第二百四十五話
不死身の第四小隊が思ったより良い玩具……ゲフン、駒だとわかったので使い潰す予定……あ、潰しはしないか、統治者の基本は生かさず殺さずだ。徳川家康も良い事言った。もっともそこまでギリギリの取り立てをするつもりはない。
……まぁ生かさず殺さずはヒーリング的な意味でリアルで行われるからどっちがいいのかは不明だけどな。
模擬戦が終わり、宴会へ突入。
模擬とはいえ、戦えば芽生える友情もあるらしく黒い三連星と不死身の第四小隊は意気投合している。
その中にちゃっかりモンシアが混ざってるように見えるのは気のせいのはず、もしくは幻覚か。
「まさか大尉があれほど強くなっているとは思いませんでした!」
「モンシア、声がでかい。しかし私も同感です。いつの間にこれほど差をつけられたのか」
やっぱりモンシアだった。
と言うか既に出来上がってるあたり宴会が始まる前から飲んでたのか?
「俺自身も半信半疑なんだ。アプサラスと相対する少し前当たりから感覚が研ぎ澄まされるような……なんと言っていいか困るが、とりあえず調子がいい」
教官としてではなく、戦士として戦って再認識したんだろうな。
まぁ本番があったら更に再認識することになるだろうけど。
「そりゃバニングがニュータイプだからだな」
「ニュータイプ?確かジオンが熱心に研究してる胡散臭い超能力もどきか」
「今までの常識ではそんなもんだろうな。実際俺達もここに来るまではそんな認識だった」
「その言い方だとここにはニュータイプが多くいるみたいだな」
「多くいるというかだな……」
ガイアがチラッと俺を見て確認してくる。
ニュータイプが養殖できるのは企業秘密で、ニュータイプが多くいるのは公然の秘密でなぜそれほど多いのかは謎としている。
それを正社員となったバニング達にどの程度話して良いのか判断を仰いでいるのだろう。
俺はメールで死神の衣がニュータイプ部隊であることの公開まで許可する旨を送る。
「俺達自身もニュータイプだし、死神の衣に所属している者はニュータイプしかおらんぞ」
「……ハァ?連邦でも掻き集めても中隊程度しか集められないってのに、こんな小さな国でそんなにいるわけないだろ」
「いや、ちょっと待て……それなら教えていた時のあの妙な感覚は……」
「バニングには分かりやすいだろうな。まだ覚醒が完璧じゃないから分からないかもしれないが、そのうち俺達や他の兵士達のことも感じるようになってくるだろう」
「死神の陽炎の強さはニュータイプにあり、と?」
「ハッ、ニュータイプなんて存在は末端中の末端だ。分かってるはずだ。あの絶対的存在を前にニュータイプなんざ塵だぜ」
そう言って10人ほどの人間に銃口を向けられているマリオンちゃんに視線が集まる……話の的ではなくて、別の意味で視線が集まる光景だな。
そして鳴り響く銃声、そして『発砲した人間達の後ろに並べられた酒瓶』が破裂する。
何をやったのかというと至って簡単なことで、飛んでくる銃弾を酒瓶に跳ね返しただけ……これもマリオンちゃんの宴会芸の1つだな。
昔見たドラマのSPECでこんな光景見たな。そういやアレの劇場版最終は面白くなかったなぁ。
将来はこれで絵を書きたいとか言って、画力を今磨いている途中だ。……やれなくはないらしいが画力は別の話だよな。
ちなみに今は拳銃でやってるが、絵を描くならマシンガンでやることになるとか。
「……そうだな。ニュータイプがいくら増えてもアレに勝てる気は全くしない」
「相手は1人なんだから数で押し続ければ……」
(残念だがマリオン様は複数いるぞ……知らないって幸せだな)
黒い三連星の表情がなんか達観しきってるけどどうしたんだろうな?
