第二百三十六話
セラーナの思わぬ告白に頭が真っ白。
マリオンちゃん以外にも好かれるとか予想外です。
そしてマハラジャの説教したかいもなく、俺達の部屋によく訪れるようになった。
「マレーネ姉様は応援してくれた」
マレーネ、応援するなよ。
絶対面白がってるだろ。
ちなみにセラーナが来るようになった最初の内はマリオンちゃんが優しく追い出していたんだが、仕事の手が止まって遅れるので割りと早く諦めた。
というわけで結構な時間部屋に居着くようになったセラーナは俺達が仕事で忙しい時は大人しく部屋の隅っこで勉強し、たまに書類を眺めたりと節度を守っているのでマリオンちゃんに再度追い出されるということはない。
元々セラーナはそれほど喋らないのだが無言の強引さは持ち合わせているようだ。
まぁ多分セラーナが抱く恋心は『大人になったらお父さんと結婚する』というよくあるものだと思——ん?
「セラーナ。お前、何歳になった?」
「17歳」
……あれ?
いつの間に大きくなった?もしや俺達が人間じゃないから成長を無視していたのか?
……あ、そういやはにゃーん様、21歳じゃん。
あれ?もしかして覚醒しそこねた?
「というか成人式はどうした」
「成人式っ?」
「へ?」
セラーナが首を傾げる……成人式を知らない?……ハッ?!もしかして……やっぱりか、調べてみたら成人式って日本だけの行事だったのかorz
それにしても時の流れというのはあっと言う間だなぁ。
「……現実から目を逸らしてる場合じゃないですよ!セラーナちゃん、ガチじゃないですか?!」
あ、マリオンちゃんも今になって焦ってるってことは気づいてなかったのね。
「本気」
「みたいだな」
本気度合いは伝わってくるんだけど、それに比例してめっちゃ困るんだが……どうしようか?
本来人間なんだから寿命があるから、とかいう理由で追っ払えたんだけど残念ながらヒーリングで半不老を実現できる。
まだセラーナは知らないがアイナやシーマ様などが知っているから本当に本気なら情報が伝わるのも時間の問題だろう。
「どうしようねぇ」
正直恋愛面で好き嫌いとかは特に無い。
唯一あるのはやはりペット的可愛さだ。しかし他とは明確に違うところもある。
俺は猫派だが、自分で飼ってる猫がセラーナ、幹部はご近所の猫、特別地区の民衆は野良猫といった具合か。
どの程度違うかというと飼ってる猫は何か作業して邪魔してきても許せる、ご近所の猫は定期的に餌をやって、懐かなくても許せる、野良猫は眺めるだけ。
……うん、自分で言っててよくわからん例えだな。
ちなみにティターンズとジオンは俺が唯一好きな犬種の柴犬だ。
連邦はブルドック、エゥーゴはパグだったりするがこれは余談だな。
つまりまとめると人間の中ではセラーナは上位にいるんだわ。
あまり出番がないように思えるだろうが結構色々な場面で近くにいたんだけど寡黙だからわからないだけだ。
その寡黙さもあって今まではマリオンちゃんから嫉妬を受けること無く、むしろ懐の中に忍び込んでいたわけだな。
「……成人まで保留」
「まさかセラーナちゃんに気を使われた?!」
……大人になったねぇ。
いや、でも人間とモビルスーツって無理じゃね?受け入れるかどうか以前の問題として。
マリオンちゃんぐらい生身に近かったらもう少し考えるんだけど……ねぇ?
「さすがにモビルスーツ、ロボットと恋愛はなくない?」
「ありです」
バッサリ。
なんか、女帝の妹だと認識させられるオーラを放ちつつバッサリ切られました。
これまでに感じたことないやる気の満ちたオーラを放ってるぞ?!
