第二百七十一話
<グレミー・トト>
サイド5、6から返答があった。
ヘリウム3の売り込みに成功したのはサイド5のみで、サイド6は断られてしまった。
多少足元を見られたが、アナハイムに買い取られるよりはいい値段で売れ、しかも卸す量に制限はない。
気になるのはサイド5が何処からかは知らないが私達がノイエジールIIを手に入れたことを知っていたことだ。
ただし、興味が無いのか、知らないだけなのかはわからないがサイコフレームのことに関しては触れてこなかったので解析データだけ売り払うことにした。
ジオンだけの技術ならともかく、アナハイムも既に手に入れているとなると秘匿する価値はないと判断したからだ。
そもそもノイエジールIIのような大型モビルアーマーを生産するほどの施設が独立して間もないサイド5にあるとはとても思えないし、あったとしても敵となる可能性は低いだろう。
元々敵はジオン、連邦は……いや、今はティターンズか……が敵になることはないはず、むしろ仮想敵国が弱体化するのだから支援はしても、敵対することはないはずだ。
「何より……これはティターンズの支援、なんだろうな」
アクシズという関係上ほとんどの繋がりはアナハイム、そして次点でジオンだ。
しかし、最近になって、特にノイエジールIIを奪取してからは地球の企業がスポンサーとして資金や資源、精密機器、技術などが提供してきた。
最初は罠かとも思ったがジオンが地球で影響を及ぼしている範囲はインドネシアやベトナムなどの東南アジアで、スポンサーに名乗りを上げた企業はイギリスの企業だ。
一応調べさせてみたがジオンとの繋がりもない……というのもあるが提供された品物が全部本物であると確認が取れた段階でジオンの工作ではないことは判明した。
名目的には連邦からティターンズに変わった際に冷遇され、新たな販路拡大の1種だとは聞いているのだが、さすがに現段階で私達に投資するのは分が悪いだと思う。どこかのナンブさんじゃないんだから裏を探ってしまうのは普通だろ。
おかげで新技術の一部を使ってモビルスーツの反応速度がよくなったり、月産数が増えたりとかなり助かっている。
何より応援してくれているというのはそれだけでアクシズ全体の士気が上がる。
アナハイムも応援してくれているが、あまりにも利権が絡みすぎてて好意が欠片も感じられない。
スポンサーとなった企業ももちろん甘い蜜に寄ってきているに過ぎないのはわかるが、やはり心象が違う。
「それにしてもサイド5がニューギニア特別地区と同じ国だったとは思わなかった」
ニューギニア特別地区という存在はイマイチわからない。
どうやら一年戦争……ではなく、独立戦争でジオンを後ろ盾に連邦にも認められた中立地区……らしいが実態はそうではなく、傭兵が戦功を上げ続けてジオン、連邦両国から自治権を勝ち取ったというのはわかっている。
そしてその傭兵はブルーディスティニーを連邦から奪って100%以上使いこなし、原作でも強かった機体が更に手がつけられないものになったようだ。
恐らく転生者、もしくは転生者達が動いたのではないかと予想している。
アルから聞いた話によると1機で師団を全滅できるらしいがさすがに誇張だろう。恐らくモビルスーツの機種を統一して敵を撹乱させたのではないかと思っている。
何より1機じゃ補給もメンテナンスも無しに師団を全滅なんてさせるのは物理的に不可能だ。
それを証拠に原作通りのブルーディスティニーではないけど連邦はEXAMシステムを量産していたという情報もある。
そもそもEXAMシステムはシステムというだけあって複製が可能なはず、それなら単機で交代して戦えば師団もどうにかできるはずだ。
そして両国の軍を撃破しつつも捕虜を捕って恩を売り、統治権を手に入れることができた。
経緯はこれであっているはずだ。
