二百四十六話
<セラーナ・カーン>
「セラーナってさぁ、よく実家に帰ってるよねぇ」
「うん」
話しかけてきたのはよく行動を共にする同じ年齢の女性で名前は……??
それはともかく、20日ぐらいでブルーにーさん成分が切れて思考能力、身体能力低下して勉強が捗らないから仕方なく帰ってる……仕方なくですよ?決して寂しいとかマリオンさんに嫉妬とかじゃない。ないったらない。
「まさかそんな頻度でホームシックになるわけじゃないわよね?もしかして好きな人でもいるの?」
「うん」
「…………えええぇぇぇ、あの100人斬りに好きな人がいたなんてビッグニュースだよ?!」
100人斬り?私はハマーン姉様みたいに戦場には出たことないのに?
「それでそれで!馴れ初めは!どんな人なの!」
なんで大学に通う人は恋愛話が好きなんだろ。
姉様達はあまりそういう話はしないし、アイナさんはたまに惚気話があるけど節度がある。
シーマさんは……聞いたら真っ赤な顔をして打(ぶ)たれるけど、ちょっと可愛い。
メイは……恋愛話より開発開発開発開発開発開発開発開発開発開発開発開発……偶にアムロさん、でも割合が9.9999:0.0001ぐらいだから恋愛話じゃないはず。
ナタリーさんは100%開発、クリスさんは美人過ぎてモテない。
マリオンさんは私というライバルが現れて空回りして可愛い、きっとブルーにーさんも同じ気持のはず。
……つまり周りには普通の人がいなかったということか。
まぁ、偶にはこういうのもいいかな
「付き合っては……ない」
「そんな細かいことはいいからどんな人なのよ。というかセラーナのタイプっ好きなタイプとか聞いたことなかったわね」
「どんな人……蒼くて強い人、かな」
「強いはともかく、蒼い?なにそれ」
ブルーにーさんは間違いなく、世界最強の存在。
マリオンさんはブルーにーさんより強いかもしれない。でも結局ブルーにーさんには勝てない。
惚れた方が負けなんて大昔から言われてることだけどそれは真理。
元々は興味本位だった。
人間サイズのモビルスーツが動いているのに興味を示さない子供なんていないと思う。実際特別地区の子供には凄い人気でちょっと鼻が高い。
ハマーン姉様は最初の頃は怖がって逃げてたけど……今考えると失礼な話ですね。こちらの意志は確認されずに勝手にですけど助けてもらった立場なんです。
もしあのまま眉なしの下へ行っていたら最悪は死刑、良くて幽閉だったって父様が言っていたし、私も間違いないと思う。
ブルーにーさん達は気にしていない……いえ、気にしてないというより『人間そのものが気にするような存在』ではないみたいですけどね。
そんなブルーにーさんを好きになったのは——
「やはり強さですね」
あの何者も粉砕する物理的な強さ、そして猛獣使い……マリオンさんを従え、組織を束ねるそのカリスマ。
そしてあの硬いボディ……いい音がするんですよ。それにあの駆動音を聞くと落ち着きます。
「え、何、セラーナ筋肉フェチなわけ?ならあいつとかどうよ」
いえ、筋肉好きってわけではないです。だから無駄に筋肉をピクピクさせている先輩を指差さないで。
そもそもブルーにーさんに筋肉とかありませんし。
「筋肉じゃないの?じゃあ……お金か権力?セラーナの実家はあのニューギニア特別地区でしょ?なら限られるわね」
「サイド5の代表のシロー・アマダとか?」
「アハハ、あの人イケメンだけど美人な奥さんいるじゃん」
「いやいや、横恋慕こそ女の花よ!」
「私はシーマお姉様がいいなぁ」
「シローさんではありません……それとシーマさんは女性です、よ?」
いつの間にか女性が増えましたね。
シーマさんは表向き男前であることは否定しませんよ。実際は結構乙女だったりするんですけど。
しかし、シーマさんにはご姉妹がいるとは聞いたことありませんが……話の流れ的に違った意味なんでしょうね。どういう用途で使うかはイマイチわかりませんが……周りの人が引いたことから察するにあまりいい方向ではなさそう。
