第二百六十一話
突然だがギレンから軍事パレードを7月頃行うから来て欲しいという招待状を貰った。
「アクシズの件がありますから民の不安を取り除こうとする意図なのでしょう」
とは政策部の見解だ。
……俺達の建国記念も軍事パレードだから人のこと言えた義理じゃないけど軍事パレードってそんなにいいもんかねぇ。
「国には軍が必要不可欠ですからパレードというのは大事でしょう」
平和な日本出身の俺にはわからん感覚だ。
自衛隊が演習とかしててもイベントの1つであって、これで国も自分達も安全だ!なんて欠片も思ったことはない。
むしろ災害救助お疲れ様です!というイメージだ。
自衛隊が軍事パレードなんてしたらバッシングの嵐だろうな……まぁ『軍事』って扱いじゃないだろうけど。
「それを証拠に旧連邦も独立戦争以前は定期的に行っていましたし」
アレは明らかに致命的な失策だから例に取り上げるのはどうだろう?
0083の観艦式はテロリストに対しての威圧効果が見込めたからまだわかるんだけど、一年戦争、この世界だと独立戦争以前の観艦式は明らかに挑発行動としか思えない。
しかもジオンが軍強化をしていたことを知った上での行動とか、もう救いようがないバカばっかだ。
まぁそれから比べたらアクシズという明確なテロリスト?敵対勢力?がいるジオンは民衆の安心を手に入れるためならありなのかもしれないが。
「俺達に頼るあたり微妙に腰が引けてるのか、慎重なのか」
「きっと私達との繋がりをアピールしたいのでしょう。それにブルーニー様達へ依頼を出す機会が少ないことへの配慮という面もあるかもしれません」
確かに、イベントなどでは度々協賛してもらっているがそれはジオンが特別地区に、であって特別地区がジオンに何かすることはあまりない。
それにジオンが特別地区に協力してくれている事実を民衆がどれだけ認識しているか謎だ。
日本政府が他国に色々協力したりしていたとしても民衆のほとんどはそれを認識していないことがいい例だろう。
これからはジオンに協力する形でパフォーマンスする必要がある……かもしれないが——
「問題は距離だよなぁ」
「他のサイドまでならともかく、サイド3は遠いですからねー」
さすがもっとも地球から離れたサイドだよな。しかも月の裏側だからマスドライバーで直通できないという不便さ。
サイド3に行くぐらいなら道中の月か、方向は違うが直通で行けるサイド4がいいという観光客もかなり多い。
もっとも特別地区の民衆達があまり他のサイドに行かないのはジオン統治時代の恨みが燻っているという話もあるがな。
「あの頃から比べると特別地区も天国だな」
「マフィアなんて政治家達より堂々としてましたね」
「でもあの時はあの時でイジメ……拷も……虐さ……イジメて楽しかったなぁ」
「言い直すのを諦めましたね」
「マレーネさん、そんな小さいこと気にしてはダメですよ」
昔はジオンや連邦、宇宙引越公社から工作員や諜報員が来てたのに今では偶に不意討ちを狙って来るぐらいで当時から比べると静かなもんだ。
……ん?そういえば宇宙引越公社とコロニー公社はどうしたんだろ?一時期アナハイムと組んで色々していたはずだけど。
「それでしたら確か……アナハイムにノウハウを盗まれてポイッと捨てられたようですね」
「いや、ポイって、犬猫じゃないんだから」
だからって犬猫も捨てたらいかんぞ。
そんな奴らは蒼い死神が去勢する。
「なんにしても近いうちにサイド3に行かないといけないわけだな」
「一応特別地区の後ろ盾ですから」
「それに新兵器が拝めるかもしれませんし、お土産で包んでもらえるかも——」
「いえ、それはありえませんから」
普通に考えて新兵器をお土産で貰えるなんてありえないか……いつぞやはもらえたけど、それは一時しのぎの新兵器だったからだしな。
「それに1番知りたい新兵器は公開しないだろう」
「例の新機軸のサイコミュ兵器ですか、諜報員からの追加情報もありませんから期待したいところですけど」
「ハッキングみる?」
「バレない範囲でやってみるか」
<クスコ・アル>
ハァ、平和なのはいいけど最近アスナさんとは別の部署に移動させられて欲求不満だわ。
全くあの紫は本当にろくなことをしない。
「それになんであんたの補佐なんてしないといけないのかしら」
「その質問は何回目だ。ニュータイプの感性を平和利用するためだと言っているだろう」
平和利用、ねぇ。
感情の機微を察して取引を有利に進めようなんてあくどいやり方を平和利用なんてよく言えたもんね。赤い詐欺師も紫に影響受け過ぎなんじゃない。
「ハァ、こんなことならアスナさんと死神の陽炎に移ろうかしら」
「ナンバーズと上手くやっていける自信があるなら無理には引き止めないぞ」
……あの化物達と四六時中一緒にいるなんて気が狂うわね。
実際ブートキャンプとかいうのに行った部下がすっかり洗脳されてるんだもの……そんなところに行くなんて真っ平よ。
百歩譲って私は良いにしてもアスナさんをそんな目に合わせられない。合わせてはならない。
ハァ、八方塞がりね。
「自分で言っておいてなんだがナンバーズと一緒にいるのは苦痛か?俺が会う分には戦場にいる覚悟でいれば耐えられるが」
「良く言えばライオンやトラと生身で相対してる気分ね。悪く言えば砂漠のど真ん中で水食料無しの絶望感かしら……まだ甘い気がするわね。生身で宇宙に放り出された気分かしら」
「そこまで隔絶した存在なのか、だからアスナ君には決して合わそうとしないわけか」
アスナさんがナンバーズと会うなんてトラウマを作り続けているようなものよ。
ニュータイプは感受性が図抜けている反面心が弱い、その中でもアスナさんは特に弱い。
私が守ってやらなくて誰が守るの(使命感)
「……アル少佐、目が怪しいぞ。そしてニュータイプでない俺でもわかるぐらい卑猥なオーラが出ている」
「卑猥なんて失礼な。母性が溢れ出ているだけです」
ええ、私は決して欲に溺れているわけではありません。
例えるなら焼き鳥の1種のようなタイトルの魔法先生に出てくるいいんちょさんのようなもの。
そう、どっかの卑猥な妄想で霊力が溢れるバンダナを巻いたよこしまな存在のような存在ではない、