第二百二十七話
12月25日。
5が6へ変わった瞬間に束の間の平和から終わるための戦争へと移行した。
ティターンズの旗艦ヒューベリオン、エゥーゴの旗艦アーガマからそれぞれ号令が発せられる。
すっかり空が主戦場となったため激突はかなり早いもので、開始から1時間もしない内に両軍が火砲を交える。
大型の円盤アッシマーと戦闘機のようなβタイプと量産型βが命を削り合う。
質と量の戦い、大体においては量が勝ってきた。
だが、近年では話が変わってくる。
その代表的な存在はもちろん死神の陽炎だ。
「接触した地上部隊が次々沈黙していきます!」
モニターに映しだされた戦術シミュレータのエゥーゴの駒が次々とlostと表示されていく。
「敵部隊死神の衣と確認。作戦を発動します」
あまりに撃墜が早すぎて敵の確認が取れず、作戦発動が遅れて予想より被害は大きくなったが死神の衣相手にこの程度は許容範囲だ。とラーディッシュで前線の指揮を執るヘンケンは割り切る。
アーガマと共に送られてきたアイリッシュ級戦艦ラーディッシュだが、原作では大気圏内で運用を前提としていないがこの世界では宇宙のほとんどをジオンが支配しているので大気圏内で使えない艦は既に旗艦バーミンガムと空母の役割であるアレキサンドリアが存在するためあまり需要がないため大気圏内でも航行可能となっている。
そしてエゥーゴが打った手はIフィールドジェネレータ搭載したドムであるドムifが投入された。
死神の衣のほとんどはビーム兵器に頼ったものであり、Iフィールドの前には無力……とまでは言わないがかなり防ぐことができる。
それを盾にしてエゥーゴは実弾武装や砲撃で集中砲火を仕掛ける。
「これがブルーニーさん達が拾ってきたって言っていた機体ね」
また面倒なものを作ってくれたわね。と溜息を1つ漏らす。
エゥーゴからの攻撃は砲撃は当たらず、マシンガンなど連射性が良いものは当たったりしているがそれらは攻撃力に乏しく、撃破に至ってはいない。
「ま、Iフィールドが複数のビームを受けると貫通するってことがわかってるからどうとでもなるんだけどね」
サイコタイプは火力に優れているのでIフィールドを突破するのはそれほど難しくはない。
それを証明するようにIフィールドに頼りすぎて無防備に姿を現しているR・ジャジャを撃破する。
だからと言って問題がないというわけでもない。
「このままじゃエネルギーが保たないわ」
ドムifを優先して倒せばいいだけだが、それは運用側もわかっていることで後衛から動こうとしない。
エゥーゴは死神の衣を正面から相手しようとは思っておらず、自軍が多いことを活かして死神の衣を足止めに徹し、他の戦場で有利に進めるというのが作戦なのだ。
「死神の衣の進行が遅くなりました。Iフィールド発生装置を搭載したモビルスーツが存在するようです」
「ふむ、さすがに対抗策を考えてきたか。死神の衣が止められたとなれば他で勝負する気か」
それを読み切ったジャミトフは味方の配置を数で圧されないように変更する。
ティターンズとエゥーゴでは致命的な違いがあった。
それは正規軍で固められていることと非正規軍も混ざっていること、正規軍で固められているティターンズは複雑な指示にも適応し、難しい判断を自己で下す。
しかしエゥーゴ自体は正規軍であるが暴徒が数多く参加している上に、更にアナハイムの私兵、ブレックスが親ジオン派なのでそのツテで雇ったジオンの傭兵などが入り混じり、複雑な指示を出せず、出そうものなら混乱しかなく、連携も散々だ。
更に佐官クラスの有能な指揮官がクワトロとリリィ(シャアとララァ)、ロベルトぐらいしかいないことも拍車をかけている。
「くっ、不死身の第四小隊がいなくなったのは痛いな」
主戦場は空ということで今回はアッシマーに乗るクワトロは苦々しく呟く。
不死身の第四小隊が無事なのはクワトロも知っていた。だから優先的に解放するように上に要請して話は通した。
問題はブルーパプワとの交渉にあった。
ティターンズも不死身の第四小隊の功績を知っていて簡単には返さないようにと話があったが、ブルーニー自身が死神の陽炎に引き抜きを画策していて、直ぐには返したくないという思惑が合致した結果だった。
ちなみにコウとキースのことまではクワトロも知らず、後回しにされたのは余談だ。
「何を考えているかは知らないが私を前に集中しないとは余裕だな」
βタイプを操るシロッコがクワトロを狙う。
「ええい、また貴様か!何度来てもララァはやらん!」
「貴様さえいなければ後はマリオン様が説得(洗脳的な意味で)してくださる!」
別にマリオンが望んだわけでもブルーニーが望んだわけでもないのに突っ走るシロッコといい加減付きまとわれてうんざりするクワトロとリリィ。
リリィもアッシマーを操縦しているがあまり適正があるとは思えない動きにシロッコは付け込んで攻撃をするとリリィほどでなはないが不慣れなクワトロがフォローするのでそこを重点的に攻める。
シロッコはメッサーラなどという可変モビルスーツを開発しただけはあり、βタイプを見事に使いこなしてティターンズの中での実力は抜きん出ているので数が劣っていても有利に事を進める。
「とっとと落ちろカトンボ!」
「やられはせん!やられはせんぞ!」
(ドラマとかアニメとかなら『私のために争うのはやめて!』って言える状況だけどあの男の人が言っていることは私には処刑契約書にサインしているようなもの。徹底抗戦を辞さないわ)
いつもとは違い、戦闘機に近い戦いを繰り広げる。
しかし急に可変モビルスーツが配備されて訓練もままならなかったクワトロは機体に慣れきれず、致命傷ではないがビームライフルが数発掠ってしまっている。
時間が過ぎれば過ぎるほどクワトロのアッシマーは傷だらけにしていき、それはリリィも同じであった。
懸命に回避と反撃を繰り広げていたが避け続けたが、ついにチャンスが訪れた。
「これで終わりだ!」
それは変形をして加速を付けようと思ったのは間違いではなかったが、ただし相手が普通ではない場合に限る。
今回は相手の技量では無謀というものだ。
目の前で安易に変形をしてしまい、シロッコは当然のようにライフルの照準をあわせ、指が引き金を引こうとして最後に一言。
「最後だ」
クワトロは自身が不覚を取ったのをすぐに理解して、なんとあがこうと時間が足りない。
これで仕留めた。そう思った。
「させないわ!」
そこに割って入るのはクワトロの愛人と目されているレコア・ロンドだ。
真実はどうなのかわからないが、クワトロの危機的状況を助けたのは事実で愛人関係なのか他人なのかは関係ない。
「また女性か、英雄色を好むというが……」
「あなたには関係ない!」
「そういう気が強いところは私好みだ」
「えっ?」
そういえばマリオンちゃんが言ってたペガサス級の新型ってアーガマだったんだな。
アーガマはアナハイムから言わせるとペガサス級じゃないけど。
「アナハイムも紛らわしい艦を作らないで欲しいです」
「まぁ同艦でペガサスIIIがあるから間違いではないんだろうけどな」