第二百五十五話
<マハラジャ・カーン>
「日本の食のこだわりには困ったものだな」
「本当ですね」
ブルーニー様が韓国に課した賠償である農作物の無制限貿易で溢れた農作物を日本へ偽装して輸出していた問題が以前からあった。
韓国を挟んでいたため私達は関係ないと高をくくっていたのですが、日本政府は多くの民衆の圧力に屈して問題の大本である私達に農作物の輸出制限を宣言した。
日本政府が求めるのは韓国への無制限貿易の撤回で、裏では日本政府の新韓国派が動いたようだ。
そして今回の経済制裁だが、日本だけでどれぐらいの影響があるのか……それがバカにならない数字となっている。
日本食が流行り過ぎたか。
しかし、悲鳴を上げているのは日本も同じである。特に農家は意見が割れているが大体は制限解除派だと調べはついている。
偽装農作物が日本に出回るより自分達の作った農作物を輸出する方がプラスと考えたのだろう。
「ファさんに連絡して手を回してもらってはどうでしょう」
ふむ、ファ氏はフラウ氏とも仲が良いと聞くし悪くない手かもしれぬ。
「マレーネ、頼めるか」
「わかりました。ではそのように」
幸いなのが特別地区の民衆は日本産の食材が手に入らないことにそれほどこだわっておらず、反政府や反日感情が育っていないことか。
まぁうちの政府に楯突こうなんて無謀な人間がいるのかは甚だ疑問だ。
マリオンズを前にしてデモなどしようなどと自殺と変わらないし、そもそも死神の衣だけでもどうとでもできてしまうだろう。
「代替として中国からの輸入……はブルーニー様が中国を嫌っているから無理か」
「なぜアレほど中国を嫌っているのか分かりかねますね」
本当になぜなのだろう。
おかげで南中国で溢れている安い労働者は現地でしか使えず効率が悪い。
研究者や開発者などの少数なら受け入れてもらえるのだが。
「さて、農作物の輸出に関してどう対処すべきか」
「この程度のことで条約を取り消ししては特別地区の威信にも関わりますし、ファさんの手を借りたとしてもしばらくは経済制裁が解除されることはないですし」
むぅ、どうしたものか。
「それならこういうのはどうでしょう」
今まで黙っていたアイナが口を開いた。
「農家の方々は幸い輸出を嫌っているわけではないので、ジオン地球領と日本で貿易をしてもらい——」
「ジオン地球領から私達が輸入する、と」
「なるほど」
ジオン地球領の関税率は農作物に関してはほぼ0、例えあったとしても元々日本産の農作物は高級品の部類、嗜好品の域だから問題ない。
「……実は何1つ変わらないのではないか?」
「一応日本政府が私達に対して経済制裁をしているという体裁はできていますからいいんですよ」
「それにもしかしたら日本政府も言っていないだけでそれを望んでいる可能性がありますね」
「ではファ氏を伝ってフラウ氏に協力してもらいつつ、ジオン地球領を経由して輸入するという形で話を進めよう」
という話がマハラジャから上がってきた。
おい、そんなことでいいのか?日本→地球領→特別地区で上手く行ってるからいいんだろうな。
ただし、マフティーは悲鳴を上げてるようだけど……ガンダリウムγは俺達から買ってるから経済制裁の影響で手に入らなくなったんだよ。
表向きアンチアナハイムを謳ってるマフティーだから少量ならともかく、今までの生産数を支えられるほどの量ともなると組織の存在意義を問われる……のか?正直暴動の時にアナハイムと組んでた段階で存在意義がががががが。
俺達の農作物のようにジオン地球領を経由して取引すればいいと思うだろ?でも、特別地区→日本の関税とジオン地球領→日本の関税ではかなり違っていて、ジオン地球領がガンダリウムγを輸出することなんて想定してなかったため、かなり高く設定されている。
改定には時間が掛かるからしばらくはこっそり密輸出するしかない……あっ。
「そうだ。サイド6経由で送れば問題なくね?」
「そう、ですね。確かにサイド6は多くの資源を輸出していることを考えれば地球領より関税が掛からないと思います」
しかも船で運ぶより断然早くなるはず。
サイド5→サイド6→日本ならマスドライバー→マスドライバー→海上ドボンッで1日とかからないはず。
「あの海上ドボンは評判悪いですよ。自然破壊だとか、船に当たったらどうするとか」
船に当たるわけねぇだろ。真夜中に進入禁止にしてる時間に航行してる方が悪い。
自然破壊は……仕方ない。
「しかし韓国にも困ったもんだ。いっそ韓国の輸出産業を牛耳ってやろうか」
「今ならできますよ。でも韓国にあまり支社を持ちたくないって言ってましたよね?」
「この際目を瞑る。韓国を更に干上がらせるためだと思えば……」
これで偽装農作物で貿易赤字を抑えていた韓国は更に荒れることだろう。
最近はいい加減高かった犯罪率が更に上がってきているらしい。何処かの世紀末マンガみたいになりつつあるようだ。
注意は支社を構えることで営業妨害がされないかどうか、だな。
「この際だから韓国に死神の陽炎支社を作るか」
「ブルーパプワではなく、死神の陽炎ですか……いいですね。そうすればエゥーゴの抑え、牽制もできますね。マハラジャさん達に早速頼みましょう」
あ、そうか、韓国にエゥーゴがまだ潜んでいる可能性をごっそり抜けてたわ。
「よし。これで対策終了かな。さて、これから考えるのは近づいてきてるクリスマスイベントだな」
「クリスマスは毎回盛り上がりますけど、何か足りないんですよねぇ」
「そうだな。毎年なにかが足りない……」
前世ではあったなにか……なんだ?
ローストチキン、は普通に流行ってる。
ツリーも同じく。
サンタクロースも汗だくになりつつも忙しなく働いている……汗だく?
「あっ、雪がない」
「それです!」
全世界で言うと雪がないクリスマスというのは珍しくなかったりするが、元日本人の俺的には不自然。
そしてマリオンちゃんはコロニー出身者だが、クリスマスにはコロニー内で雪を降らせていたから毎年ホワイトクリスマスだったそうだ。
「じゃあ今年は雪を降らせるか」
「天然は無理ですから人工雪ですね。すぐに溶けちゃいそうですけどたまには贅沢もいいですね」
……決して俺達は質素な生活してるとはとても言えないがな。
「よし、ならばニューギニア特別地区雪まつりといくか!」
「……話に乗っといてアレですけど、凄い違和感ですね」
「急に冷静にならない!」