第二百三十六話
<セラーナ・カーン>
カーン家は皆優秀、それは間違いない。
私も非凡だとマレーネ姉様は言っていたけど……でもブルーにーさんやマリオンさんには到底及ばない。
正しく死神様、ブルーにーさん愛してます。
早く私もマリオンさんのようにお助けしたいです。
しかし大学には行かないと幹部になるには大きな障害となりますし……むぅ。
「セラーナ!どういうことだ!」
慌てた様子で部屋のセキリティを問答無用で解除して入ってきたのは花嫁修行という名目でどういう意図なのかモビルスーツの訓練をしている20歳を過ぎても中二病が治らないハマーン姉様でした。
いったいどんな人と結婚するつもりなのですか……まさかブルーにーさんですか?そうなんですか?もしそうなら私は……
「セ、セラーナ、目が危険なレベルにまで据わっているぞ」
「気のせい……それでハマーン姉様、お話は?」
「そ、そうだ。ブルーニーが好きって本当か」
……あ、そういえばマレーネ姉様には言ったけどハマーン姉様には言ってなかった。
「うん、本当」
「そ、それがどういうことかわかっているのか。あのような得体のしれない存在と結ばれようなどと……それにブルーニーにはマリオンがいるぞ」
「姉様に魔法の言葉を教える……それがどうした!」
「 」
うん、やはりブルーにーさんの魔法の言葉は良く効く、さすがブルーにーさんです。
例え家族に反対されても、ブルーにーさんやマリオンさんに拒まれても私の気持ちは私のもの、私が諦めないかぎりは負けじゃない。
「それより姉様……就職は?」
「うっ」
今はブルーパプワのご厚意で臨時教官兼予備役として生活ができています。
しかしそれは正社員の話を蹴り、そのような立ち位置に甘んじているだけです。
「特別地区にしか居場所はない」
「わ、わかっている。しかしだからと言ってずっと兵士として働くのは嫌なのだ」
……人を殺して生きて行くことがどれだけ辛いことなのか私にはわからない。
わからないからこれ以上のことは言えない。
例え、それが自分自身で踏み込んだ道でも戸惑い、迷い、動揺することぐらいは許されるはず。
「でも他の仕事に就かない言い訳、無理」
「うぐっ」
大体大学も出ずに花嫁修業などと……好きな人がいるならともかくいないのに何を考えてるんですか。
しかもそれがモビルスーツの操縦訓練……まぁマレーネ姉様が口酸っぱく言っていたようですから私は言いませんけど。
あ、そういえば——
「姉様はブートキャンプの卒業生?」
「ああ、そうだが」
「私も入りたい」
「……やめておけ。あれは一種の極地だが、しかしそれは武官のであって文官のものではない」
わかってる。でも——
「ブルーにーさんと一緒に戦場に立ちたい」
「……そこまで本気なのか」
姉様は死神の衣の中でも突出しているニュータイプだから本気なのかどうかなんて、こんな近くにいたら言わなくてもわかるはずなんだけど……自分の能力を疑うほどのことなの?
……姉様はまだ恋を知らないからかもしれない。
「セラーナ。今、私を子供扱いしなかったか」
慌てて首を振って否定する。
さすがブルーにーさんとマリオンさんに次ぐニュータイプ、こういう証明のされ方をすると困ります。
「本気なのはわかったが操縦訓練は受けたことないんだろう。ブートキャンプなどよりそちらが先だ」
「……父様が許してくれない」
なんで姉様は良くて私はダメなんだろう。
シミュレータは未成年未満は保護者の同意が必要なのに……理不尽。
(私が遊んでいた頃なら良かっただろうが、戦場に立つようになってお父様がセラーナも戦場に行ったりしないかと心配になったから……などと言えないな。それにクローン兵が導入されたことによって中途半端な兵士の必要性が落ちたのも拍車を掛けた)
当面はやはり政策部入部を目指すことが順当?
それではブルーにーさんと戦場に立つ夢が……むぅ。
マリオンさん達が羨ましいです。
「剥れても仕方ないだろう。それに以前とは違って戦争がいつ起こるかは不透明だ。そんな不確かなことより堅実に進めばいい」
その通りです……その通りですが……半ニートの姉様に言われても納得しづらいです。
「……ところでその格好は……」
「ん?……あ、これか。これは新しい防弾スーツが開発されたというので試着していたのをすっかり忘れていた」
なんだか何処かの遊園地のマスコットで『もふもふ』と言ってヤクザを鍛えていそうな雰囲気ですね。
今年が始まって早くも2ヶ月が経ち、3月に入った。
地球全体が好景気を実感でき始めた。
今までも好景気には違いなかったが今までは企業と国が実感していたのであって民衆は置いてけぼり状態だった。
多くの企業が最初はティターンズを疑っていたため給料upなどに踏みきれず、民衆にまで浸透を始めたのがつい1週間ほど前からだ。
大体の企業が給料upを発表、これはジャミトフがひたすら走り回った結果なんだそうだ。
やっぱり地球のほとんどを牛耳る組織のトップが直接出向くと効果は抜群だな。
ただし、ある問題も浮き彫りになった。
それは労働者不足だ。
度重なる戦争によって人口が減少した上にロシアが連邦を脱退、更に棄民同然で投げ出したコロニーはほとんどジオンに抑えられている。
今までは連邦が真面目に復興してなかったから表面化されてなかったが20、30、40代の減少していることが発覚した。
今では一時期の日本のように青田買いが行われてもまだ足りず、進学しようとする就労可能年齢の者まで雇用しようという動きがある。
「……これは低学歴化しちゃうんじゃね?」
「ブルーパプワでも中学を卒業すると働く人がいますが、それは元々学歴を気にしないお国柄だったからですからね。この低学歴層が一生を終える前に好景気が弾けると大変なことになりそうですね」
大不況だな。
間違いなく自殺者が凄いことになるぞ。
「……10年後ぐらいにもう1回軽く戦争があった方がいいかもしれん」
「ですが火種は連邦とジオンぐらいしかもうないですよ」
「……ロシアvsジオン」
「ロシアが宇宙に出る……じゃないですね。ジオンが自然資源を欲してロシア侵攻ですか……さすがに連邦が、いえティターンズが黙ってないと思いますよ。ロシアと講和したのはティターンズですし」
だよなぁ。
となると残る選択肢は——
「特別地区世界征服、とか?」
「10年後ですか……できなくはないと思いますよ。その頃にはクローン兵の大量生産も軌道に乗っているでしょうし」
本当に星戦争達っぽくなってきたな。
明らかに負けフラグだけど。
「1つの案として考えておくか」
「まさかこんなことで世界征服を計画されるとは誰も思わないでしょうね」
となると、サイコタイプを単独飛行可能にしないと話しにならないか。
こちらも開発計画に入れておくとしよう。
「特別地区内では人口は爆発的増加してますし、しばらくは困りませんけどね」
「あ、このパターンって世界規模で起こるんじゃ」
「言われてみればぜんせかいてきに人口爆発が起こる可能性は高いです」
しばらくはそれでいいかもしれないが、将来は中国のようになりそうだ。
これから先、食糧難に見舞われる可能性があるということだから農業コロニーを早々に後3基ほど作るか。
ティターンズもジオンもコロニーを作る余裕なんてないし——
「ブルーニーさん、残念なお知らせですがアフリカ復興に人材が取られすぎてコロニー建設のための人材が不足しています」
……うん、わかってた。
世界が労働不足なのに俺達に余裕があるわけないよな。