モンシアも顔色が悪いようだし、ナンデカナー。
バニングはまだ覚醒しきっていないからマリオンちゃんズの存在感を感じきれないようだ。
マリオンちゃんズも動物や無関係な人間を脅かさないように日頃はかなり存在感、プレッシャーを抑えている。
しかし死神の衣に所属する者達は今この時も感じ続けている程度ではあるのだ。
死神の陽炎の上位に存在している黒い三連星ももちろん感じているだろう。
まぁ、これのおかげで裏切り防止になるんだけどな。恐怖政治バンザーイ。
実は全人類ニュータイプにした方が俺達に都合がいいんじゃないか?と思わなくもない。
「ここの強さの要因はわかった。しかし、小隊同士の連携や中隊規模での連携が稚拙過ぎやしないか。個々の強さは目立つが、教練の時にも感じたが額面通りでの強さでしかないぞ」
額面通りの強さ、か。よくアニメとかマンガでチームプレーは足し算じゃなく掛け算だと言ってるけど、それは正しいわけだ。
あ、掛け算と言ってもあっちの掛け算じゃないぞ。
黒い三連星×不死身の第四小隊とか誰得よ。
「模擬戦にはシーマやクリス、はにゃーん様が参加してないからな」
「……まさか指揮官はそれだけなのか」
「他にもいるが未熟の一言だな……まぁあそこに特別枠もいるが」
再びマリオンちゃんに視線が集まる。
今度はマリオンちゃんとマリオンズが1人相対した状態でいる。
そして……
「流派死神不敗は!!」
「死神の風よ!!」
「全力!!」
「全壊!!」
「天変地異!!」
「「見よ!死神は蒼く死へ誘っている!!!!」」
なんか意味をむちゃくちゃにしてアレンジされてるけどGガンネタ乙。
それと最後の拳同士をぶつける時に衝撃波が飛んできて準備してなかった人間は吹き飛んだぞ。
とりあえず拍手はしておく……というか最近マリオンちゃんズがリアルガンダムファイターになってる気がする。今更か。
不死身の第四小隊は入社してから初めての正式な宴会だから唖然としているが他の奴らはなれたもんで、吹き飛んだ机や椅子、食べ物や酒をテキパキと片付け始める。
マリオンちゃんズが宴会芸で派手なことするのは恒例なので、予め床には汚れても良いカーペットが敷かれているから片付けもスムーズだ。
こうして終始騒ぎ続けて宴会は終わった。
マリオンちゃんズの強さは定期的にデータ収集をしているんだけど、わかったことがある。
それは俺達の燃料とマリオンちゃんズの強さが比例するようだということだ。
俺達はここのところ戦場にあまり立っていないので燃料は増え続ける一方だからマリオンちゃんズは強くなり続けていたということだな。
もっとも身体能力は上昇しても使い方はわからないので訓練をしないとヒーリングするために触れる時にうっかり骨を折ったり、内臓を潰しちゃったりする可能性がある。もう猛獣と扱いが変わらない。
そんなマリオンちゃんズに殴られても平気な俺もひょっとすると影響があるのかもしれない。
残念ながら具体的数値はないからわからないけど……でも俺自身にはステータスがあるからそういう進化の仕方はしないと思う。多分マリオンちゃんズが無意識に手加減してるんじゃないかな。
「身体能力が燃料依存ということはわかりましたけど、その割りには動きまわっても燃料は減らないんですね」
「サイキック能力は使えば減るのに普通の力を使う分には減らない……どういう基準なのかねぇ」
まぁサイキック能力が燃料なしに使えたら武力なんて使わずとも世界を取れるよな。
世の中の金持ちや権力者は最終的に不老不死が欲しくなるものだし……てめぇらは水銀でも飲んでろ。
「これで燃料を集めるのに理由ができましたね」
最近は燃料を使う機会がないからできるだけ資源として再利用するようにしてたんだが、確かにもっと燃料を増やせばマリオンちゃんズはもっと強く……強く?
「これ以上必要か?」
「必要ですよ!この広い宇宙に長い間生きるんですからひょっとすると宇宙人と遭遇するなんてこともあるかもしれないじゃないですか」
未知との遭遇、か。
ガンダムの世界だけど現実世界だからな。無いとは言い切れないか。
でも、どこかでこれ以上マリオンちゃんズを強くするのに抵抗があるのは俺の器の小ささなのか、それとも……