第二百三十五話
0088年という新しい年を迎えた。
そして新年早々にティターンズが連邦の主導権を握ったことを大々的に知らしめるために連邦の軍権のほとんどをティターンズへ移譲された。
地球連邦という名前こそ残っているが、軍権がない組織がリードすることなどできるはずもなく、実質ティターンズの手下と成り下がったわけだ。
そして行われたのは独立戦争後に放置されていた本格的な復興政策をジャミトフ主導のもと開始された。
文民統制?そんなもの知らん、とばかりに軍が政に関わることになるが……まぁ連邦も似たようなものだったから特に問題は起きなかった。
さて、ジャミトフが復興政策に乗り出したのは復興が放置されていることもあるが、なにより人種差別という大きな溝を好景気で押し流そうとしているんだろうな。
人間、忙しくなれば余計なことを考え難くなる。
それに地道に情報操作をして今回の暴動の裏にはエゥーゴがいた、なんて模造をしていたりする。
そんな生け贄を捧げたことにより世界の空気は少し柔らかくなった……ような気がする。
復興政策の第1弾として行われたのは道路の整備で、これには俺達も何枚も噛ませてもらっている。
今回は珍しくインフラ整備をメインとした参入だ。
いい加減軍需だけでは駄目だろうと本格的に海外進出を行う。
特別地区内やジオン地球領、オーストラリア、南中国などでもそこそこの規模をやっていたが今回の参入はレベルが違う。
何処かの誰かが問答無用で荒らしまわったアフリカの東、南東の大部分のインフラ整備を請け負うことになった。
何処の誰かは知らないがよく暴れてくれたものだ。
この仕事は割りとすんなり決まったが、それには理由がある。
元々アフリカ東、南東の暴徒鎮圧と治安維持は死神の衣がして、ティターンズはノータッチだった。
現状は死神の衣の圧倒的武力を前に鎮まっているが、そのせいで反抗的な感情を持つ民衆がどの程度存在するのかなどが不透明であり、他の企業が参入することに躊躇してしまったということから、なら1番現地を把握しているであろう俺達のお鉢が回ってきたわけだ。
……簡単にまとめると、凄く面倒なんで治安維持ついでにやってくれ、ってことだな。
まぁそのあたりは担当に任せてるから俺やマリオンちゃんズには関係ない話だ。
そんなどうでもいい話は置いておくとして、俺達は大事なイベントの真っ最中なんだよ。
「まさかナンバーズがマリオンの分身?とは……サイコミュを調整する際に脳波パターンを見て、マリオンのクローンだと思っていたが超能力の類とは思いもしなかった。ぜひ研究させてもらいたい……が私はまだ死にたくはないから遠慮しておこう」
「なんでギニアス様はそれほど落ち着いているのですか、私など未だに混乱から立ち直れませんよ」
「……マリオンがいっぱい、最強」
(セラーナは怖いもの知らずで羨ましい)
今年から幹部を呼んでマリオンズ誕生会を開くことにした。つまり、幹部全員にマリオンズの存在を知らしめることにしたのだ。
理由は色々あるが、1番の要因は特別地区の結束力(という名の脅し)強化だ。
元々ナンバーズという存在は俺とマリオンちゃんに次ぐ……いや、民衆達にとっては俺達以上の存在として知られている。
それがマリオンちゃんと同じ存在であり、死んでも復活するという事実は衝撃を与えることに成功した。
……まぁ、マリオンちゃんズが死ぬことなんてあるか疑問だけど。
ただしヒーリングに関してはまだ開示しない。こっちは暴露すると面倒事が増えそうだからな。
親しい者の死の前には軍機とか機密など紙屑……とまでは言わないが、リスクもなく回復させられるとなると遠慮などなくなることは目に見えている。
そうなると燃料消費もだがマリオンズの忙しさが現在のものなど比にならないものになる。
ちなみにこの場にいるメンツはギニアス、アイナ、シロー、シーマ、コッセル、黒い三連星、はにゃーん様を除くカーン一家となっている。
はにゃーん様が外されたのはもっと面白い暴露の仕方を考えているからだ。ハブっててちょっと可哀想だが……今頃オタクの聖地で給料を減らしていることだろう。
それにしてもセラーナはよくわかってるな。
マレーネやマハラジャなんかは頭を抱えているというのに。
「ブルーにーさんも最強」
これも教育の賜物というやつだな。
どうもセラーナは最近俺の呼び方がおかしい。
まぁイントネーションの違いぐらい細かく訂正しない、俺への愛称なんて誰も付けてくれないからな。
「ブルーにーさんは将来私の嫁」
「絶対なりませんから!私が断固阻止します!」
そしてセラーナの愛が重いです…………って、ええぇぇ?
