第二十七話
「え、じゃあ今は統合整備計画系統のモビルスーツの部品も製造しているんですか」
「はい、90mmの弾を順調に製造してジオンに売り渡ししたんですけど、どうやらあの司令はあっちこっちの基地に補給という名目で売って儲けているようでそれで調子に乗って事業拡大と拡張工事を持ち掛けられまして…」
「それでこうなった訳ですね」
「はい。幸い兄さんが協力してくれましたから不良品は少なく、どうやら統合整備計画系の補給は宇宙が優先されているようで補給が滞っていてお客も絶えないようです」
司令、やることがセコいぞ。
それと調子に乗りすぎ、馬鹿なの?死ぬの?絶対株に手を出すなよ。失敗するから。
そして一番言いたいのは…軍人が商売するなよ。
「ところで…アイナさんのお兄さんは大丈夫なんですか?なんか激痩せ…いえ、やつれてますけど」
「いつものことなので気にしないでください」
あれー?ここって深刻な顔するシーンだよね?
なんでそんな笑顔?
「血も偶に吐いてますよね」
「あれは鼻血が口から出てるだけです」
……え?
「……二重人格かと思うほど人が変わる時がありますけど」
「ちゃんと寝てる時と極度の寝不足状態なだけです」
…………え?
「もう兄さんを心配するのは止めたんです。正確に言うと優先順位を下げました」
「おお、ここに来てまさかの惚気ですか」
「1シロー、2会社、3マリアさん達、4兄さんです!」
俺達の順位割りと高えな、おい。
「シローは説明に及ばず、会社は私達の家にして生活です。そしてオーナー兼理不尽な暴力のマリアさん達は会社のために不可欠、そして色々駄目ですけど家族の兄さんです」
「そ、そう…私達も頑張るわね」
「期待してます」
アイナがめっちゃ逞しくなっとる。
前までお嬢様って感じだったのに…シロー、間違いなくお前尻に敷かれてるだろ。
「それでマリアさん達にお願いがあるんです。そろそろ発電施設を本格的にしたいと思うんですけど…」
「つまり資金が必要だと…見積もりは出してる?」
「こちらです」
本格的に大型核融合炉の投入か、モビルスーツの核融合炉はサイズと出力を重点的に開発されていて燃費が悪くて今のままで運営を続けていくのは無理があるだろうけど…問題は資金をどうするかだ。
なにせ値段がジム改500機分とは安いが高いぞ。
一番簡単に資金を稼げるのは連邦のモビルスーツ鹵獲なんだけど…ジャブロー強襲の被害は俺が思っていたほど連邦に余裕がない。
鹵獲したモビルスーツを買い取るなんて言う正規軍人らしくないな、と思っていたけど本当にギリギリらしいし…ちょっと連邦に味方するかな。
というか最終的に連邦に勝たさないとティターンズ、デラーズ・フリートが…いや、もう色々違ってきてるから原作知識なんておまけ程度にしか役に立たなそうだけど。
んーどうやって稼ごうか、モビルスーツ鹵獲したら連邦が弱まる。ジオンを倒しても金にならない。
安く仕上げるのに太陽光発電があるが工業で使うには不安定過ぎるし、コロニー落としの影響で天候も狂っているので導入するのは難しそう…なんか俺達、会社に束縛されつつあるな。
「イーさんにマダガスカルと交換で取引してみるかな。でもアイナ達はともかくギニアスはジオン軍人だしなー協力してもらえなくなるだけならともかく妨害とかされると面倒なことになる」
『そうですね。よく話し合う必要があると思います』
アイナに話した所納得してくれた。
そしてギニアスとの話し合いはアイナが説得してくれたので俺達の労力はあまり必要なかった。
後でアイナから聞いたんだがどうやらギニアスはアフリカ周辺はほとんどがキシリア派が支配しているのが気に入らないらしく、それほど抵抗はなかったらしい。