「ブルーニーさんブルーニーさん、私のヒロインの座がピンチです!」
「ヒロインなんて自分で言っちゃダメだ。サブキャラに降格するぞ」
「いや〜〜!」
冗談だけどね。
マリオンちゃんがサブキャラになるわけがないじゃないか、常に一緒にいるのにサブキャラとか。
しかし、ここからセラーナがレギュラー入りするのか?ガンダムは16歳ぐらいからが本番とは言ってもなぁ。
「成人してから本気出す」
俺もマリオンちゃんも冷や汗ダラダラ。
あれ、俺達ってサイキョーのはずだよな?なのに今のセラーナに勝てる気がしない。
「……さて、仕事するか」
「そうですね」
「……タイムリミットは遠い……ようで近い」
ガクブルが止まらないぜ。
これが彼女に婚姻届を叩きつけられた時の恐怖か。
小さく強大な問題が発生したが今年は経済復興の始まりの年。
軍需産業的には不況に突入するはずだったが空母開発に加えて、空中戦が主体となって需要が増えたサウート(ザウートっぽい砲撃機のこと)、これからの主力となるβタイプと量産型βの生産などまだまだ不況とは縁遠い。
ジェットコアブースターもオーストラリアと南中国でライセンス生産を始めて復興支援となっている。
ティターンズが地球の主となったことでアナハイムのシェアも激減、逆にジャミトフやジャマイカンなどの利権を拡大させつつも連邦のように独占しない程度に分配し、今のところティターンズは世論を味方につけることに成功している。
このまま行くと地盤固めが上手くいくかもしれない。
アナハイムのシェアが減少したとは言っても完全に頼らないなんてことは不可能で、影響力はまだまだ存在する。
そうそう、アナハイムといえばブルーパプワで捕虜となっているハヤト・コバヤシを始めとするスターダスト組解放のために身代金が届く。
……エゥーゴ残党はどうやらアナハイムに匿われているらしいな。じゃないと捕虜解放のための金なんて出さないだろ。
本来暴動で捕らえた捕虜はほとんどティターンズに引き渡したんだが原作キャラはちょっと惜しいので仲間に入れるべく、しばし説得期間をもらうことにしたのだ。
ハヤトはこちらに協力するのが嫌がったのでエゥーゴの身代金を受け取って早々に返した。
スターダスト組は説得した結果、体験入隊という形で死神の陽炎に参加している。
ただしキースは除く。
キースはよほどアプサラスが怖かったのか精神がちょっと病んだようで、たまに天井をみてアハハッと笑ったり、誰も居ない空間に話しかけたりするので病院で治療中だ。
え?ヒーリング?いくら怖くてもマリオンちゃんを攻撃したやつをマリオンちゃんの手を煩わせた上に燃料使ってまで治そうとは思わない。
そもそも精神異常は治る時と治らない時があるから治る保証もないがな。
「シナプスさんは特別地区の奇襲部隊であることを除けばスカウトしたい人ですね」
「佐官クラスが全然足りないからな」
一応教育はしてるんだけど、経験のある佐官はみんな忙しいから片手間程度の教育しか施せない……1番の要因はジオン佐官が多く、根が真面目な奴がいないせいだと思うがツッコんだらきっと負け。
その点、シナプスは堅苦しすぎず、軍人らしく、有能で是非スカウトしたい。
そういう意味ではパイロット連中は特にいらない。
5人で連携してクローン兵を防ぐだけで手一杯とはいえ10人相手できるのは凄いが、クローン兵だから20人でも30人でも追加すればいいだけなんだよな。
火星のクローン生産工場ができれば兵士には困らないだろうし。
それに何よりクローン兵が成長してきて最近では差を埋めつつある。
だから引き抜きに関してはあくまで原作キャラコレクションの意味でしかない。
もっともサウス・バニングがあの年齢でニュータイプ覚醒しているのは驚きだがな。ブートキャンプに参加すれば更に優秀なパイロットになるだろう。
「とりあえずハヤトを返したことで返還の意志があるということは示したからここからは時間を稼いで説得するかな」
「あくまで残るのは自由意志ですからね」
でもモンシアはいらないかな?マリオンズの尻を触ろうとしたし……もちろん触れる前に手を払いのけて、その拍子に手首、肘、肩の関節が全部外れた上に鳩尾に1発叩きこまれたけどな。
さすがにそれ以降は不埒なマネ……どころかマリオンズを見かけると姿勢を正し、お手本のような敬礼をするようになった。
あの不良軍人が全うに……きっかけはともかくサウス・バニングも喜んでたな。