第二百五十四話
秋分大会は秋なんて季節を知らないニューギニア人に首を傾げさせながらも成功を収めた。
まぁ基本的にのんびり気質のニューギニア人は食べて、運動して、本読んで、また登山して、など別にいつものことじゃないかという雰囲気の中で行われたがお祭りは大好きだから問題なし。
「手間暇は掛かりますがこういうお祭りは活性作用があってよろしいですね」
「マレーネさんはいつも大変ですねー」
「他人事のように言ってますがマリオン様も一要因であることを自覚してください」
「テヘペロ」
「私はブルーニー様と違いますからそのような行為は通じませんよ」
マレーネが言うとおりイベントというのはなかなかいい。
なんで国をあげてイベントをしようとする国が少ないんだろ……税金の無駄とか政府の悪ふざけとしか捉えられないからか。
秋分大会では世界の秋の味覚を集めたり、有名プロスポーツ選手を呼んだり、国宝級の美術品を展示したりなどなどを行った。
ちなみにジャミトフとギレンも協力的だったから割りとスムーズにことは進んだ。
……世界のほとんどと協力してやったせいで万博とオリンピックが合わさったイベントみたいな様相になった。
来訪していたジャミトフとギレンも「ここで秋分とかwww」とか言ってたがやはり気にしない。
うっかりライフルを誤射しかけた気がするのも気にしない。
そしてマリオンちゃんが可愛すぎて生きるのが辛い。
「ブルーニー様、目が赤くなってますよ」
「おっと」
無意識にEXAMシステムを起動していたようだ。
もしや最近出番が無いから出番を求めているのかもしれない……暴走しなければどうでもいいけどな。
そういえばニュータイプが近くにいてもEXAMシステムが囁かなくなったけどどうしたんだろ?拗ねたか?
はにゃーん様を始めとしてシーマやクリちゃんなどの死神の衣やクローン兵が近くにいても何も言わなくなってた。
あまり気にしてなかったから気づかなかったよ。
と言うか感情表現でカラコン挿入とか、そんなんでいいのかEXAMシステム。
「さて、次はハロウィンだ!」
「さすがにこの短期間で立て続けにイベントはやめてください。私達が過労で倒れます」
「死ななければ問題なし!」
「……」
……
「……」
……
「……」
「わかった。国主体はやめて、企業主体ならどうだ」
「まぁ、それならギリギリ……でも国民もさすがに飽きてくるのでは?」
「民衆のためのイベントなのに民衆が総スカンとか寂しいですね」
む、確かに。
「なら今回はお菓子配りぐらいにしておくか」
「それが賢明かと」
「本来のイベントが軽く扱われると本末転倒な気もしますけどね」
とりあえず巨大カボチャグランプリはやれば問題無いだろ。
<紫ババァ>
特別地区は暑くてマスクをつけるのは辛い。
しかしこれは私のトレードマークであるから外すわけにはゆかぬ。
開発部が冷却ファン付きのマスクを作ってくれたが、付けた姿が何処かの暗黒卿にしか見えず、開発者が爆笑していたが軽く重症にしてやった。
言葉が矛盾している?そんなわけなかろう。
平和な日常とは退屈なものではあるが、掛け替えのない物であることを特別地区に来て知った。
死神の衣達の訓練などを見ると改めて思う。
決して独断専行して諜報活動をしようとして捕まってしまって悲惨な目にあっている部下達を目の当たりにしたからではない。
……命令を出すどころか禁止しているのにいらぬ気の使い方をするのはやめてもらえぬだろうか、その度にマリオンからの圧力を耐える私の身も考えてほしいものだ。
「苦労しておるようじゃな」
「父上、いらっしゃるなら仰っていただければこちらから出向いたものを」
「いつまで公国の王族のつもりだキシリア。ここではただのデギンにただのキシリアぞ」
「そう仰る割りには随分お盛んなようですが」
いくらここが一夫多妻制を導入しているからと5人も嫁を貰うとは。
