第二百七十ニ話
デギンの願いはとりあえず眉なしを説得してからにしろ、と逃げ——保留することとなった。
今は隠していてもアクシズの、グレミーの狙いがジオンである限り大義名分にデギンが父親であることを大々的に掲げるのは間違いない。
それならさっさと眉なしに白状して善後策を練る方が建設的だ。
もしかするとシャアがダイクンを名乗って、ザビ家&ダイクン家の夢のタッグ再び!とかちょっと胸熱……なんだけど、片方がグレミーってのがなぁ。
これがガルマなら、おおっ!ってなるんだけどなー……もう死んじゃってるから仕方ないんだけどな。
そういやネットの一部じゃ俺達がガルマを暗殺したとかいう噂があったようだが、デギンがここにいるんだからデマってことで既にネットの海の底だ。
しかし、眉なし……胃が痛いだろうなぁ。
アクシズ自体は武力蜂起したと言ってもたかが知れていて問題ないと思ってたんだろうけど、そこに自分の兄弟が絡むとは予想外だろ。
しかも更に父親から弟とはいえ、反逆者を助けろなんて……うん、キレてもいいかも。
「ギレンさんの頭髪が心配です」
「とりあえず1回会談してヒールでも掛けるか」
首脳同士が会談すると握手するのがマナーだからヒールするには会談するだけでいいから楽だよな。
……特別地区の首脳は厳密には俺やマリオンちゃんじゃないけど、その辺は暗黙の了解だ。
「そういえばノイエジールIIのデータが手に入ったんだっけ、解析はどうなってる?」
「……あれ?そんな書類なかったような?そろそろ報告があっても良いはずなんですけど…………マリオンズ経由でマレーネさんとマハラジャさんに問い合わせましたけど、報告書は上がってきてないようです」
「おいおい、どうなってる」
「ギニアスさんに確認をしましたが……ハァ」
「どうした?」
「その……ギニアスさんがアプサラス以外のモビルアーマーを手掛けるつもりはない!と駄々をこねているようです」
……あれ?前にノイエジールのデータ収集とかしてたじゃん。それにグラブロとかアッザムなんかも解析してただろ。
なんで今さら?
「言い分的にはライバルとなる機体は触りたくないそうです」
もしかしてノイエジールに乗り換えられるかもしれないと危惧してるのか?
アプサラスも大概だが、ノイエジールのデザインは宇宙でならともかく、大気圏内では使い勝手が悪いから問題ないはず……まぁそういう問題じゃないんだろうが。
「……それを解析してアプサラスを昇華させようって気概はないのか」
「まぁ、既にアプサラスIV、VIが最高傑作と言っても良い出来ですから、必要に迫られない限り触れようと思わないのでしょう」
「……じゃあナタリーに送っといて、優先順位は2番目でいいや」
「わかりました」
ナタリー経由でノイエジールIIのデータとわからないように解析結果だけをギニアスに回せば問題無いだろ。
ノイエジールIIは目新しい技術は少なそうだが……しかし小型化に成功しているんだから取り入れる部分はあるはずだ。
アプサラスの小型化なんてあまりメリットはないが、中身が小型化できたなら更に火力を増やしたりハロを搭載したり完成してまだ日の目をみないアプサラスVが更にモビルスーツを搭載できたりするかもしれない。
場合によっては可変ではない単独飛行可能なモビルスーツの実現もある……が正直単独飛行と言っても人型で空を飛べても空気抵抗が邪魔をして速度が出ないから使い道ないだろうなぁ……強いて言えばロマンか?
「ああ、ひょっとすると難航している空中空母のブレイクスルーになるかもな」
「やはりガルダ級を超えるサイズとなるとなかなか難しいですね」
ティターンズと共同で開発している空中空母はなかなか難航している。
最初は効率よく可変モビルスーツの出撃、帰還可能で補給能力が高ければいいと思っていたがIフィールドを搭載しようと何処かのバカが言い始めたことで雲行きが怪しくなって、今に至っている。
Iフィールドなんてものは共同開発を終わってから個々に創意工夫する部分だろ。共同開発でする必要性はないっての。
まぁ結果的に副次効果だが搭載するためにIフィールドの共同開発もしたおかげで出力が上昇したからいいんだけど。
空中空母は大型、中型、小型と用途に分けたものを開発しているんだが小型にまでIフィールドを載せようってのはさすがに欲張り過ぎだと思う。開発者達、調子に乗り過ぎ。
「宇宙専用モビルスーツの開発は年始めには終わる予定なんですけどねぇ」
まぁβIIを宇宙に適した改造を加えるだけだしな。
むしろマイナーチェンジにしては時間がかかった方だ。
「ところで宇宙専用のアプサラスは考えなくていいんですか?」
まだ敵なしだしいいだろ。
<アルフレッド・イズルハ>
なんで俺が……僕がこんな目に合わなくちゃいけないんだ。
最初の頃は宇宙世紀だ!ガンダムだ!原作キャラだ!浪川さんだ!と喜んでたけどよく考えたら僕はアルフレッド・イズルハ、ガンダムシリーズの中で唯一純粋に非戦闘員の主人公で、しかもポケットの中の戦争の時にはまだ小学生。
戦争参加するには最低でも中学生にはなっていないと難しい。
ならポケ戦の原作に介入だ!と思っていたんだけど、どうも戦況がおかしかった。
ホワイトベース隊が地球に降りたという話を聞いて連邦の反撃が始まると思ったらそんなことはなかった。
一応は地球のほとんどを連邦が取り返したが、原作と違って微妙にジオンが残っている状態で宇宙で決戦……しかもなぜかソロモンで。
その時に気づいたんだ。僕が主人公じゃない——
「アル!!メシはまだなのか!」
「もう少しです!」
くそ、このクソ親め!そのうち殺してやるからな!
親は僕のことを小さい頃から薄気味悪いと言って、よく暴力を振るわれた。
多分大人の精神で子供に転生したから親からすると不気味なものに見えたんだと思うが子供に暴力を振るうのはどんなに言い訳をしてもいいことではない。
何度が警察に訴えたけど助けてくれなかった。
連邦が敗北してからサイド7は酷い場所になった。
サイド7はほとんど戦火に巻き込まれず、平和だったことが災いして戦後は政治家達の不正の温床となった。
高い税はもちろんのこと重労働な仕事ばかりを押し付けられ、休みもなく、子供すらも影で使い倒した。
実際小学生である僕も働かざるを得ず、給料は雀の涙で、その涙は親に吸われてタダ働き……食事だけは料理を作る際につまみ食いしていたおかげでなんとか凌げた……それがなかったら多分骨と皮と水と空気で膨らんだ腹だけになってただろう。
ロシア解放なんたらとかいうのが起こるとなぜか犯罪者がサイド7に集められて、治安は最悪。
なんとか偉い人に媚を売って情報収集だけは行えたんだけど——
「この糞アル!いつまでかかってんだ!」
「はいぃ!今できました!」
早く逃げないと殺されそうだ。
確か成人すると更に税が高くなる……家を出ればなんとかなると信じよう。
原作知識を使って助けてくれそうなバーニィの行方を調べるとサイド3で研究者をしているということが分かった。
そこで気づいたんだ。
バーニィも転生者なんじゃ?って、だから連絡してみたら案の定で、助けを求めたんだけど……すげなく断られた。
その代わりグレミーを紹介され——
「グズグズすんじゃねぇよ!」
視界が暗くなって顔面に痛みが走る。
殴ったね?!親にも殴られてばかりなのに?!