第二百六十四話
平和というのは次の戦争の準備期間とどこかで聞いたことがある。
ジオンとティターンズの兵器開発競争を知るとその言葉が正しいと思う。
俺達の軍事パレードで影響を受けたジオン、そしてそのジオンの影響を受けてティターンズも対抗するように軍事パレードの準備をすることとなったようだ。
「世論というのも酷だなぁ」
「ですねー。一部の民衆がジオンもするのにティターンズはしないのか、なんて……私達の後でやることになったジオンの苦労を好き好んで背負うんですから」
ジオンの影響を受けたと言ってもティターンズ上層部が、ではなく、世論に押される形ですることになったというのが本当のところなのだ。
この世論の動きには随分作為的なものがあることを俺達や当人であるティターンズも知っている。
これは俺達のティターンズの軍需利権を崩すための動きだ。
裏で動いたのはアナハイムの子会社、マフティーの子会社、旧連邦が優遇していた軍需企業群などだ。
意外なことにアナハイムの子会社、つまり末端は動いているが、アナハイムの母体自体はほとんど動いていないという。
ダイクン派諜報員と死神教諜報員両方からの報告では『もう死神様の相手するのしんどい』と、音を上げたようだ。
もちろん軍需産業から撤退したわけではなく、ただ単に直接妨害するのをやめたようだ。もっともこの報告もどこまで本気かわからないが。
「しかしアナハイムの軍需部門の赤字は相当なものであるようで、現在はアナハイム内でも肩身が狭いとも報告にあります」
これが本当なら嬉しいんだが、あの腹黒企業を信用することも油断することもない。
何より俺達と明確に敵対したエゥーゴの残党(と言っても主要人物はほぼ生きてるから残党と言っていいのかは謎だが)をティターンズに引き渡さないあたりアナハイムの闇は深いままだろう。
まぁ、せっかく逃がしたシャアとかララァを引き渡されると銃殺刑決定で、そんな結末になると興ざめだからいいけどな。
やっぱりシャアには華々しく散ってもらいたいものだ。
……あ、原作だと華々しくはなかったな。隕石に押し付けられて行方知れずだった。
「それにしても……ティターンズの宇宙再開発、ねぇ?」
これも諜報部が手に入れてきた情報だ。
ティターンズが残している宇宙利権は監獄のような扱いになっているサイド7と軍事基地の役割であるルナツーだけだ。
問題はその狭い利権の中でやりくりするのか、それとも新たな惑星なり小惑星なりを開拓するのかは不明だが、ジオンと話し合う必要があるだろう……また荒れる予感。
ジオンにとってティターンズが宇宙の勢力を拡大させることは嬉しいはずがない。
さすがに戦争とまではいかなくとも外交が荒れるだろう。
「私達もどちらに付くか、中立にするのか考えておく必要があるかと」
まだ議題に上がっている段階の話だし、地球復興が終わってない現状では気が早いとも思うけど……そういう未来を想定して動いておくのも政治家の仕事か。
「よし、間を取ってジオンとティターンズ、共同出資のサイドを建設するという方向で行くぞ」
「……明らかに火種をばら撒きにいってますな」
マハラジャが言いたいことはわかる。
今でこそ仮想敵国にまで落ちたが、元々は怨み辛みが積もりに積もっていた国同士だ。多少時が流れたとはいっても、ジオン地球領以外はお互いの接触が減ったことで疎遠になっているだけで内実はどう思っているのか、何かのきっかけで不満、怨嗟が爆発するかわからない。
そんな彼らが共同出資してサイドの建設なんてすれば毎日毎日トラブルだらけで済めばいいが、戦争のきっかけになる可能性は低くない。
「戦争があれば俺達が儲ける。つまり問題ない」
「しかしその思惑が相手に知られると私達まで共同出資させられる可能性がありますが」
うっ……そんなギスギスした中に入りたくないな。
治安維持を俺達に任せるなんて手を打たれたら下手をすると俺達の評判ガタ落ち、特別地区内だから問答無用で取り締まれるけど他国だと絶対問題になる。特にマリオンちゃんズの拷問とか。
「とりあえず日和見するか」
面倒になって放棄。
どこを開拓するかでも変わってくるしな。
問題の先送りだけどほとんど決まってないんだし仕方ないよね?
「そういえば水中型ラビットのクラブの調子はどうだ」
「好調と言えるでしょう。モビルスーツほどコストが掛からず、モビルスーツと同等の海賊や不審船の捕縛に成功しています」
「でも、海賊もクラブを手に入れたりしそうですよねぇ。コストが下がったということは海賊も手に入れれると考えておく必要がありますよ」
言われてみれば確かに。
今はまだ需要に合わせて供給しているからいいが、供給が上回ると価格の下落と買い替え、そしてそれを狙った買取業者、その顧客である海賊という流れが生まれることは明白。
買取業者の介入を制限しておくか……いや、買い替えの場合は下取りでない場合審査対象とするか?こうすれば多少は防げるだろう。
もっともメンテナンス部品などを流されるだけだろうけど、多少は阻害できる。
「では、そのように」
「こういう時はクラブが水中型でよかったですね。これで陸まで上がれるとなると取り締まりが困難になっていた可能性が高いです。実際インドネシアの海賊がズゴックIIを使って縦横無尽に暴れていたという実例がありますし」
水陸両用モビルスーツによる強盗強奪とか洒落にならん。特に特別地区は陸は陸、海は海と治安維持部隊を分けているから余計にそう思う。
ジオン地球領ではズゴックII同士の戦いが見られるそうだが……MIP社の利権とはいえ、これはどうなんだ?
ちなみに水陸両用ラビットことラゴックは湾近海のパトロールに使われているようだ。
モビルスーツサイズだと大きくて船の障害となり、接触事故が少なからずあり、評判にも関わっていたので結構重宝していると聞く。
攻撃力はモビルスーツに劣るが、センサーの類はほぼ同等にしてあるので数が用意できる分だけ有利なはずだ。
「でも空中戦用ラビット開発は流石にないだろ」
「ですね」
MIP社が調子に乗って可変ラビットの開発を申し入れてきたがさすがに却下した。
ラビットみたいな軽量級が空で生きるのは偵察機ぐらいだ。打撃力的にモビルスーツの脅威にならない、モビルスーツより小回りが効き、加速性が良いかもしれないがそれなら最初からドップブースターを作った方がマシだ。
小型化といえばF91やVガンだけど、あれは火力が充実していたから実現できただけで今の技術では時期尚早としか言えない。
まぁそういう意味ではMIP社は先見の明があるとも言えなくもないけど。
「それにしても……このCMはどうなんですか」
そこにはラビットが人参を加えて格好良く決めている映像があった。
「…………これが萌えというものか」
「いえ、違うと思います」