第二百二十八話
シロッコvsクワトロ、リリィ、レコアが激戦している影でもう1つ激戦区があった。
それはペガサス級サラブレッドに所属するジェリド・メサ、ライラ・ミラ・ライラ、マウアー・ファラオのハーレムパーティとエマ・シーン、フォルド・ロムフェロー、ルース・カッセルのZと閃光の果て混合パーティvs強化サイボーグである。
ティターンズ側のサラブレッド隊は全機がβタイプで構成され、機動力に優れた部隊として編成されている。
その機動力は前線で暴れる強化サイボーグへの対応するために用意されたものだ。
エース、準エース級が集められた意図は、今までの強化サイボーグの傾向として3機編成であり、エース級でも1:2、1:3なら当然劣勢、1:1であったとしても撃破に相当時間が掛かることから数で劣るティターンズのエース達が拘束される時間が増えるのも問題だが、何より各個撃破される可能性が高くなる。そうなると質が著しく低下し、戦線が維持できない可能性が高くなる。
ならば最初から切り札を集め、出てきた強化サイボーグに倍の数で当てることにより早期撃破を狙おうというのがティターンズの策だ。
そして今、サラブレッド隊と強化サイボーグが激しい戦いをしている。
ただし……ティターンズの思惑とは違う形で、だ。
「やっぱり戦争ってのは思った通り行かないもんだね!」
ハーレムパーティをまとめるライラは舌打ちをする。
「ライラァッそっちに1機行ったぞ!」
「何度も言ってるだろ!隊長って呼びな!」
今、彼らは自分達より倍の強化サイボーグを相手している。
実は強化サイボーグが3機編成なのは相手が対処するまで待っていただけで多少連携が拙くなるものの数を増やしても問題ないのだ。
そしてエースや準エースは決まってβタイプで、量産型βとはデザインが全然違う為すぐに作戦は露見する。
それに比べて強化サイボーグが操縦するのはノーマルのアッシマー、ティターンズ側が察するにはアッシマーの動きや射撃の精度、被害の多さなどから判断するしかない。
つまり、判明した強化サイボーグの周りに他の強化サイボーグが潜んでいても気づかないということだ。
平たくいえばティターンズはまんまと罠に掛かったわけだ。
「ジェリド、そんなに突っ込むんじゃない。早い男は嫌われるよ!マウアー、フォローしてやりな」
「お、俺は早く——「了解。そんなこと誰も気にしないから無茶をするな」——くっ、わ、わかっている!」
ハーレムパーティのヒエラルキーはライラ>マウアー>>(シーナ)>>(ローゼ)>>(マリア)>>ジェリドである。
超巨人化も硬化もできないジェリドに打ち破ることはまず不可能だ。
「エマ達は……そちらも余裕はなさそうだね」
「ええ、こちらも手一杯です。何より……コラ!フォルド中尉!またそんな無茶な機動して!」
「エマ隊長細か過ぎ、俺の母ちゃんか。そんなに怒るとシワが増えるぜ」
ピキピキピキッという音がエマから聞こえた気がした。
原作では重力下での戦闘は苦手だったフォルドだがティターンズに入隊してから鍛え直されて、今となってはエース級だ。
ただし死闘に揉まれてないためゲーム感覚が抜けないでいるままであるため真剣味が足らず、連携こそ上手く言っているがコミニュケーションは上手く行っていない。
もっともフォルドの言い分では真剣にやってたら精神がバカになるし、何より独立戦争を経験していないエマが隊長であることに納得がいっていないということも含まれている。
それをエマも理解できるためある程度の失礼な言動も見逃しているのだが……限界はある。
ルースは溜息を漏らしつつも黙々と強化サイボーグを仕留めようビームライフルを1発撃つが命中はせず、それどころか反撃のビームが肩に掠り、少し融解したことに舌打ちする。
しかし反撃した強化サイボーグの隙を見逃さすにエマが撃ち落とし、その裏でエマを狙っていた別の強化サイボーグをフォルドが一刀両断する。