あえてここはブルーにーさん直伝のスルーするとして、シローさんは世帯持ちなのにモテてますね。
大体はアイナさんの良妻っぷり(ブルーにーさんは半ヤン妻って言ってましたが)に誘惑する女性は逃げていきます。
「そ、それにしてもシローさんとかシーマさんって実際会ったことがあるみたいな呼び方ね」
「まさかセラーナがいくら凄くても——」
「……あれ、セラーナの姓ってカーンじゃなかったっけ?カーンといえば」
「お察し通りだと思います。父はマハラジャ、長女マレーネ、次女ハマーン、そして三女が私になります」
「……」
「……」
「えー、っと……笑うとこ?」
むしろ今までご存じなかったことにびっくりです。
まぁカーンという姓はそれほど珍しくないので仕方ないかもしれませんが……ちなみに特別地区内でのカーン姓は私達一家以外にいませんが、そんなことこの方達が知るはずもないですし。
「ゆ、優秀だと前から思ってたけど……遺伝だったのね」
「努力をしてきましたが……遺伝に助けられている可能性は十分濃厚です」
ほかの人だったら嫌味になるかもしれませんが、私達一家は皆優秀なので否定する要素がないですね。
否定する気もありません。
「ネットで特別地区の幹部は凄い豪勢な生活をしてるって聞いたけどホントなの?」
「凄いかどうかは分かりませんが、ラビットは知ってますか?」
「ウサギ?」
「あ、多分モビルスーツの小型版みたいなやつのことだよ」
「?」
「こういうものですね」
タブレット型端末で軽く検索して画像を見つけ出し、彼女達に見せる。
「うわ、如何にも男共がどっぷり嵌りそうね」
「でもこれがどうしたの?」
「これを私達は4機私有してます」
「「「……ハ?」」」
最初はハマーン姉様の遊具としてしか意味がなかったんですけど、今では車より安全だということで幹部やその関係者には移動手段として推奨されているんですよ。
もちろん街中までラビットで乗り入れることはできませんが護衛が少なくて済むのはメリットです。
それに専用の道路まで整備されてますから危なくありません。
ちなみにこれは特別地区の法で定められた一定以上の所得者の消費義務に加わるのであまり気にならないとは父様の言です。
「いや、そういう問題じゃないでしょ」
「これ1機で何億すんのよ」
「モビルスーツより安いです」
「比較対象が間違ってる」
「私もそれなりの家だけどさすがにこれは……」
「……4機って言った?貴女は4人家族なの」
「そうですが」
ちなみにリリーナの存在はあまり嗅ぎ回られたくないということで国外では極秘扱いになっています。
「……貴女もこのラビットとかいうの乗ってるわけ?」
「もちろん」
「おお、これがブルジョワってやつか?!」
「一応申請を出せば特別地区内なら乗り回すことはできますよ」
ただしルールは守ってくださいね。
マリオンさんズが正当な理由がない限り外は耳をかさずに「さぁ、お前の罪を数えろ」と言って断罪されますよ。
「話しについていけないわ」
「私も」
「私はちょっと乗ってみたいかも」
「歓迎します……戦時になることがあったら来ても良い」
「ああ、特別地区は強いからねー……あれ?強いってまさかそういう意味?」
「そうなるとモビルスーツの操縦って意味よね?さすがにパイロットまで知らないわ」
「有名どころだと死神様と分家様でしょ。他には黒い三連星、クリスチーナ・マッケンジー、セラーナのお姉ちゃんのハマーン・カーン、ゼロなんたらぐらいでしょ」
「シーマお姉さまが抜けてます!」
「でもパイロットとしてより政治家寄りじゃない?」
「と言うか男少ない」
「約1名人間かどうかすらわからない存在がいるけどねー」
その人が私の想い人なんですが……誰も触れずに話は終わった。
まぁ話すつもりはありませんでしたけど……そんなに意外でしょうか?