第二百六十六話
<ブルーパプワ政策部>
「おい、聞いたか?また死神様が無茶振りしたらしいぞ」
「今回の招集はそのせい?」
「噂では可能性大だ」
「思い付きでやるのは勘弁してほしいよなぁ」
「予算を一々組み直さないといけないこっちの身にもなれっての」
ブルーパプワ及びニューギニア特別地区を実質運営を司っている者達が愚痴る。
「そのへんでやめとけよ。死神教の奴らがどこにいるかわからないんだぞ」
「え、死神教って本当に存在すんの?」
実はこの特別地区の頭脳とも言える奴らは若干世間知らずな面がある。
政に関わる人間が世間知らずなんてろくな事にならないのは現代で実証済みではあるがこれには理由がある。
やはりその理由も死神によるところが大きく、通常の仕事であれば好きなだけ休みがもらえて好きなだけ働けるホワイトを通り越してクリア(透明)企業であるブルーパプワだが、政策部に限って言えば病欠?ヒール、寝不足?ヒール、怪我?ヒール、二日酔い?ヒール、産休?産む直前まで働かせて産んだ直後にヒール、休みたい?ブートキャンプ後ヒール、という死神の衣も真っ青な仕事漬けの日々。
ちなみに政策部の人間の殆どはヒールをされているという自覚はない、ただただなぜか身体的疲労がない自分は病気じゃないか疑ってみたり、自分は実は超人なんじゃないかと思ってみたりするだけだ。
まぁ自分が超人と勘違いしそうになっても本当の超人(マリオンちゃんズ)を見かける度に消沈してしまうのだが。
「そんなことも知らねぇのか、もう少し耳を鍛えろ。マハラジャ筆頭とマレーネ補佐にばかり負担が増えるぞ」
ブルーパプワでは諜報部を設立せずにダイクン派の諜報部はマハラジャの私兵、死神教信者は死神教団が管理している。
特別地区が発足される前は諜報機関も存在していたが、ジオンに支配され、特別地区が設立された際に壊滅……まぁマフィアが諜報機関の一種だったことも影響している。
つまり特別地区は官僚は居ても諜報機関はなかった。ただし、マリオンちゃんズというほぼ完璧な防諜によって他国からの諜報員も漏れ無く刈り取り、アドバンテージは取れなくともディスアドバンテージもなく、死神の力と名声により対等な関係を築けたことは幸いだった。
一応ブルーパプワにも独自の情報網は存在するがダイクン派諜報員や死神教信者から比べると諜報員ごっこと表しても問題ない程度でしか無い。
とは言え、ブルーニーやマリオンちゃんズが現状では困っていないという理由で諜報機関の強化を行っていないことが主な原因なのは間違いない。
しかしそれらはカーン親子の負担を確実に増やしていることをブルーニー達は知らない。
「予算が足りない」
「時間が足りない」
「やる気が足りない!」
ブルーパプワ政策部の標語の1つだ。
予算が足りないのも時間が足りないのもやる気が足りないからだ!という何時の時代の根性論なのか……そして何処のブラック企業なのか。
「政策部で根性論なんて持ち出されても困る」
「とりあえず今のうちから死神教団に根回しして寄付金募集しとくか」
「死神教団ってそういう組織だっけ?」
死神教は本家様と分家様を畏怖し、崇拝に至った者達の集まりである。
元々は非公認であったが、死神様主催で行われた集会によって公認となり、今では活発に勧誘や死神様への奉納のための寄付金集めなどが積極的に行われている。
特別地区はもちろんのこと、ジオン地球領、南中国、アフリカ南部、オーストラリアと利権と比例するように死神教も活発だ、
ただし、あくまで上記にあげたのは特に多いというだけで、オデッサやキャリフォルニアベース、マダガスカルなどにもそれなりに信者が多く存在しているし、世界各地で増殖中だ。
「死神様が進める政策なら喜んで金を出すぞ。この前のイベントも10分の1は死神教からの寄付金だからな」