「これも政策の手助けをしておるのじゃ」
確かに資産家は税を多く取らぬ代わりに消費することを義務付けているし、一夫多妻制に踏み切ったのは人口減少と少子化問題解決のためであると聞く。
そして父上はジオンから持ってきた資産以外に特別地区で得た資産も多くあるから義務を守っているとは言えるが……この歳になって新たな母上が出来た私にも配慮が欲しいものだ。
何より——
「兄上も激怒していることをお忘れなく」
「ほっほっほ、ドズルやガルマが死に、寂しかったじゃろう」
「1番寂しかったのは父上でしょう」
そう、私達に新たな弟と妹ができたのだ。
兄上は継承権の問題などでヤキモキしている……大変だな。兄上。
この前、兄上と話をしていた時に愚痴られたいたが、私は私で度々弟達の面倒を押し付けられて大変だからお互い様だと言った時の微妙な表情は傑作だった。
……まぁ、恐らく私も微妙な表情をしていただろうが。
そして問題なのは父上が貰った嫁が私より年下ということだ。
これはもう犯罪ではないのか?ナンバーズ仕事しろ。
「これでお前が嫁に行ってくれれば思い残すことは……いや、ドルマとルマンダが成人するまでは死ねんな」
最低17年は生きる予定ということですね。
本来なら先が危うい年であるはずなのだが今の父上を見ているとそれぐらいなら普通に生きていそうだ。
むしろ過労で兄上の方が先に亡くなるのではないか、と言うのは私を含め、部下達の総意だ。
「さて、これから儂はマハラジャと茶をする約束があるでな」
「ドルマ自慢はほどほどに」
弟のドルマが生まれたことで娘しかいないマハラジャ氏は色々と複雑な思いが多々あるのだろう。
口にはしないが表情にはありありと出ている。
「マハラジャも新しい嫁を貰えばいいものを」
「父上のように子を無視できる親ばかりではないということですよ。それにカーン家の姉妹は誰も結婚していないのですから、あるとすればそれからでしょう」
マハラジャ氏も3人もの娘がいるとは思えないほど若いのでそのうち再婚という話もあるだろう。
父上が去った後、なんとなくブルーパプワの展望台に向かう。
そこから見えるのは右手には大自然が、左手には高層ビルが立ち並ぶ大都会というなんとも言えない光景が映しだされている。
ここに来た当時は高層ビルを見ると不安を感じたものだ。
コロニーでは高層ビルは人工重力の関係で作ることを禁止されているからな。地球に降りたことがほとんどない部下達も同じような経験をしたと言っていた。
天候の不安定さに参っていた時もあったな。
外出していた時に集中豪雨にあった時はコロニーに帰りたいと初めて思ったものだ……まぁその後にライデン少佐がモビルスーツで迎えに来たのは驚いたが。
なんで普通にモビルスーツが乗用車代わりに使われているのか……やはり統治者がモビルスーツだからか?
「虫にもなれてきたな」
「フッ、まさかお前が虫を怖がるとは思いもしなかったよ」
嫌な声が聞こえてきたな。
振り返るとそこにはやはりシーマがいた。
「そうさ、私も女だ。虫ぐらい嫌っていて当然だろう。それよりなんのようだ」
「別に用なんて無いさ。ただの気まぐれさ」
なら別の所に行けばいいものを。
シーマは昔、私の部隊に所属していたことは知っている。
能力が優れていて工作要員として使っていたが本人達には不満があり、ブルーニー達に降伏して今がある。
私を恨んでいるようだが表面上は特に言わない。
だが、本当に偶にだが私に向ける視線に殺意が含まれていることがある。
ここでは私より立場が上のシーマは消そうと思えば消せるだけの力がある。何か対策を考えなくてはいけないが、シーマ以上の力などここでは持てる気がしない。
「心配しなくても私がお前を殺すことなんて無いよ。もちろん敵に回らなければ、という前提条件でだけどね」
「それは安心だ」
唯一の救いはブルーニー達は信頼、信用第一としている点だろう。