイフラッシュやコロニーレーザー、ソーラレイなどのような広範囲を攻撃が厄介だ。
念のため宇宙を入念にチェックしておかないといけないな。ジオンがコロニー落としなんてしたもんだからありえないと思えるような攻撃を想定することになった。
「特にルナツーがチェックか。連邦の重要拠点だが、だからこそ奇襲に使われるかもしれない」
「まさか……」
心配しすぎならいいんだけどね。
ルナツーを中国あたりに落とせば資源の宝庫が消え去り、相対的にはアフリカの価値が上昇する……なんてことが考えられなくはない。
星の屑作戦で北米の穀倉地帯を破壊して宇宙への食糧依存度を高めることを目指したことがあるからなぁ。
さすがにそこまでしないと思うけど。
クリスマス。
それはリア充が公然とイチャイチャイチャイチャイチャイチャする誰かさんの誕生日だ。
街中が砂糖と蜂蜜とグラニュー糖と水飴を混ぜたような空気になるというのに今年は何処かピリピリした空気がある。
いくら休戦状態であっても争っているのには変わりなく、黒人と白人の間には深い深い溝が生まれている。
一昨日にも白人の警察官が犯人と思われる黒人を無力化した後に暴行した動画がネットで流れて大変なことになった……いや、現在進行形で『いる』が正しいか。
これにより傍観、静観していた黒人のいくらかが暴動側に合流していると聞く。
誰かさんが泣いているぞ!
「モビルスーツでサンタクロースとか、本物のサンタクロースが泣いてますよ」
「サンタクロースの心は広いから大丈夫だ。心広くないとプレゼントとかくれるわけないしな。」
ブルーニーサンタ参上!
プレゼントは一律でハロだぞ。悪い子はプレゼントに捕縛される運命にあるということだな。
風雲再起が居たら是非ともトナカイの格好をさせたい。……まぁ全力で逃げられるか抵抗されると思うけど。
もっとも風雲再起の全力の抵抗とか俺達ですら耐えられるかわからないがな。
1つ言えることはこの時代の普通のモビルスーツなら粉砕間違いなしということだ。
「サンタさん!プレゼントください!」
「そう言って昨日も一昨日もその前も上げたよね?まぁ用意はしてるんだけどね」
ミサイルランチャーからハロが飛び出ていくのをコクピットで眺めつつ、脇においていた袋をゴソゴソ。
さすがに3日連続でプレゼントを用意することになるとはね。入念に用意していてよかった。
やはりこういうのは多く用意しておくに越したことはない……マリオンズにも渡したからすごい数になったが、それも予想の範疇だ。
「おおー、ブルーニーさんぬいぐるみですか!」
何がいいのかは俺自身はわからないが喜んでくれているようでよかった。
フィギュアとかガンプラならあるんだけどぬいぐるみは今までなかったから特注だぜ。
「というかどこまで俺尽くしにするんだ?」
ちなみに昨日あげたプレゼントは俺のイヤリングで一昨日はネックレス、3日前は缶バッチだった。
さすがに自分でもどうかと思ったんだけどアイナやメイの勧めでこうなったんだよ……他はともかく缶バッチは微妙じゃね?
「いいんですよ。ブルーニーさんグッズはいくらあっても困りません!」
無くても困らないものだと思うんだけど?
このプレゼント、マリオンちゃんだけ特別にすると怒られるのでマリオンズ全員分用意してある。
自分で自分を布教しているようで恥ずかしい……これって罰ゲームじゃね?マリオンちゃんズが喜んでくれてるから我慢するけどさ。