しかし、ジオンにしても連邦にしてもティターンズにしてニューギニア特別地区に対して対等な関係であるというスタンスでいるのが不自然だ。
いくら戦功が認められたからと言っても戦争が終わった今となってはその存在が疎ましいはずなのだが未だに関係性は変わっていないように見える。
そういう意味ではエゥーゴがニューギニア特別地区へ奇襲を仕掛けたのも納得できる。目障りな存在を消したいという思いがあるはず……しかし戦力を分散させたのは悪手としか言えないが。
「統治権を持っているのは間違いない。だが内情が全く手に入らないのはなぜだ」
まさか外部に漏らさないほどの諜報機関がある……わけないか。
もし二次創作のお約束通りチートを持つ転生者がいたとしてもそんなに人数がいるはずがない。
「それにしてもアプサラスの大量生産なんてジオンは思い切ったことしてるな」
この時、私はアプサラスの所属を勝手にジオンだと思ってしまった。
書類にはきっちりと『ニューギニア特別地区:ブルーパプワ』と書かれていたにも関わらず……先入観というのは恐ろしい。
これが私の人生で最大の失敗であったかもしれない。
そしてエゥーゴの勢力と合流していたにも関わらずシャア達から聞き取り調査していなかったことは一生の汚点……でもないか、もし聞いていても……
いやー、まさかアクシズから取引を持ちかけられるとは思わなかった。
しかも代表はグレミー・トトだと、確かにザビ家の血筋って設定があったなー。
うーん、転生者かどうか判断がつかないな。
原作の流れ的にこういう展開があっても不思議ではない。でも、原作のグレミーにアクシズの民衆を扇動してジオンに喧嘩を売るようなことができるかと言われれば微妙だとしか言えない。
原作のグレミーの反乱はあくまで十分な戦力を有した上での奇襲だったから効果はあった。でもこの世界のアクシズにそれほどの戦力があるとはとても思えないんだが……
「でもエゥーゴが合流してるんだよなぁ」
「となるとアナハイムも支援していると見るのが自然ですね」
まぁグレミーが転生者であろうがなかろうが大勢にそれほど差はないはず……だよな。
「それでダルマさん、話ってのは何かな?」
「……アクシズの代表がグレミー・トトというのは間違いないのか」
「間違いありませんね。通信で話もしたようですし……画質は酷いですが録画してますから見ますか?」
「是非!」
と言うわけで10分ほど上映会、何が悲しゅうて男が延々と話している動画なんて見ないといけないのかと心でぼやきながら見終わらす。
「ちなみに心で言ってませんからね。普通に言葉に出てますから」
おっと、どうも俺の素直さが出てしまったようだ。あー、うっか凛うっか凛。
「それで、なんでグレミー・トトを確認したんだ?」
「……実はトト家には私の隠し子を預けておったのだ」
「ふーん」
「あれ?なんか反応薄くないかの」
いや、だってザビ家の血筋ってこと知ってたから可能性の1つとして考えてたし。
ああ、だから——
「後ろにいるマレーネが超不機嫌なわけね」
「……」
どうやら図星らしい。
「兄弟が増えること自体は問題ないらしいが、どうも隠していたことに怒っているらしくての」
「そんなどうでもいいことは置いといて、話はそれだけか?」
「どうでもよくありま——」
「はいはい、マレーネさんは落ち着いて落ち着いて」
マレーネの対処はとりあえずマリオンちゃんに任せ、話を進める。
「できればでいいんじゃがグレミーを殺さないように動いてもらえんか?」
まぁグレミーの動画を見ている時から薄々わかってたけどな。
ガルマを可愛がってたんだからグレミーも可愛いだろうよ。
「それ、ギレンに話をつけてのことか?」
「……いいや」
だよな。
ギレンからすると血筋は同じでも情なんてないだろうし……原作ではデギンすら殺したんだからほぼ赤の他人の兄弟なんて殺すのに抵抗はほとんどないはずだ。
ハァ、面倒なことを……