改めて言うがコミニュケーションは良くないが連携は良いのだ。
思ったより早く2:1の構図は崩れた。だがそれでもまだ強化サイボーグの数が多いためまだ時間がかかりるだろう。
空の全体の状況はエースを欠いているにも関わらず優位に戦いを進めていた。
やはり練度の差が出ており、部隊同士の連携ではティターンズが1枚も2枚も上で未熟な暴徒達を始末し、勢いに乗った上で連携の隙を突いてエゥーゴまで次々と食らいついていく。
強化サイボーグさえいなければエゥーゴ側は大した戦力ではない。ライラ達が戦っている強化サイボーグ以外にも少しいるがなぜか3機編成ではなく、それぞれ個別に動いているため派手な戦果はないのが現状だ。
なぜ個別に動いているかというと強化サイボーグの3機連携がバレているという前提で一般兵に紛れ込ませて目立たないようにし、一気に——
「前線が突破されました!本艦まで後100!迎撃部隊……!突破?!」
「ふん、我らを甘く見るのはいい。しかしだ……奴らを甘く見過ぎだ」
ジャミトフは面白くもなさそうに呟く。
そしてその言葉が攻撃だったかのように強化サイボーグの操るアッシマー6機全機が突如爆発する。
「敵……撃破を確認」
「さすが死神の衣、鎌でなくてもこの安心感は戦場では感じられんものだな」
攻撃はスナイパーライフルによる最大射程からの狙撃だ。
行ったのは死神の陽炎、地上にいるサイコタイプの集団リリーナ率いる元連邦のスナイパー部隊だ。
アッシマーの装甲はスナイパーライフルの最大射程では減衰と分厚い装甲で貫通するかしないかという程度でしかなく、普通に狙撃しても進行を止められなかっただろう。
しかしリリーナ達は丈夫ではないブースターを狙撃することで1回で撃破することに成功したのだ。
「もっとも安全とわかっていても囮など2度とごめんだがな」
強化サイボーグは旗艦が前に出すぎていた上に、防衛戦力も乏しくて絶好の機会とみて攻撃を仕掛けてきたが、実はこれは誘いだったのだ。
普通は強化サイボーグが一般兵と区別がつかないことと、死神の衣がいくら識別できるとはいえ真正面から戦えば逃げ回れたりすると倒すのに時間が掛かる。
それらを省くためにジャミトフには前線付近に立ってもらい、敵をおびき寄せてもらうことにしたのだ。
そのおかげで楽に強化サイボーグを撃破することが出来た。
役目を終えた旗艦ヒューベリオンを後退して指揮をとることに専念することする。
そして本格的に空の死神の衣が動き出す。
強化サイボーグも数を減らしているはずで、安全に狩りを行えるようになり、死神が飛び立つ。
ハマーン率いる死神の衣は敵と接触すると一瞬にして敵を溶かす。
ゼロやサラもその中にいる。
「ハァハァ、これが、戦場……」
何回か戦場を経験しているゼロはともかくとしてサラは初陣、あのハマーンすらも初陣は動揺したのだからサラが動揺しないわけもなく、動作に繊細を欠いたが協調性に薄いゼロがフォローに回り、なんとか戦うことができていた。
「強化人間を遊ぶ存在……アナハイム、貴様は俺が許さん!」
自分と同じ存在を弄ぶ存在に静かに怒りを感じるゼロだがブートキャンプに参加してから不安定さがなくなり、その証拠が怒りながらもサラの支援だろう。
「さあ、久しぶりの出番だ。気合入れていくぞ」
「貴方に言われなくても全力を尽くすわ」
「ク、クスコさん、そんな言い方しなくても……」
そしてもう1つの初めてである死神の陽炎として活動するキシリア部。
死神の衣からすれば味方として不安しかないが何事も最初は不安であるものだというブルーニーの推薦で決まったものだ。
「ブルーニーの面に泥を塗るなんて戦死した方がマシな未来しか見えないから全力で戦うように」
「「「了解」」」
返事の声が全員震えていたのは仕方ないことだろう。