第二十八話
「うひゃー凄いね。昼夜問わず汚い花火が上がってるよ」
「本当に花火みたいです。人の命が散る輝きですね」
重いよ、マリオンちゃん。でもでもそんなのかんけーねー。
セイバーフィッシュとドップによる空中戦は俺達の管轄外だ。
今俺達が見ているのはモザンビーク海峡(マダガスカルとアフリカの間の海のこと)上空の激闘だ。
ジャミトフから南アフリカの攻略に『協力』してくれという依頼を請けてここにいる。
今回は『協力』なんだよ。つまり俺達だけで攻めるわけではなく、連邦も攻める。
俺達の秘密がバレたら面倒だ…いや、そもそも俺達のことがどれぐらいわかっているのかもわからないんだけどさ。
うちらのミデアはマダガスカルに待機していて、俺達が鹵獲したモビルスーツは連邦が回収してミデアに届ける手はずになっている…もし舐めたことしたらジャブローの残りを焼け野原にしちゃうぞ♪って脅してあるから大丈夫だと思いたい。
ちなみにアイナとシローは連邦に知られると厄介なので工場でお留守番である。
「さて、手薄なところから回り込んで基地を奇襲しますか」
「私達の取り柄はいつまでも戦えることと単独行動ですから必然と戦法は決まってきますね」
本当は正面突破でも可能なんだけどドダイなんかの爆撃が面倒だからな。
途中まで川を遡って…と思ったんだけどモビルスーツが潜れる深さがなかったので諦めて徒歩で移動。
「この辺りから上陸するか」
「警戒も薄そうですし問題ないかと」
ブルーニー上陸、ジオンや連邦からすればゴ○ラ上陸ぐらいの恐怖だろう。決してゴリラではない。
「さて、座標ではこの先——これは待ち伏せか」
「そうみたいです。まんまと罠にかかったみたいです」
マリオンちゃんとの共有で殺気を感じて足を止めると銃弾の雨が降る。
発砲音からうちの会社で作っている弾薬であることが判明(正規品とは若干音が違う)して統合整備計画系であることがわかったのは凄い皮肉だな。
音から数は20、半分が統合整備計画系、残りは遠くに姿が見えている…ザクIIJ型かな、マゼラトップ砲持ってるから多分そうだろ。
こんなに辺境にまで統合整備計画系が配備されているなんてジオンは余裕あるのかね…多分ジム改に対抗できなくなったことが主な原因だと思うけど。
それが一斉に不意打ちしてくるんだから普通は大ダメージなんだろうが…甘い。
EXAMシステム通常で起動している俺達にこの程度の奇襲は事前に察知して警戒しているからな。
ヒャッハー汚物は蜂の巣だぁ!って感じで乱射しているがこちとら蒼い死神、その程度の攻撃、当たるわけない!
「3発ぐらい当たってますけどね」
「細かい数は気にしない!」
悪ふざけでアクロバット回避したらちょっと当たっただけじゃないか。
統合整備計画系が前衛を務めるらしく姿を現した。
「ヤダ〜全部ゲルググさんじゃないですか〜(‾ー‾)ニヤリ」
「本当ですね。凄く強そうじゃないですか〜(‾ー‾)ニヤリ」
一瞬ゲルググ5機がビクッ!ってした気がするが気のせいだな。
なんだかさっきまでとは違った意味で必死にマシンガンを乱射している…あれだけ撃ってジャムらないあたり優秀な兵器なんだろうね…現代の銃もジャムるよね?ミリオタではない俺には正確にはわかんないけど。
「んじゃ、前回NT-1に使ってたら楽に勝ってたじゃないか、何で忘れてたんだよアイアンネイルの初出番!」
「いけ、ブルーニー!みだれひっかき!」
「ポケモンじゃねぇし?!」
ここに逆シャア再現!(立場が逆でシャアの名シーンを再現の略)
俺達に向かって飛んでくるマシンガンの弾を避けながら最短で一直線、腕からアイアンネイルが飛び出しゲルググのコクピットを貫く!
「あ、せっかく逆再現出来たと思ったのに俺達ジムじゃねぇ」
「いったいなんのことですか?」
「いえ、なんでもありません」
さて、次を…と思ってビームライフルを向けると——
「なにぃ?!居ないだ……と?」
「見事な土下座ですね。モビルスーツって正座ができるって初めて知りました」
ズゴック当たりはガニ股を直したら関節が壊れるらしいぞ。それで某シャアさんをアムロは笑いながらビームライフル撃ってたな。
他の奴らも土下座してる…あ、ザクは土下座が完全じゃない、これは死に値する——
「いくらブルーニーさんでも土下座してる人を殺したりしませんよね」
「う、うむ、超寛大な吾はそんなことせんのじゃ」
なんか別作品のキャラが憑依した気がした。無性に蜂蜜が食べたくなってきたぞ。
「それでなんで降伏…というか土下座?」
『蒼い死神は傭兵と聞いていたので普通の降伏でいいのか分かりませんでした!』
あ、なるほど、前回のマダガスカルの降伏は最初からモビルスーツとか投げ出して生身で降伏してきたから気にしなかったけど確かに正規の降伏の仕方とか知らんわ。
「それにしてももう少し粘るとか…ねぇ?」
『私達は蒼い死神って分かって降伏しようとしたんですけど、先ほどやられたゲルググのパイロットが隊長でして…』
なるほど上意下達ってやつか、軍人なら仕方ないよね。
……いや、ちょっと待て、ろくに戦わず降伏するって軍人として失格だよね?!
