第二百三十九話
セラーナが入学のためアメリカへと旅立って1番変わったのはマハラジャだ。
末っ子はやはり色々と特別なのか、それともマレーネはほぼ独立、はにゃーん様は色々と違った方向へ爆走していて唯一まだ面倒を見る子供らしい子供のセラーナがいなくて寂しくなったのか、仕事はしているが覇気がない。
そしてマリオンちゃんも最初こそ喜んでいたが時間が経つとなんだか元気がなくなってきた。
こちらは皆目見当がつかない。
「いったいどうしたんだ」
「いえ……セラーナに対して大人気なかったというか、器が小さかったというか……自分がこれほど狭量な人間だとは思ってませんでした」
初めての恋敵(?)が現れて、ここまで取り乱した自分が恥ずかしいらしい。
「結局、普通の人間と違って私達は切っても切れない関係なんですから、それほど切羽詰まる必要はなかったんですよね」
「確かに告白された時はともかく、送り出す時ぐらいはちゃんとして欲しかった部分はある」
「うぐっ……申し訳ありません」
でも、まぁ……
「まぁ嫉妬とか焦ってくれて俺は嬉しかっ——」
「ブルーニーさん!」
早い、早いぞ。マリオンちゃん。最後まで言わせてくれ。早い女は嫌われ……ないけどさ!
これで機嫌が治ってくれれば別にいいんだけど。
実はもう1人、変化があった人間がいる。
それは……はにゃーん様だ。
どうやらセラーナに色々と言われて花嫁修業()はやめて、正式に死神の陽炎で教官として働くことにしたそうだ。
現在は新米クローン兵を教えている。
クローン兵はたまにいるイレギュラーを除いて基本的には素直で飲み込みが早いので初めて教えるには丁度いい存在かもしれない……いや、あまりに素直過ぎて普通の人間を教える際には弊害があるかもしれないか。
それはともかく、はにゃーん様は意外と教え上手らしく、クローン兵の成長率がよくなっているようでひょっとすると天職かもしれない。
人間とは成長していくものだなぁ……年寄り臭い言い方だが、どちらかというとファンタジー世界のエルフ的な意味に近い。長寿の人外からすると人間の成長が早く感じるんだね。
ちょっとキンクリして0088年7月。
実質量産アッシマーとなっていた量産型βだったがやっとβタイプの量産機タイプが完成した。
ここで問題になるのは名前だ。
公募で色々寄せられたが結局は量産型βIIとなった。
量産型βの完全上位機であるためIIでいいだろうと満場一致、中にはアカツキとかふざけた案があったが……新たな転生者か?と思って調べたらマリガンだった。
世界観考えろよ、とツッコんだら、お前こそ世界のことを考えろよ、とツッコミ返された。
原作知識が役に立たない世界にしたことをまだ気にしていたらしい。小さい男だ。
それとなぜか農業コロニーが完成した。
500人増員したけど、それを含めて建設予定日時は10月だったはずだが?と思って確認してみると簡単にまとめるとクローン兵めっちゃ頑張った、とにかく頑張った。ということらしい。
宇宙だとあまり天候を気にしなくていいとはいえ、工期がこれほど短くなるとは……クローン兵、侮りがたし。
とは言ってもまだ外側だけ完成しただけで中身はこれからなんだけどね。
外側ができれば後は別の専門家の仕事になるのでクローン兵はまた暇になる。そうなると失業者同然になるから、仕方ないので来年から取り掛かる予定だった農業コロニー3基目を作らせることにした。
韓国に無理やり売りつけられるし、人口爆発の未来への備えとしても有効、コロニーの畜産部門が活発化する予定だから飼料用としての農作物にも使えるから農業コロニーはいくらあっても損することはない。
ちなみにコロニーの名前は農業コロニーのオパールをそのままに数字を付けることにした。
それにしても食の聖地より先に出来上がっちゃったな……あちらは他国の利権も絡んでて凄く面倒なことになってて設計段階からゴタゴタしてたけど、まさか資材まで各国がバラバラに用意するなんてことになるなんてな。
更に地球が好景気になったことで起こった人材不足と資源の高騰で後回しにされてるんだよなぁ。
ひょっとしてこのまま計画倒れ?そうなったら2度と他国利権を入れないぞ。
「そういえばあまり気にしてなかったけどジオンって今どうなってんだ?」
「連邦の好景気につられてジオンも好景気になっており、それに経済は上向いてきています」
ジオンのことだからマハラジャに聞いてみた。
セラーナがいなくなったが、心配していたはにゃーん様が就職したことに安心したようでやっと覇気を取り戻した。
いやー、マハラジャの分の仕事を一手に引き受けたマレーネのこの3ヶ月間の苦労は計り知れない。
……まぁ半分以上が俺達の思いつきで増えた仕事なんだけどね。本当に申し訳ない。謝りはするが反省はしないけど。
「ジオンが好調なのはいいことだ。仮にも俺達の後ろ盾だから恥ずかしいマネだけはしないでもらいたいもんだ」
「……本当に『仮』ですがな」
最近はティターンズが後ろ盾に近いもんな……そもそも俺達に後ろ盾なんているかどうかは疑問だけど……というのはさすがに増長し過ぎか?
「ただ、人材不足というのはジオンも変わりなく……いえ、むしろ元々人材不足で好景気になって拍車が掛かり、今では本当に奪い合いが起こることもあるようです」
地球という巨大な市場というパイが届いたと思ったら肝心の食べる人が少なくなってたわけだ。
当分はお腹いっぱいになりながらも食べ続けるしかないわけだが、食べ過ぎて死ななければいいけどな。
まぁ本当に死にかければクローン兵を労働力としてこっそり補うか。
なんか隠す手段を考えないとくか。
「そういえばギレン閣下より特別地区の大使館設置の依頼が来てますが」
「……そういえばで済ませる内容じゃないよな。それにしてもなんでまたこんな時期に?」
「恐らく特別地区はジオン公国より格下ですから自分達から言い出せずにいたのではないでしょうか」
悪いが全く考えなかったわ。
普通にギレンに直通で通信が届くから外交官の必要性がほとんどなかったし……よく考えると些細なこともギレンに聞いていたが……悪かったかな?
「でもサイド3に大使館設置するってことは特別地区にも置くんだよな?他人が我が物顔で俺達の家を彷徨かれるのは苛つくわ〜」
特にマリオンちゃんとかね。
敵意や害意がある人物が感知内にいると居心地が悪いってよく言ってる。
ニュータイプの能力を抑え込むこともできるけど、それをやると警備上の問題がある。つまり守れない約束は最初から結びたくない。
「んー……お互い外交特権無しならOKって伝えといて」
「あっさり前例がないことを言いますな。わかりました。検討します」
外交特権がない、つまりこちらで裁くことが可能になればこっちのもの。
目障りならでっち上げで裁いて、ジオンから抗議が来れば開戦、こちらの外交官に何か因縁つけるようなことをしても開戦。
うん、これでいこう。
やっぱり世界は平和だとつまらないしね。
「……冗談ですよね?」
「半分は、な。そういやパプワさんはどうだ」
「(半分は本気なのか)……パプワさんは今のところ順調です。地域を守るマスコットとしてグッズの方も堅調で新しい名物となるでしょう」
「中の人がクローン兵だけど、問題は?」
「ありませんね。感情を表に出しませんが普通の人より素直でよく言うことを聞くので育てるのが楽しいと監督官からは好評です」
……人道的な話を抜きにすればクローン兵も普通に社会に受け入れられそうだな。