第二百五十一話
ジオン地球領は実質的にはどうかはともかくとして一応ジオンの領土の一部となっている。
それは同時に連邦と、今ではティターンズだが、と渡り合う必要があるということになる。
そのため軍備の充実は必須であり、当然その注文は自領の主企業であるMIP社、隣国で実質支配者のニューギニア特別地区ことブルーパプワ、次にジオン本国のジオマッド社となる。
地球領の海軍のシェアは当然8割をMIP社が抑えていて、残り2割がブルーパプワとジオマッド社である。
その代わりに陸空のシェアは9割がブルーパプワのシェアで、最近では量産型α(アッシマー型)を配備を急いでいる。
量産型αII(Z型)は単価と維持コストが高いことで敬遠されることが多い機体なので仕方ないか。
同じ理由で汎用性モビルスーツは未だに旧αタイプ(ムーバブルフレームではない機体)だったりする。
ムーバブルフレームはモビルスーツの軽量化などには貢献するが技術的コストはモノコック構造のものより高く、MIP社でもメンテができるので利便性がこちらの方があるので仕方ないといえばそれまでだが、俺達から見ると古めかしくて頼りないんだけどな。
他にも水陸両用モビルスーツとの連携がどうとか言ってたが本当に関係するのだろうか?
さて、なぜこんな話をしているかというとノリスからあったあることに関係している。
それは——
「ジオン本国からモビルスーツ輸出拡大の打診ねぇ」
理由はジオンがモビルスーツの更新するらしく、グフイグナイテッド(正式名は違うけど見た目がそのまますぎる)が格安で販売するとのことだ。
正確には話が前後逆で、ほとんど新型に近いグフイグナイテッドを更新するからと輸出するということは何かしら裏があるだろうと考えた結果が輸出拡大じゃないかという話なんだが。
グフイグナイテッドの輸出に成功すれば整備にジオマッド社が関わることができるから少しでも販路拡大ができるだろう。
「正直需要を満たすだけの余裕がないから別にいいんだけど」
クローン兵の総数が8000人となり、一般労働力として働かせているので少しはマシになったが、まだまだ労働者不足は解消されていないため、一部の利権を渡すのも効率を考えれば悪いものではない。
この話はおそらく復興好景気の影響が小さいジオンが少しでもあやかろうと打った手の1つだろうから、あまり警戒する必要はないはずだ。
……というかアフリカのインフラ状況が酷すぎる。飲水が井戸水なのはまだいいが下水が垂れ流しとか平成の世から変わってないってどうなのよ。
そのせいで下水道整備に人員を取られ、各部署に影響が多く出ている。
一応ハロなども導入しているが、それを指揮する人間すら用意するのにギリギリというのがブルーパプワの最前線の状況だ。
うん、自分で言っておいて酷い有様だ。
「もう少しすれば軍縮傾向になるのはわかってるから事業縮小するのが流れ的に自然なのにジオンが輸出量を増やそうってのは怪しいけど」
「恐らくティターンズへの対策として軍縮はできないのでしょう。それにアクシズの動向が把握できないことも1つの要因でしょう」
ふむ、アメリカは世界の警察なんて言われてたけど、ジオンは宇宙の警察だから軍縮なんてできないのか。
ああ、だからアメリカは軍事兵器を海外に売っ払ってたわけね。軍縮しても生産、開発はやめるわけにはいかないけど金は必要……苦肉の策か。
ま、兵器を売っ払って戦争かテロを起こさせて利権確保、いや強奪していたってのもあるだろうけど。
「ならジオンに渡す……いや、返してしまおう。そうすればブルーパプワの評判も多少は良くなるだろ」
死の商人として名を上げすぎて、海外のマスゴミが月1ぐらいでアンチ特集組むからなぁ。
俺達はあまり気にしないが民衆はあまり気分が良くないだろうし、イメージアップに取り組むのも悪く無い。
死神教なる宗教団体がイメージアップに動いてくれているようだが……名前が死神教だから説得力無さ過ぎるだろ。