「税金の無駄遣いが減るのはいいけど……なんだかなぁ」
「他にもド田舎のインフラ整備なんかも積極的に寄付が集まる。ああ、周りに信者が多いと労働力としても手助けしてくれるぞ」
ちなみにお礼にはマリオンズがこっそり訪れ、ヒールで1歳ほど若返らせたりしている。
このお礼によって治療方法が見つかっていない病が突然治ったり、一生残ると言われた傷跡が治ったり、処女○が治ったりなどが多発したため、信者は更に増え、奉仕や寄付をする信者も同じように増えている。
「これも死神様の加護なのか?」
「あの死神様でなかったら余命いくばくと言った感じの加護だがな」
「いやいや、名前書くだけで人が殺せるノートとか人の寿命が見えるんだろ」
「……お前はマンガ読み過ぎだ」
オタクの聖地を作っただけのことはあって特別地区でもオタク文化が広まっている。
しかし、若い人はともかく、そこそこ年齢の人はついていけず、温度差が激しい。
そういえばリアルでハーレムが可能な環境のためか、日本では流行っているハーレムが形成されるアニメや小説などは特別地区ではあまり流行っていなかったりする。
結局は、禁止されているから憧れるのであって、リアルでできるなら二次元化することは少ないのかもしれない。
いや、リアルを知っているからこそ、偽りであることがわかり、虚しくなるのだろう。
「おい、来たぞ!」
今までだらけていた雰囲気を切り裂く緊張が伝わってくる声が響き、この場にいる全員が背筋を伸ばし、襟を正す。
ドアが開き、入ってきたのは——
「「「「お勤めご苦労さまです!姉御」」」」
「……」
シーマである……一応後ろにコッセルとガイアがいるのだが、補佐と護衛であるため重視されない。
しかし、代表であるシーマの表情は不機嫌そのものである。もっともこれはいつものことでもある。
このヤクザorマフィアのようなノリが気に入らないシーマ以前から直すように折檻込みで話をしたのだが未だに直らないことが原因だ。
後ろの2人はそんなシーマを見て萌えているのは余談か。
「では会議を始める。今回集まってもらったのは大体予想が付いているだろうが、またブルーニーが思い付きでこんなものを寄越してきたこれの検討だ」
「……宇宙専用機の開発ですか、陽炎の方ではなんと?」
「緊急性はないが必要性はあると言っていた。私も同意見だ」
会議室にいたほとんどの人間が『ならほとんど決まりじゃねぇか』と思ったが口にはしない。
ブルーニーが考えたプラン、軍事関係のことでは発言権が強い陽炎、ダメ押しにシーマの同意、これで反論できるのは陽炎を通った段階でノータッチならアイナぐらいだろう。しかし、今回の書類にはアイナの署名も入っているためあくまで形だけの検討会でしかなかった。
ちなみに今回の会議にカーン親子は不参加だ。
親子は多忙なスケジュールであるため、本当に緊急性が高いものでないかぎり、緊急招集でも呼び出されることは少ない。
なんとも無駄な緊急招集だが、意思疎通は大事であるし、連絡の行き違いや個別に伝えると不満が増大するということもある。
まとめて知らせれば愚痴りあって勝手にストレス解消をさせるという意図もある。
「では我々は財源確保に動けば良いのですね」
「ああ、死神教からの寄付を募ってもいいがほどほどにな」
先ほどの会話を聞かれていたかのような発言に話していた当事者達はドキッとして、シーマはその様子を観察していた。
(ふむ、4人か、少ないな。やはり情報収集に疎いのか……それとも見て見ぬふりをしているのか、それとも死神教はマイナーな域を出ないのか)
今回の緊急招集は死神教の認知度チェックと情報収集能力の軽い調査も兼ねている。
そして思ったより反応が少ないとシーマは判断してこの後ブルーニーに再調査するように進言したのはまた別の話である。