第二百五十八話
マリオンズが増えた。
ということは新しい年、0090年が始まったということだ。
毎年、特別地区でもブルーパプワでも何処ぞの旧正月の爆竹ほどではないが新年会は賑やかに行われる。
飲食(酒込み)が無料で提供されていたり、ブルーパプワ幹部の撮影会や握手会があったり、のど自慢大会があったり色々だが、やはり楽しみすぎてハメを外す者も多くいる。
飲酒運転や置き引き、スリなどが増える……まぁ他にもデキちゃったり、カップルが増えたり、婚姻届が増えたりなんかもするんだけどな。
ちなみに1番厄介な犯罪は飲酒運転だったりする。
何故かと言うと、酔った状態だと悪意や罪悪感などがなく、マリオンちゃんズで感知がしづらいからだ。
一応意識の混濁も感知できるが悪意や罪悪感などと違って強い感情ではないため捕捉が難しい。
まぁ、大体は自動運転だから大丈夫なんだけど……たまに調子に乗って運転する奴がいるから厄介なんだよなぁ。
「それに世界中お祭り騒ぎだな」
「ちょうど90年ですからね。80年はまだ戦争真最中でしたし」
そうか、もうすぐ独立して10年になるのか。
「やっぱり建国記念……建国?……はやるべきか?」
「いつもの節操なしのイベントよりは重要だと思いますよ」
「だよな」
でも、クリスマスとかハロウィンとかと比べると何をしたらいいか悩む。
んー……
「やっぱり俺達らしく軍事パレードか?」
「でもそれって面白いですか?」
「どちらかというと国の戦力を魅せつけて威圧するのがメインだな」
「圧政をしている3流国家っぽくないですよ」
否定できん……だがしかし。
「アプサラス100機を飛ばすってのはどうだ。なかなか壮観な光景だと思うぞ」
「ギニアスさんは喜びそうですね」
間違いない。
「まぁまだ時間があるしゆっくり考え——」
「そんなに時間ありませんから!!そういうことはもっと早く考えてくださらないと私達政策部が過労死します!!」
マレーネの魂の叫びを聞いた。
なんかニュータイプの思念っぽかったけど気のせいか?
「じゃあとりあえずアプサラスIII、IV、VIを100機揃えてくれ。バランスはそっちに任せる」
IVはマリオンちゃんズしか戦闘レベルの操縦は出来ないが、予備機があってもいいし、航行ぐらいは一般兵でも可能だ。
可変モビルスーツが主軸になった現状だとアプサラスはいくらあっても困らない。
「……アプサラスをそれほど生産すると経済破綻しますよ」
「甘いな。政策部が万が一のためにへそくりしていることはまるっとお見通しだ!」
「くっ……わかりました。お父様と相談します」
ブルーニー勝訴!今まで負けたことなんてないけどな!多分……負けてないよな?
「どうもお久しぶりです」
「また突然の来訪だな」
つい1週間ほど前に来訪を告げる通信があったのはZのヒロイン()のファ・ユイリィ、中身は偽腐女子……らしい。
本当に腐ってるようだったら軽くブートキャンプで洗脳する予定。
「それで今回は何ようだ。ガンダリウムγの輸出は上手く行ってるだろ」
「ええ、ブルーニーさん達のご配慮に感謝します。おかげさまで可変モビルスーツの開発が順調です」
そうなると余計にわからない。
いったいなんの用事なんだ。
「その、最近お化粧のノリが悪くて……」
「……ここはエステじゃない。5年後また来い」
何かと思ったらヒーリングのおねだりかよ。
そもそも去年に行ったヒーリングで1歳ほど若返らせたから今年で去年と同じ状態なんだから気のせいだろ。
「女性はいつでも若くいたいものなんです!」
「嘘つけ、どうせカミーユ目当てだろ。そんなに若返らなくても今のままでもカミーユが逃げることはないって」
「……最近、カミーユが私に対して冷たいんです」
顔を伏せてぶつぶつぶつっと続けて何かを言うが俺の耳には届かない。
ああ、聞こえない。何も聞こえない。
あの雌豚共ぬっ殺す、とか、雌狐には粛清を、とか聞こえない。
……思った以上にカミーユはモテモテらしいな。
「幼馴染属性は報われないって本当なんですかね?」
「いやー、どうだろ?」
前世では幼馴染でカップルもいたが……アレは生まれてからずっと夫婦みたいなレベルの奴らだったから多分例外だと思う。
「やっぱり中の人的に年齢差があり過ぎて母親にしか見えないんじゃね?」
「ぬっ殺すよ!」
「その前に貴女が死ぬんですけどね」
マリオンちゃんは今日も絶好調らしく、血が付いた金属バットで素振りを始める……一体誰の血だ。
それと素振りで起こる風で書類が乱れるから止めてね?