もっともできれば被害を最小限に抑えて欲しいとも言われた…また無茶なことを…と思ったがギニアスと司令が協力して俺達が傭兵であることやマダガスカルに向かうと言う情報と降伏すれば保護されるという噂を流すらしい。
そんなことで降伏してくるのかは甚だ疑問だけどな。
やっぱり半分内戦状態のジオンは負けて当然だと思う。
「後はイーさんに話を持ちかけるだけか」
「断られることはないと思いますけど…マダガスカルを連邦が確保すればインド-ジャブロー間のシーレーンが成立するかもしれません。もっとも南アフリカを取り戻さないと安心できませんけど」
アフリカはざっくり言えば西側は連邦、東側はジオンでジオンの方が少しリードしていて少しずつ勢力範囲を広げている。
西側の連邦が保っているのはジャブローからの早い段階でモビルスーツ導入があったからとイーさんに聞いた。
やはり本来サラミス級やマゼラン級に回される生産ラインのほとんどをモビルスーツ開発と生産に傾けたようで数が多く、質も高い。
ただし宇宙ではその代償として宇宙ではジオンがルナツー攻略作戦を思案中らしいとは司令からの情報だ。
ルナツーでもモビルスーツ生産は進められているが両軍の情報を手に入れた俺達が導き出した未来はルナツー陥落。
どうもジオンが防衛ラインというか勝手に守りやすい地形を陣取って国境を定めているおかげで比較的安定してきていて、ジャブロー強襲の成功もあって戦意が上昇して各地でジオンに協力する企業や政治家が増えてきたらしい。
「連邦敗北フラグっぽいよなー」
「私達が与えた影響ですけど私達ができることも限りがありますし」
本当にな、俺達だけで国が潰せるわけではない…こともないか、実際連邦は潰そうと思ったら潰せそう。
という訳でジオンの敵になったわたくしブルーニーとマリオンちゃんだったんだが…
「なんででしょう。凄く虚しい」
「本当にな」
ゾックが大きい理由の一つである大出力ジェネレーターがサイズ無視に俺達の出力、推力になったせいか機動性運動性が大変なことに…多分グリプス戦役クラスだぞ、今の俺達。
ただ、虚しいのは俺達が高性能になって一方的な戦いになったからとかそんな理由ではない。
「始めの6機までは調子よく食材にしたんですけどねー」
「まさかそれ以降、白旗を堂々と掲げてくるとか拍子抜けもいいところだ」
敵前逃亡っぽいけどいいのか?と疑問に思ったが上からモビルスーツを無駄にするくらいなら降りて降伏するよう言われたらしい。
まるで俺達は災害のような扱いである。
近くのコロニーへの移住で無人になったらしい島にミデアを待機させていたが…捕虜の数が凄くてバケツリレーのようにミデアが行き来している。
この前イーさんからミデアを2機購入したがフル導入してももちろん間に合わずコンテナ内を2階建てに改造してギュウギュウに詰めて出荷、男だらけのコンテナ…うん、遠慮願うな。
あ、もちろん女性は女性だけで寝れるぐらい余裕にして送ってあげてる…え?差別?いえ区別です。マリオンちゃんの冷たい視線が癖になりそう。
「結局戦闘より輸送が面倒ですね。早くしないと連邦が来てしまいます」
「その時は沈めてしまえば問題——」
「大有りですから、いきなり何言ってるんですか」
「いや、ちょっと最近縛りが多すぎてぶち破りたくなったんだ」
「気持ちは分かりますけど…最初の頃は自由でしたからねぇ…まだ2ヶ月も経ってませんけど色々ありました」
これがアニメなら過去の振り返りで、毎週見てる人間からしたら苦痛でしかない時間が訪れるタイミングだな。
「それにしてもザク改の味はアサリの鉄分たっぷり味噌汁ってどうなんだ。俺達の身体で鉄分って逆に弱くなるんじゃね?」
「かもしれませんね」
戦争ってこんなに楽な——ッ?!
