第二百六十九話
続報、ノイエジールIIを強奪したエゥーゴ艦隊(俺達だけしか知らないから他では謎の艦隊)はジオンの追撃部隊に捕捉された。
まぁ、エゥーゴ艦隊は艦がバラバラで速度に差があったことが原因のようだ。
戦力が乏しいエゥーゴに選りすぐる余裕はなかったんだろうが、それでジオンの追撃部隊に捕捉されていたらダメだろ。
鹵獲された兵器は直ぐに実戦で使われるのはガンダムのテンプレ、ということでシャアとララァが乗るノイエジールIIとレコアが乗るR・ジャジャが率いる20機ほどのモビルスーツ部隊。
ジオン追撃部隊は、チベ3隻、ムサイ7隻、部隊指揮官はトワニング少将、モビルスーツ部隊を指揮するのは白狼ことシン・マツナガ、部隊は38機。
数的にはジオンが有利だが、速度重視の部隊編成であるためにノイエジールのような決戦兵器は存在せず、グフイグナイテッドを中心にした編成であるため有利と呼べるほどの戦力差はなかった。
エゥーゴとジオン追撃部隊は激戦を繰り広げたが、ジオン追撃部隊は追撃しているにも関わらず防衛一方だったそうだ。
結果、シャアとララァが乗るノイエジールIIが無双ゲーを繰り広げてシン・マツナガを含む4機を残してモビルスーツ隊は全滅、艦はムサイ3隻がなんとか航行可能、トワニングは生死不明の重体というありさまだ。
不幸中の幸いなのはトワニングとシン・マツナガが生きてたことか、戦争を経験している将官は重要だと身を持って知っている。
最近原作キャラ死なないなぁ。
「それにしてもノイエジールII強いな。今回は奇襲じゃなくて正面からの戦いだったのに一方的だ」
「グフイグナイテッドは多少旧式感があってもまだまだ現役機なんですけどね」
やっぱりグフイグナイテッドはやられ役になる運命なのだろうか。デスティニー的な意味で。
パイロットは西川さんじゃないはずなんだけど?
「それにノイエジールIIはニュータイプ専用じゃない、つまりサイコミュは未搭載のはずなのにこの動き……ララァ、腕を上げたな」
「むっ、ちょっとビンディ女郎を殺ってきます!」
「マリオンちゃん、レディは?」
「エレガントに!」
「よろしい」
まぁ、さすがにここからララァ達のところへ行くには時間が掛かる……はずだ。
……マリオンズがサイド5に駐在してるから案外間に合うか?
「冷静に考えると、多分ララァさんはモビルアーマーの適性が高いんだと思います」
なるほど、ギレンの野望なんかだとモビルスーツ乗れなかったりしたし、あり得るな。
そういえばモビルスーツよりノイエジールNを操っていた時の方が強かった気がする。
「ちなみにモビルスーツじゃなくて生身ならララァさん達に追いついてみせますよ」
誰かマリオンちゃんズを止めてくれ!!
<新たな火を起こそうとする勇敢な(哀れな)勇者(生け贄)達>
「ではジオンの奪取に成功したのだな」
『ああ、多くの犠牲を出したが成功した。不本意ながら実戦テストも済ませたがな』
通信相手は会話内容で分かる通り、クワトロ・バジーナことシャア・アズナブルことキャスバル・レム・ダイクンだ。
そして問題のもう片方の通信相手は——
『それで受け渡し場所は何処か教えてもらえるかね。グレミー・トト』
そう、グレミー・トトだ。
原作ではマシュマー・セロと並んでやられ役、噛ませ犬臭を漂わせていたのに終盤で、はにゃーん様……ゲフンゲフン……ハマーン様を裏切って一勢力のトップまで上り詰め、プルツーやプルクローンを無理やり抱き込んだロリコン。
そして一部ではギレンのクローン、デギンの隠し子、プル達とは異母兄弟などなど憶測が飛び交う変わったキャラだ。
「わかった。座標を送る。くれぐれも内密にな」
『わかっている。そういえば君の同志という人物から別件の荷物も渡された。そちらに一緒に送っても構わないな?』
「(同志……バーニィか、サイコフレームが開発に成功したと言っていたからそれか?)ああ、一緒で構わない。手間を掛けさせたな」
『なに、これからは一緒に戦う仲間だ。これぐらいのことは構わんよ。ではな』
そう言って通信が切れる。