それに布教内容がマリオンちゃんズの伝説というのもねぇ。いや、個人的には良いんだけど、それで信者が増えるのかどうか疑問なだけなんだが……増えてるんだよなぁ。
怖がられるよりはいいけど。
「ではこちらで調整しておきます」
「頼む」
引き抜いた当時から言っていたが改めて、カーン一家を引き抜いて良かった。
こんなに世は忙しいのに俺達はあまり働かなくていいからな。
「働きたくないでござる」
「私にはニートニートと言っておいて、貴様はそれか?!」
なんかニート女帝が言ってるが気にしない。
0089年8月。
開発部からちょっと革命が起こったと知らせが入った。
「さて、何が開発されたのかな」
「試作機はあちらになります」
そこにあったのは……至って普通の量産型α(アッシマー型)だ。
いや、背中になにか付いてるな。もしかしてサイコミュか。
「そうです」
サイコミュの小型化……というわけじゃないな。サイズは特に変わった様子はないし。
まさか可変モビルスーツにサイコミュが搭載できた、なんてしょうもないことじゃないよな。
「さすがにそれでお呼び出来ませんよ。ナンバーズの制裁は受けたくありません」
んー、となるとあくまで試作機として導入しただけで、システム的にサイコミュが必要ということか。
「はい。まずはご覧になっていただこうと思います」
始めろ、という声とともに量産型αが変形する。その姿自体は至って普通だが、しかし確かに明確な違いが存在した。
「変形速度が速くなっているな」
「さすがです。言われた通り変形速度の向上に成功しました。それがメインだったのですが実は副次効果もあったのですが……そちらがメインになってしまった感が否めないですね」
ほう、つまりこれ以上ってことか。
「ある一定条件を満たすことにより追従性が従来のものに比べ20%上昇します」
なるほど、それは大したものだ。
しかし副次効果にしてはあまりに大きすぎやしないか?どちらかというとこちらの方が重要だぞ。
「実は可変モビルスーツの変形機構にサイコミュを使ってみたのです。ファンネルを動かすことができるならモビルスーツの手足ぐらいなら動かせるだろうと」
……考えたことがなかったな。
確かにサイコミュでファンネルが動かせるならモビルスーツの手足ぐらいなら動かせそうだ。
つまり条件というのはニュータイプであることか。
「その通りです。ただ、そもそも可変モビルスーツが本領発揮できるのはニュータイプであると個人的に思っているので問題ないかと」
「その根拠はなんですか?」
「可変モビルスーツはその性質上、どうしても可変中には無防備になります。更に可変前と後では必要な適性が大きく違いますから両方を運用できるとなればニュータイプでないと勤まらないと考えた次第です」
Zガンダムが約0.5秒程度で変形するというのは有名だが、戦場で、しかも敵の前で0.5秒もの変形時間は命取りとなる。
そうなるとオールドタイプでは運用が難しくなると考えるのは自然なことかもしれない。
「ナンバーズの皆さんのデータを使ってシミュレートしてみた結果、20%ほど追従性が向上していたのです。もっとも他のパイロットではこうはいかないでしょうが」
まぁ、いくらファンネルを動かせるとは言ってもマリオンちゃんズのように自由自在に動かすようなパイロットはいない。
マリオンちゃんズを除いて1番ファンネルが上手く動かせるはにゃーん様でも、ファンネルの制限解除はできていない。
ちなみにファンネルに掛かっている制限というのはファンネルに搭載されている簡易コンピュータのことで、普通のニュータイプでも移動ルートや座標の指定に機体制御、攻撃するかの判断など細かなデータを送るとなると脳に負担が掛かるため半自動化されている。
マリオンちゃんズはその制限は取っ払って、全てをコントロールしている。むしろコレができないとアプサラスIVの可動砲を制御して全ビーム相殺なんて出来はしない。
「つまり、ナンバーズがまた無敵に近づいたわけだな」
「簡単にいえばそうですね」