第二百七十話
<グレミー・トト>
ノイエジールIIが届いた。
バーニィからの送られてきたのはやはりサイコフレームだった。
これで勝てる!と思うほど私は楽観的ではない。
ここにサイコフレームがあるということは、ジオンでも導入されているということだ。
サイコフレーム、原作でも色々と謎が多いパーツだけに効果も未知数、バーニィから送られたデータでも未知な領域が多過ぎて使い道が不明だと書かれていた。
「バーニィは原作知識がないのにここまで研究成果を上げているんだから間違いなく天才だな」
恐らく転生者の中では群を抜いている存在だろう。
私もそうだが、アルも小学生の頃は天才だのと呼ばれていた。しかし中学2年あたりから教育のレベルがあがり、高校受験の頃には凡人以下になってしまった。
慢心していた自分を奮い立たせてなんとか上の下……すまん、見栄を張った。中の上まではなんとかなったが……バーニィは高校も大学も主席で卒業しているそうだ。
ここで間違ってはいけないのは私はアクシズという辺境で中の上で、バーニィはサイド3という国の首都で主席であることだ。
それは天と地、月とスッポン、東大と高卒ぐらいの差がある。
その差が、原作知識もなく、サイコミュの重要な部分のデータ無し(キシリアが消去していた)でサイコフレームを作り出すなんていう偉業を成し得たのだろう。
もう原作のバーニィの片鱗なんて残ってないな……牛乳瓶の底のようなメガネに、切る時間も惜しいと伸ばし放題の髪と髭、典型的過ぎる科学者イメージで最初はキャラクターを作ってるのかと思ったが知るに連れて、これが素だと知った時はこんなにもイメージ通りの人間もいるのかと感心したものだ。別に見習いたくはないが。
「しかしせっかく送ってもらったサイコフレームだが……難物だな」
届いて早々にアクシズの開発室に持ち込まれたが上がってきた結果は散々なもので、応用どころか普通に使用するだけでも難しいらしい。
人材も資源も資金も設備も足りない。
「やはりアナハイムの力を借りねばならないか」
いい加減借りが多い、それが更に膨らむとなれば嬉しく思う人間などいない。
追加融資を頼むとして対価は……サイコフレームだけで済むか?ノイエジールIIのデータは既に送られていると聞いている。
実機は私達の貴重な戦力であるし、アナハイムもその辺は理解してくれるだろう。
問題は私達もアナハイムもサイコミュに疎いことだ。
アクシズにはサイコミュの技術は原作と違ってほとんどない。
その要因は恐らくアクシズの資本のほとんどがキシリアの遺産だったからだと思っている。
唯一の救いはクローンという存在で人手自体は困らないということだが、男だし……プルシリーズは何処いった。
しかもニュータイプのクローンではなく、身体能力を科学的に強化はしていてもオールドタイプのクローンでしかない。
「それもアナハイムの資本で成り立っているというのが歯痒いな」
元々アナハイムがバックアップしていたエゥーゴの敗退で大きく影響力を落とし、エゥーゴ再起と私達の現状打破のための策として用意されたものがこのサイボーグクローン兵だ。
生産はグラナダなどで行った方が効率が良かったのだが、もしバレた場合大ダメージとなるため辺境(アクシズ)で製造しようという意図で設置されたようだ。
理由が納得出来ないし、私も道徳的にどうかと思うが、おかげでモビルスーツはともかく、兵力と質は充実している。
サイボーグクローン兵は連携に難点があるが通常の兵士相手なら1対5でもいい勝負をする……はずだ。アクシズ兵以外を知らないため正確かどうかわからないが。
「マシュマーは未だにうるさいが……これは仕方ないか」
彼は原作通り騎士道が好きらしく、サイボーグクローン兵のことを毛嫌いしている。
マシュマーのあの芝居がかった紳士のような道化の雰囲気は元々であったらしい……これがアクシズのエースだというのだから頭が痛い。
「忠義は本物のようだから嫌いではないのだが、如何せん綺麗に勝とうとし過ぎるところがあるところが問題だ」
ちなみにサイボーグクローン兵に関しての他の兵士達の意識調査では自分達の被害が減るし、そもそも国力差があることぐらいは認識していて仕方ないという意見がほとんどだった。
勝てば官軍、負ければ賊軍なのは戦争では当然だ。
「……エース候補といえばイリア・バゾムは何処いったのだろう。若き彗星の肖像に登場してたんだからいるはずなんだが……カーン一家が出国した時についていったわけでもないのだが……」
あの派手さは私の好みではないが、マシュマーより信頼はできないがパイロットとしては上のはずなのに……何処いった。
貴重なニュータイプ枠なのに……ん?そういえばサイコフレームを手に入れたが……誰が使うんだ?
…………。
…………。
シャア……はニュータイプのレベル自体は低いんだっけ?サザビーに搭載しなかったのもそれが理由だったはずだし、ならララァか?
しかし、せっかくの切り札が同盟とは言え、別組織に使われるのは癪だ。
誰か、誰かいないのか。これが原作なら強化人間にすればいいだけなのだが、あいにくと強化手術ができる設備は今のアクシズにはない。
アレもキシリアの遺産の1つだったんだろう。ニュータイプ研究に熱心だったのはキシリアだから当然といえば当然だ。
とか真実の一端を知って悦に浸ってる場合じゃない。
「ハァ、ララァを頼るか……そういえばハヤトもエゥーゴにいるんだっけ?カラバはどうした」
いや、そもそもカミーユとかアムロとか何処いった?全然情報が入ってこない……のはいつものことだがアムロは連邦軍から脱退したことまでは掴んだがそれから先の情報がないのは、わかる。ニュータイプの危険性とか言って軟禁されてるからな。
でもカミーユはどういうことだ。サイド7に送っておいた工作員からは姿も形もないとか……歴史が変わりすぎて移住してこなかったのか?今のサイド7は監獄のようなものになっていると言う話で、そろそろ工作員が心折れそうらしいから帰還命令を出さないと……。
そもそもなんでジオンが勝ったのか、なんで連邦がティターンズに呑まれたのか、ニューギニア特別地区?ロシア独立?黒人差別暴動?わからないことが多過ぎる。
「死神って言葉がいっぱい出てくるが転生者の秘密結社とかなんだろうか」
もしかしてハマーンを奪ったのもこいつらか?クリスチーナ・マッケンジーとサラ・ザビアロフが死神に関連していることを考えるとあり得る。
いや、クリスチーナ・マッケンジーとサラ・ザビアロフが転生者という可能性も捨てがたい。
なんで私の周りに可愛い女の子がいないのだ……いるのはモブばかり、キャラ・スーン?ケバすぎ。
「いかんいかん、真面目スイッチがいつの間にかオフに」
パイロット的強化はこれ以上見込めない以上モビルスーツの性能向上と生産を重視するしかない。
幸い原作通りのアクシズと連結させていたモウサ、そして原作にはなかったモウサの反対側に新たに追加したコウサのおかげで新たなスペースと資源を同時確保した。
そのせいで地球圏へ向かうのが遅れたが、これぐらいしないと戦争をすることなんて夢のまた夢だった。
それに木星からヘリウム3を輸送の手間が省けるということで安く大量に仕入れることができたのも大きい。
「本当は全て使えるぐらいにモビルスーツを用意できればいいんだが……どこかに転売するしかないか」
確か最近活動しているレインボーゴーストとかいう海賊団がいるはずだ。
そいつらなら多少高く買ってくれるだろう。大口は結局アナハイムになりそうだが……そういえばサイド6と5も独立したサイドだったか、それに防衛戦力を保有してるはず……1度打診してみるか。