第二百四十八話
0089年、6月。
平穏な日常を送っている世界で小さな波紋が起こった。
それは……まぁ大したことじゃない。ティターンズの佐官クラス(と言っても以前は連邦所属)が取材を受けた時に黒人に兄弟を殺されて恨んでいるような発言をした。
せっかく表面上は落ち着いていたのにまた暴動か?!とマスゴミも煽りに煽った……またアナハイムか?
なんにしてもまた戦争の火種が……と思ったら波紋はあったが暴動には至らなかった。
ぶっちゃければ平穏で、以前より忙しく、豊かな生活を手放すほどのことではなく、激しいバッシング程度で終わった。
もちろんジャミトフも早々に手を打ったのも大きかったようだが、結局人間は自分の生活を犠牲にしてまで殺し合いをしたくないってことだな。
「連邦時代は貧困が加速してましたからねぇ」
「今は貧富の格差が小さくなり、生活が充実して働けば働くほど良くなる時ですから戦争や暴動などしようとは思わないでしょう」
マハラジャの言う通り、不平不満は口にするものの行動に起こそうとするものはほとんどいない。
結局のところは暴力というのは経済活動なんだろうな。例外はあるけど。
そんな小さな波紋程度では充実した生活を手放す気にはなれないということは証明されたわけで……こりゃ本格的に平和が長続きするかもしれん。
「そうなるとアナハイムにまた離されるか」
「以前より差は詰めていますがまだまだ追いついたとは言いがたいですな」
俺達がアナハイムに勝っているのは一部の軍事技術(サイコミュ)ぐらいだったが最近は農業の分野で追い越したから強みが少し出来たが、農業の生産力で言うと複数のサイドを保有するジオンの方が上(質は悪い)なので看板にするには弱い。
コロニーによる家畜産業はまだまだ実験段階で成果を出すには後2年は掛かる。
「幸いなのがエゥーゴの幹部引き渡しをアナハイムが知らぬ存ぜぬで通しているので関係修復が思うように行っていないことでしょうか」
「それなんだよなぁ。どう判断すべきなのか困る」
ハヤトをアナハイムへ引き渡したんだからエゥーゴとはまだ繋がっているのは間違いないはずだが現状エゥーゴと繋がりを維持する意味はあるのかという疑問もある。
連邦に代わって地球のほとんどを支配することになったティターンズとの関係を悪化させたままにするというのは商人としては愚策のはずなんだが。
もしかすると……
「エゥーゴを後でティターンズにまとめて引き渡して点数稼ぎしようとして逃げられたか?」
「現状だと判断しかねますね。別の意図もあるかもしれませんし、まだ値の釣り上げをしている可能性があります」
「でも今がターニングポイントなのは誰の目から見ても間違いないのにそんな悠長でいいんですかね?私達は助かりますけど」
「100%の活動はしていませんが、80%程度の活動は現在の状態でもしていますから、残り20%で布石打っていると考えれば問題ないのかもしれません」
まぁ、シャア……この場合はキャスバル・レム・ダイクンというが……を手元に置いておけるなら安いものかもしれないな。
ダイクン派の協力があったとはいえ、第2次ネオ・ジオン抗争を起こしてある一定の戦果を上げたのは素直に凄いと思う。
最近アナハイムの影響力が小さくなってきているジオンを揺るがすだけの存在で、手札としてはかなり有効だろう……まぁ、この世界のシャアがそれほどのことができるのか疑問ではあるが。
結局ララァが生きてても不幸な生き方してるような気がする。そういう星の下に生まれたのかね。
「むしろ引き渡さないという選択をしてティターンズと対等の立場であることを印象付けている可能性もあるかと」
「……なるほど、可能性はありますな」
マハラジャが娘の成長に頬を緩ませている。
しかし立場強化、か。
確かにエゥーゴは現在犯罪者扱い、その犯罪者の引き渡しを拒否して罰せられないアナハイムはティターンズと立場は同等以上だと内外に見せつけているとも取れるか……もしかして俺達のことを意識していたりしてな。
「そういえばリゾートコロニーの設計図はまだ出来上がらないのか」
「今までのコロニーとは用途が違い、特殊な装置なども設置しなくてはなりませんからまだしばらく掛かるかと」
俺が密かに計画しているモビルスーツスノボーはいつ実現するのか。
Xガンダムでやってたからぜひやってみたい、戦場という娯楽がなくなったから新しい娯楽を模索したいんだよ。
「その代わりと言ってはなんですが失業していたクローン兵を工場で働かせてみたところ、成果は上々でしたので工場の人員をクローン兵に切り替えて他の部署へ移すのはどうでしょうか」
「労働者不足で働き口は腐るほどあるからな」
とりあえずGOサインを出す。
しかし、クローン兵を増やし過ぎると好景気が終わって仕事が減ったり、人口が増えてきた時に大変なことになりそうだ。
ま、その時は前にも言った通り戦争でもすればいいか。
「このようなものを考えてみた」
「部屋に入る時はノックをしような」
どうもセラーナの告白の件以来、はにゃーん様が積極的に俺達との距離を縮めようと努力しているようで、部屋に訪れる回数が増えた。
まさか妹の支援をしているつもりか?元ニート現役中二のくせに。
「で、何を考えたんだ」
「最近私が、わ・た・し・が!考えたラビットが話題になっているのは知っているだろう?」
……やっぱり気のせいかもしれない。
あまり細かくツッコミを入れたら話が進まないのでスルー。
「ああ、幹部の移動手段として採用してから目につくのが治安維持部隊のものだけではなくなったことで注目されているようだな」
「そこで、だ。そのラビット人気を定着させようとこのような公共事業を思いついてな」
……ラビットファイト……ガンダムファイトのパクリか?
「賭博を行えば収入に繋がるだろうし、スポンサーなどで害にならない外資も誘致できる。治安維持部隊も参加させれば練度が落ちることもない」
賭博ねぇ。
前世で身内にパチンカスがいたから、あまり好きじゃないんだけど商人やってる身だし、好き嫌い言っちゃいかんよな。
「モビルスーツでやるよりはコストは安いか」
モビルスーツでも似たことをしていたんだけど生産コスト、維持コスト、振動被害などなどの関係で現在は不定期イベントでしか行っていない。
「まぁとりあえず試験的に不定期イベントでやってみてからだな。テレビ放送枠まで用意してやるからやってみろ」
「……なに?!私がやるのか」
「世には言い出しっぺの法則というものがあってだな」
「……働きたくないでござる」
「おい、ニート卒業したんじゃないのか」
「卒業したからこそ余計に働きたくないでござる」
と言うか、その声で働きたくないでござるを連呼するな。笑っちゃうだろ。
そういえばはにゃーん様は原作と違って髪型はおかっぱじゃなくてポニーテールで腰の下に届くほどの長さになっている……この世界にもあった魔法少女リリカル〜のシグナムの影響らしい。
もしかしてニートの影響はそこからか?
……このニート女帝がッ!