「クックックッ、赤い彗星を顎で使うなんてやっぱり私が主役なのだな。当初の予定では失恋状態のハマーンを口説いてプル、プルツー、プルクローンのハーレムを作る予定だったのに、なんでかハマーンはいないし、クローン技術はあっても素体がプルじゃなくて男だし……ハァ」
察しのいい人はわかると思うが、このグレミー・トト、最低系オリ主思考の転生者である。
それでも他の転生者を利用することはあっても蔑むことはないのは不幸中の幸いだったのか、それとも幸運の中の不幸なのか、不満が溜まっていたアクシズの住民をまとめ上げて蜂起することに成功した。
更に部下の伝で知り合った同じ転生者である研究、開発者のバーニィの協力を得た。
そしてアナハイムからの支援も約束され、ブレックス、ヘンケン、シャア、ララァ、レコアなどの主人公側であるエゥーゴも参加することが決まった。
主観的には自分が主人公であるかのように錯覚してもおかしくないほど順調……に見える。
「しかし、まさかデギンの隠し子説が正しかったとは思わなかった……年取ったら私もあんな風になるのか」
この転生者がアクシズを掌握することに成功した要因の1つはデギンの隠し子であったということだ。
ただし、デギン自身はグレミー・トトという隠し子の存在を知らない。
細かい経緯の説明は省略するが、よくファンタジー系の小説にある貴族が使用人をお手つきにするという話のリアル版である。
使用人は権力争い(当時ジオン・ズム・ダイクンとザビ家の権力争い)を恐れてデギンに何も話さず雲隠れ、そして行き着いた場所がアクシズだった。
最初は母親の証言だけで信憑性がなく、周りに信用されなかったがDNA鑑定をした結果、間違いなくデギンの子であることが証明された。
ちなみにどうやってデギンのDNAを入手したかは謎である。
「しかしダイクンの遺児とザビ家の隠し子タッグの影響力がこれほどあるとは」
ダイクンの遺児であるシャアのおかげでダイクン派の支援を受けて物資や資金を手に入れれることができた。
そしてザビ家の隠し子であるグレミー・トトの存在は、ギレンやキシリアなどの陰湿で疎ましく思っている存在達にとっての希望となった。
ギレンにしろキシリアにしろ才能もあるしカリスマもあるが才能のない一般人やそれに近い凡人などにとっては威圧的で独裁色が強すぎるのだ。
それに比べグレミー・トトは風貌や外見から、どちらかと言うとガルマに近く、刺々しさがなく、戦争でささくれた人達にはウケがいい。
ただし国のトップとしていいかどうかは不明だが。
「しかし……転生者が他にもいるのはともかく、原作の形が欠片もないのはなぜだ」
実はこの時点でグレミー・トトは致命的なミスをしていた。
それは……死神に関しての情報不足だ。
とは言っても仕方ない部分がある。
そもそもアクシズはかなり辺境の地であり、情報収集能力にも限度がある。
それでもアナハイムやジオン内の同志から死神の情報は上がっていた。
しかしだ。
一般常識から考えて——
1機のモビルスーツが師団を壊滅させれる。
とか
ビームを躱すどころか相殺する。
とか
生身でリアル野菜人。
とか
それらが15人以上いる。
なんて情報が報告されたとして……信用するのか?
正直バカにされているとしか思わないだろう。
そしてアクシズは戦争に参加していない人達の集まりであるため流言やデマ、誇張などであると判断してもおかしくない。
協力者であるバーニィは研究、開発者の宿命で世間に関心がなく、アナハイムは情報を渡しているから問題はないのだと不幸な行き違いがあった。
「それに原作のエース、ラカン・ダカランの不在も痛いな。主力はマシュマー・セロとキャラ・スーンとクローン兵の試作品だったニー・ギーレンとランス・ギーレンか……それにしてもギーレンが双子じゃなくてクローン兵ってのは驚きだ」
原作では表立ってクローン兵を使うには問題が多過ぎると見たハマーンが双子として徴兵していた。
結果的にはグレミーも同じように双子として処理をしているのだが。
「随分原作と違う点が多いが……なんとかなるだろう」