「まぁいいや、この辺には他にお仲間はいないか?」
『待ち伏せしていたのは私達だけなのでいないと思います』
なら早速連邦軍を呼ぶか、幸いミノ粉濃度はそれほど高くはないから映像は乱れるが音声だけなら届くだろう。
呼んで20分もしないうちに無事連邦のミデア4機が到着、自分で読んどいてなんだけど最前線にも関わらずよく来てくれたもんだ。
それぞれのコンテナからジムクゥエル1機とジム改2機が出てくる。合計12機の増援…かなぁ?足手まといな気もする。
そして空になったコンテナにモビルスーツを押し込む。
ミデアが4機しか来ないのは分かっていたんで無理やり詰め込んでも4機しか載らないから予めゲルググ2機ザク2機を美味しく頂いた。
ゲルググはほうれん草のおひたしだった…渋いな〜…あ、マゼラトップ砲を持ったザクIIJ型はきっちり梅おにぎりとイナゴの佃煮だった。
めちゃくちゃ美味しい組み合わせだったけどな!ちょっと目からオイルが零れ落ちそうになったぜ。
チラッとミデアのパイロットと情報交換すると開戦時こそドップに押され気味だったが今は連邦の方が有利らしい。燃料が少なく継戦能力が乏しいのだから時間が経てば経つほど連邦有利に傾くのは当然である。
捕虜も収容してミデアを見送った…捕虜は客だからあまり無体なことすると…探して海に沈めるぞ、と言ってるんで大丈夫だろう。
俺って最近脅してばっかだな。連邦をイマイチ信用しきれない…というか戦争中の兵士は信用できない。バスクとかはいつでも信用できないけど。
増援を率いてモザンビークの基地の1つに向けて進んでいる。
そして伏兵第2弾。
「お前達は後ろから援護を…間違えて俺達を撃ったら即反撃するから注意しろよ」
『了解しました』
「さて、問題は俺達にどれだけ火砲が集まるかだな。調子よく集中攻撃してくれたら味方の損害が減っていいんだけど」
「きっと大丈夫ですよ…ほら」
降り注ぐ銃弾と砲弾、更にはビームが降り注ぐ。
ビームってことはあまり評判が良くないビームライフル武装のモビルスーツがいるってことか——とぉっ?!
「反射的に撃ち返したけど異論はないよな?」
『………ありません』
「まさか本当に背中から撃てれるとは思ってなかったです。協力体制なのに…世も末ですね」
「コロニーを後2、3個地球に落とせばリアル世紀末だろうけどな」
気持ちは分かるけど大量だから良いではないか良いではないか、今度はドム6機が前衛に遠くにゲルググキャノンも同数遠距離から支援しているっぽい。
宇宙なら届くメガ粒子砲でも地上ではさすがにキャノンタイプの射程には劣るので実質射程外。
とりあえずドムを片付けてからゲルググキャノン——いや、ここは…
「お前達はドムを、スカート付きを片付けろ。俺はゲルググキャノンをやる」
連邦、ジオン双方のモビルスーツ戦ってよく考えればこれが初めて見るな。でもじっくり見てられんのだよ、ゲルググキャノンのお相手しないといけないからさぁ。
ジオン軍はなかなかやり手のようだがそれ以上の連邦軍のOSだな。
射撃兵器の回避は連邦軍のOSが上回り、しかも本来苦手な接近戦も上手い具合に間合いを取ることで接近戦を避けている。
押されながらも簡単に落ちないドム達の様子からするとなかなかの腕なんだろう。…よく考えたら割りと速攻で片付けてるから強いのかどうかわからないんだよな。
そんなことを考えながらゲルググキャノンキャノンを射程内に捉え——
「また土下座か?!」
「まぁ楽ができたと思えば…」
戦闘しなかったのは楽だったけど輸送に時間がかかりそうだ。
連邦VSジオンの本来あるべき姿の戦いを観戦する。
俺達が撃破したのってまだ最初の1機だけという悲しい戦果であるが俺達は大人だから気にしない。
この時、まさか降伏する時に土下座することがジオン、連邦で流行するとは思いもしなかった。