「アニメやマンガなんかでは面倒の見過ぎ、距離の近すぎが主に幼馴染不遇に繋がっているとなっているが……」
「私が距離を置くとカミーユは開発ばかりで構ってくれないんです!」
あー……よくあるパターンだな。
仕事に熱中するのは男の性、それでも構って欲しいのは女の性、一心同体でラブラブするのがミノフスキー体の性、戦っている最中に技を閃くのはロマンシング・サガ。
マスコンバットとトレードはめっちゃ好きだったなぁ。アレやりすぎて本編のどこなのかわからなくなったことがしばしば……。
「でも私達、もう20歳なんですよ。あまり悠長にしてたら何処かの泥棒猫に掻っ攫われるかもしれないんですよ?!」
「ファ必死過ぎワロス」
「ワラエナイデス」
仕方ないと思ってマリオンちゃん占いにこっそり頼ってみたんだが『興味ないので分かりません』と出た。
うん、俺も同感だけど、せめて少しぐらいアドバイスして欲しかった。
「そもそも恋愛相談なんて俺達に向かないと分かってるだろ」
「ですね。私はブルーニーさん一筋ですから……ブルーニーさんはどうか知りませんけど……ねぇ?」
「いやいやセラーナはマリオンちゃんと比べるなんて出来ないって。他の人間とは比較にならないだけで」
「本当ですかぁ?」
このやり取りは別に本気でやっているわけではない。
ただのじゃれあいだ。
「……私に魅せつけないでもらえますか!
「「いや(いえ)、これが正常運転だ(です)」」
「……そこまでの仲にならなくてもいいからもう少し……(ぶつぶつぶつ)」
「それならもう少し相談しやすい人に相談すればいいのでは?フラウさんとか」
「あの腐女子に恋愛相談なんてできるけないでしょう。それにカミーユがBLの餌食になるかもしれないじゃないですか」
あ、納得。
確かにカミーユって宇宙世紀ガンダムの中ではBLウケしそうな顔してるよな。
「もしかしてフラウにはカミーユのこと……」
「内緒に決まってます」
女の友情は脆いっていうけど本当なのかもしれん……だからって男の友情がそこまで頑強かは疑問ではあるけど。
「とりあえずアイナとかギニアスとかシーマに聞いてみれば?少なくとも俺達よりは全うな答えが返ってくるだろ」
「……そうします」
まぁアイナはノロケ、ギニアスは……ねぇ?……そして意外や意外、シーマが1番話になりそうに思う点だ。
シーマも絶賛恋愛中らしいからな。あまり興味ないから深くは知らないけどコッセルとガイアの2人と仲良くしているようだ。
そういえば特別地区でハーレム制度を導入してからわかったことだが、離婚率が一夫一妻制より低いことが判明した。
どうやら掛かる負担や不満が分散して離婚まで進むことが少ないようだ。
子供の面倒も分散するから余計に子沢山になることもわかっている……まぁこれはわかったというより予想が立証されたという程度だけどな。