「あービビった。まさかグレネードランチャーで狙われるとは思わなかったわ」
「念のため共有してて助かりました」
ちなみに撃ってきた兵士は周りの味方のはずの兵士にボコボコにされている…あ、腕が曲がらない方向に…
「そのあたりにしておけ、連帯責任で虐殺なんてしないから」
後で話を聞いたら親友がグフに乗っていて連邦に酷い殺され方をしたらしい。つまり遠因…いや近因か…である俺達に復讐をしようとしたらしい。
うん、一気に戦争らしくなったな。
俺達は人間とは違う『生物』になっちゃった影響か人間を殺すのに罪悪感なんてほとんどない。蟻の巣を見つけて水を流しこむか放置するかの違いにしか思えないからその気持ちは分かり辛いけどな。
今のでわかったかもしれないが実はジオン兵は前みたいに簡易牢獄に入れてません。
人数が多すぎて野放し状態だ。ぶっちゃけエース級がいないと襲われても勝てるし問題ない。
それとついでにアンケート行い俺達の会社に就職してくれそうな人間がいないか絞り込んでいる。
南アフリカなんて辺境(コロニー移住で人口がかなり減っている)に配置される兵士だから当然それに合った出自の人間が多くいる。分かりやすく言うとシーマ様と同じような感じだ。
「とっとと終わらせて自由が欲しい。と言ってもやること無いんだけどな」
「今の所食道楽以外特に意味を感じませんね。宇宙に帰りたいとは思いますけどそのうちでいいですからね、正直いつでも行けるようになったので慌ててませんし」
「しばらく会社拡大に力入れるのも暇つぶしになるか」
「そうですよ。ただパワーバランスが面倒ですけどね」
連邦にマダガスカルを渡して報酬も振り込まれていた…日付確認したら契約して翌日だった。イーさんの好感度があがっているらしい。
捕虜をベトナムの基地に引き渡し、厳しい審査の下で軍人さんを15人ほど引き抜いた。
そのうちモビルスーツ乗り5人、歩兵5人、工兵5人という内訳でそれぞれ似たような仕事を割り振った。
ギニアスとの話し合いで捕獲した兵器は4分の1を俺の取り分でそれ以外はベトナムに運び込んだ。
残念ながらマダガスカルに配備されていたはずのグラブロは確保できなかった…残念。
そして再びイーさんから依頼が…と言うか、ジャミトフさんから依頼が来た。
「ジャミトフさんがなぜ俺達に?派閥的にはおかしくないだろうけど…」
「イーさんが私達と協力関係になってからすぐに話したようなんですがどうやら今まで眉唾の存在であまり興味を示さなかった私達ですがジャブロー強襲の際の戦闘映像を見て興味を惹いたようです。どういう感情で興味を持ったのかは知りませんけど」
「裏がありそうで怖いよなー…で、取引内容は?」
「マダガスカルの報酬の倍出すからオーストラリア奪還と南アフリカ解放だそうです」
言葉が若干違う…奪還は連邦とジオンが入り乱れているから、解放はジオンの占領下だからかな?
「それって別々の報酬だよな」
「もちろんです。南アフリカは最悪海岸沿いを解放して欲しいそうです。考えはわかりますが…もう少し自分達でどうにか出来ないんでしょうか」
「それだけ切羽詰まってるのか、それともただ利用したいだけか」
「とは言ってもマダガスカルでは激しい航空戦が繰り広げられてるそうですけど、アフリカ大陸が近いですからね」
いくら航続距離が短いドップでも到達できるから激戦区になるよな。
セイバーフィッシュが生産できれば売れそうだけど…連邦ってこういうの買ってくれるのかねぇ、正直利権問題で買ってくれなさそう。
「空中戦は得意じゃないから防衛に参加しろと言われないだけマシだけどな。前からも後ろからも撃たれそうだし」
「それでどうするんですか?」
「う〜む、思案のしどころじゃの〜」
「なんですか、その優柔不断大名みたいな台詞は」
絶対見てるよね?