何、その突然の爆弾発言。
そして過剰に反応するマリオンちゃん、いや過剰じゃないか。初めてのライバル出現だからな。
マリオンちゃんはいつも俺にベッタリで依存と言ってもいいほどのベッタリだ。
俺もそれが嫌じゃないからベタベタのベッタンベッタンなんだが、ここに来て対抗勢力の登場に過剰反応しても仕方ないだろう。
セラーナの好感度は最初からなぜか高かったが、ここのところ更に上昇傾向にあり、マリオンちゃんとガチで正面から戦いを挑んでいる。
モテるモビルスーツは辛いにゃ〜……なんて言ったらマリオンちゃんズから音が遅れて聞こえて来る正拳突きをもらうことになるので言わない。
そしてマリオンちゃんに正面から喧嘩を売ったセラーナだが1番心臓が痛い思いをしているのは間違いなくマハラジャだろう。
セラーナが無事生きて帰れたなら改心させるためのお説教が待っているに違いない。
そしてワイン片手に興味津々と見ているサハリン兄妹に、苦笑いを浮かべて観戦しているシロー。
全く気にしないで酒を楽しんでいるシーマとコッセル、黒い三連星。
騒ぎ立てないだけマシか?
「ダメ?」
セラーナが上目遣いであざとい。
「ダメです!」
相手が俺や他の男なら通じたかもしれないが今相手しているのはマリオンちゃんだ。そんな攻撃が通じるわけがない。
しかしそれでも諦める様子がない……なにがそこまでセラーナを掻き立てるのか。
俺も好かれて嫌というわけではないがマリオンちゃんが嫌がることをするつもりはない……そもそもなぜ俺が嫁なのかツッコミたい。
「仕方ない……妾で我慢する」
「セラーナ!どこでそんな言葉を覚えた?!」
ここで堪え切れずに動いたのはマハラジャだ。片手で心臓か、もしくは胃だろうか、を押さえながらセラーナを止めに入る。
マリオンちゃんも絶句しているし、シローも絶句していた。
サハリン家は至って普通……いや、よく見るとアイナがシローを睨んでいる。浮気は男の甲斐性だなんて風潮は特別地区には欠片もないから大丈夫なはずだぞ。
そもそもちょっと女癖が悪かったり、噂になるとマリオンちゃんズに処理されるはずだからある程度は安心していいはずだ。
それとシーマ様達も飲み食いしすぎじゃね?そんなに食べると太るぞ。
軽く現実逃避をしているといつの間にかセラーナはマハラジャとともに何処変え消え去っていった。
とりあえず問題の先送りに成功したようだ。
きっぱり断ることもできるがまだまだ幼い子どもが言うことだから真に受けるが損だぞ。
「いえ、今のうちに目を摘んでおかないとのちのち面倒なことになりそうですよ」
「大丈夫。マリオンちゃん以外に俺が靡くわけないだろ」
それに何よりまだロリコンの域に入るセラーナだぜ。
最低限、もう少し大きくなってから来ないと俺も犯罪者になってマリオンちゃんズに狩られることになるから注意が必要だ。
……シロッコには注意が必要だったな。セラーナでも遠慮無く狙いそうだし………その場合は断固として駆除だな。
恋愛対象かはともかく、俺達も面倒を見てきたこともあって、ただただ手放すというのはさすがに惜しい。
「これで少なくとも時間が生まれたな」
「それでどうするんですか。セラーナは随分真剣なようでしたけど」
「麻疹みたいなもんだろ。時間が経てば治るさ」
男は中二病、女は恋煩い、時が経てばハッキリするさ……それにしても俺は機械と謎の成分でできてるモビルスーツけど、セラーナもそれでいいのかね。
「もうせっかくマリオンズのお披露目なのになんでこんなことに」