第二百五十話
ボーっと空を飛ぶアプサラスVIを眺める。
地上からは発射音が次々と聞こえ、巨大な標的を落とさんとミサイルが走る。
応えるようにアプサラスVIからビームが放たれ、無力化していく。しかしそれも圧倒的弾幕の前に被弾していく。
被弾したことによってビーム砲が減少して更に被弾が増えるという悪循環。
最後まで抵抗していたが群がる蟻のように数で押しつぶされていくVIは何処か悲しげだ。
「こうなるとアプサラスもただの的だな」
「でもサウートの被害と弾薬消費量からするとキルレシオは圧倒的ですね」
現在行われているのは模擬戦だ。
VIは操縦者を選ばないというコンセプトで作られたアプサラスであったために極秘の存在としていたが模擬戦とデータ収集などせずに実戦を経験してしまったが改めてデータ収集をしているわけだ。
やっぱりサウートの必要性がイマイチピンと来ない。
「さすがにアプサラスと比べては可哀想かと。アプサラスは私達の主力ですし」
「本命は次のαタイプと量産型αIIとの模擬戦ですからな。対空戦の成績次第では更に増産もありえます」
マハラジャとマレーネが補足する。
まぁサウートは元々可変モビルスーツに対しての抑止力としての面が強い。
それにVIだからタコ殴りにしてどうとでもなるが、IIIなんかだと大火力で薙ぎ払われて終了のお知らせになることはほぼ確実だ。
IIIはマリオンちゃんズでなくても操縦自体は可能なので数を揃えることはできる……ただし、戦場に出るとなるとIVやα達との連携の問題があってIIIが誤射なんて悪夢以外の何物でもないから運用には気をつけないといけない。
こうやって考えていると空飛ぶビグザムやノイエジールが現れないとも限らないから大型モビルアーマーへのアンチ兵器開発はしておくべきだろうか?……下手をするとアプサラスの優位性を崩すことになりかねないから微妙なところだけどな。
そんなことを考えている間に休憩と補給を終えて200機のサウートが陣形を整える。
それを待っていたかのようにαタイプが4機、αIIが10機、気持ちよさそうに空を舞う……うん、サウートは格好のやられ役だよな。
ヘッドがモノアイなのがいけないのか?でもジムヘッドにしても変わらなさそう……砲撃機ってやられ役というイメージが強いし。
「では、始めます」
マレーネの声と同時に、旋回していたα達が降下を開始。
そしてサウート達はバカの一つ覚えのように砲火で始めを告げる。
α達を操るのは死神の衣の平均的なパイロット達で、サウートの方はいつもは兵站を護衛したり、治安維持をしているオールドタイプのパイロット達だ。
サウートの対空テストと死神の衣にどれだけ弾幕が通じるかのテストだ。
実は死神の衣達は運用上の関係で少数部隊による奇襲がほとんどで、奇襲となると弾幕が張られる前に陣形を崩し、距離を詰めていることがほとんどだ。
そして陣形を崩す役割は上位陣の役割であり、今α達を操っているパイロット達は本来後ろからついていく役割である。
つまりα達は今回不慣れな弾幕に曝されることになり、その実力を把握することができる。
もっとも他にも理由がある。
1番の要因としては——
「やはりアレほどの火砲だと死神の衣が操るαでも簡単には抜けれませんな」
そう、実はサウートは地味な機体ではあるが現砲撃機(大型を除く)の中では最高火力を自負している。
両腕にはアレックスのガトリング砲を流用した内蔵式ミサイルランチャーが左右4門ずつ、両肩にキャノン砲2門ずつ、ランドセルに取り付けられたビームキャノン2門ずつとかなりの数を保有している。
他にも手にはビームライフル、外部取り付け式のミサイルランチャーを腰や脚に装備していて開始早々なら更に火力がある。
もっとも——
「砲撃しながら移動できないので敵に余裕があればいい的なんですよね」
マリオンちゃんが言った通り、圧倒的火砲により相手に攻撃をさせなければ問題ないが1度でも相手に余裕を与えると動かず砲撃しているサウートはカモでしかない。
やっぱり火力に拘り過ぎたか?火砲を減らせばもう少し改善されるだろう。いっそ腕についているミサイルランチャーをビームに替えた方がいいか、そうすれば反動も重量も減らせるし……でもそうすると万が一Iフィールド持ちがいた場合悲惨なことになりそうだよなぁ。
なんにしても今のところはサウート側が有利に戦況を進めていた。
弾幕を避けることで精一杯で攻撃どころではないα達は打開策が思い浮かばないまま回避を続ける。
「いくらなんでも200機は多すぎたか?」
必死に躱しているその姿は格好いいとも言えるが、ちょっとかわいらしくもある。
普通なら撃墜されてもおかしくないところを回避して生き残っているんだから上々と言えなくもないが……
「いえ、そうでもありません。このまま続くようであれば恐らくサウートの弾切れする方が早いでしょう」
「ああ、あれほどバカスカ撃ってりゃ弾切れもするか」
VIとは違って的が多い上に躱すから必死になって撃たないといけない……まぁ、VIだから手を抜いたってわけではないだろうけどやっぱり大きさがなぁ。
「ありゃ、αIIが小破判定か。散弾はさすがに避けきれないか」
「……そのことが伝わったみたいですよ」
サウート側が一斉に散弾を使い始めたことによりα側は弱いながらも被弾が増えていく。
ここまでの戦いでお互い脱落者は0だが被害の大きさは元々寡兵であるα側が大きい。
そしてついに——
「αIIが墜落か」
「確かに墜落ですがまだ撃墜判定ではありません」
翼が折れて揚力を得られなくなり墜落しただけだから、まだ戦闘を続けることは可能だろう。
「でも今回は対空迎撃のテストがメインだろ。それなら墜落させただけでも十分さ」
とは言っても質より量の運用方法は特別地区には向いてないんだけど。
そして続々とα側が撃墜されて……ってことはなかった。
原因はサウート側の変調だ。
簡単に言うと死神の衣というエリートを1機を墜落させたことに酔って弾幕が若干分散してしまい高密度が保てず、α側に回避の余裕を与えてしまったことで反撃を開始。
次々ライフルで射抜いていき、瞬く間に20機のサウートが撃破された。
やっぱり実戦経験が乏しいオールドタイプだとこんなものか。
「こりゃ勝敗が見えたかな」
「……そのようですな」
そこからは一方的なα側の攻勢となり、サウート側は狩られる側となった。
「まぁ対空能力はある程度評価できるな。量を揃えるのは辛いが……」
「……いっそサイコミュを各地に配置して有線で可動砲を増やせばどうでしょうか。そうすれば人員は少なく弾幕が張れますよ」
「それって結局マリオンちゃんズが使うことになるんじゃね?」
死神の衣でもサイコミュの使用は疲労の増大もあり難しい。
はにゃーん様やリリーナなどの例外もいるが、同時に複数の可動砲を動かすのは負担が大きい。
「サイコミュをもっと簡略化して負担の軽減が実現すればあるいは……」
確かドーベン・ウルフはオールドタイプでも使えるインコムがあったな。