第二百七十四話
…………なんか最近不愉快な視線が多い。
矛盾するようだが、別に数自体は多くない。なぜなら幹部達だけだから周りにいる人数からすると少ないが俺に向けている視線自体は多い。
しかもその視線には俺に対して哀れみがこもっているんだからイライラする。
どうやら『脳が積んである=何かの実験体=あ、お察し』という感じで悲劇のヒーローか何かになっているらしい。
いや、違うから、対応がすごく面倒だから適当に流しただけだから。
そんな目で俺を見るなあぁ!
「私と含めて考えると、人体改造の被害者にしか見えませんよね」
マリオンちゃんは超能力者、俺は義肢……義体?の実験体……当時の連邦がやってないかと言われれば否定しづらいな。
もちろん理解されて面倒じゃなくていいんだけど、すごく視線が鬱陶しいです。
特にアイナだな。
どうも俺達が人間を軽く扱うのは人間嫌い、復讐のため、とかわけわからん誤解をしているようだ。
いやいや、復讐なんて面倒なこと、マリオンちゃんズが殺られないか、それを名目にして戦争という遊ぶ時ぐらいしかしないって。
マリオンちゃんズが殺られる可能性なんて本当になかなかないだろうし……まぁ補給が絶たれたらキツイかもだが、その場合アプサラスなりモビルスーツなりは捨てて生身で帰ってこれるからそんな機会はなかなかないはず……まぁそうなった時は……その国は滅ぶだろうな。
「人の噂も七十五日といいますから時が解決してくれますよ」
それまでこの鬱陶しい視線を耐えろというのか……まぁこっちは耐えればいいだけだからまだなんとかなるか。
しかし義体の研究をしようなどという案が上がってきているのは問題だ。
そりゃ、もし実現するならヒールの回数が減るかもしれないが……脳を移植?普通に考えれば不可能だ。
アレって空想上では割りと簡単だけど、リアルでいうと神経とか血管とかどうするんだって話だ。
まぁチャレンジするのも無駄じゃないか?正直ダメになった臓器を交換していく方が簡単だと思うけど。
ああ、アナハイムがサイボーグ作ってたっけ?アレのデータがあれば手助けになるかもな。
「でもSDモビルスーツが大量に歩いてる光景はあまり見たくない気がします。やっぱりブルーニーさんだけでいいです」
「いや、普通の人間に使うんだったら多分もっと人間っぽいものになると思うぞ」
さすがに一般人の義体をモビルスーツにする必要はないだろ。
まぁ……動くマネキンが大量生産されるかもしれないけど。
「それはそれで嫌ですよ。そんなのが街に徘徊してたら昔のB級ホラーじゃないですか」
いやいや、毒舌で有名ななんとかデラックスのロボットみたいなもんだろ。問題は……あ、結構嫌かも。
あんなキショいのがウロウロしてるとか、ないわー。と言うかそれ以外の人間から苦情殺到だな。
それならいっそロボットっぽい見かけの方がまだ受け入れやすそう……ロボ○ップとか。
「そのネタは知らない人が結構いると思われます」
おっと、俺の年齢がバレかねない発言だったか。
「でもそういう心配するのもまだまだ先の話ですね」
「まぁ、将来は何が起こるかわからんからな」
この世界に迷い込んだ存在が少なくとも5人以上いる。
もしかしたらこの世界から別の世界に……なんていう展開も無くはない。
……マリオンちゃんと別れることにならなければいいんだが。
ついでにセラーナもちょっとだけ、な。
「む、ブルーニーさん。今セラーナちゃんのこと考えましたね?!」
おっと、相変わらず女の勘+ニュータイプの勘=サトリですな。
<眉なし>
ああ、胃が痛い。
あの糞親父——ンンッ——先代にも困ったものだ。
よりにもよって反乱首謀者が弟などと……そうでなくても先代がしつこく頼んできたキシリアの助命をしたのに……ああ、頭が痛い。
その上にノイエジールIIまで強奪され、親衛隊の4割が撃墜されてしまったことも考えれば、キシリアほども情がない弟の助命などできるはずがない。
「セシリア……親衛隊と追撃に出た部隊の再編、ノイエジールIIの再生産はどうだ」
「予算がありません」
……答えに余裕が無い。
これは本当に無いのだろうな。
いや、私も計算してみたが明らかに予算が足りないのはわかっていた。
しかしセシリアなら、セシリアならなんとか——
「なりません」
「……無理か」
「無理です。臨時予算を組むにしても財源がありません。国債を刷ればいいのでしょうが国内で回すには難しいかと、そして海外に広げると真っ先に上がるのは——」
「アナハイムか」
まだ可能性の段階だが今回の騒動の裏にはアナハイムがいるかもしれない。
なぜなら全てがアナハイムに得するようになっているからだ。
しかし証拠がない以上裁けない……いや、証拠があがっても裁けないだろう。それだけの力の差がある。不本意ではあるが。
だからといって何もせずに再びアナハイムの侵蝕されるわけにはいかん。
「……あまり気が進みませんが地球領を頼りますか?」
ジオン地球領か……あそこはジオンとは名ばかりのニューギニア特別地区の、死神の属国に等しい存在で、私達よりニューギニア特別地区の影響が大きい。
関係こそ悪くはない、むしろ良いのだが問題は関係が対等であることだ。
これが本来の意味で領土なら簡単だったのだが、対等となると話は難しくなる。
交渉を重ねる必要も出てくる。そうすると時間が掛かる。しかも反乱が起きたという情勢不安は国債購入に大きなマイナス要因となってしまう。つまりは足元を見られるということだ。
「頭が痛い」
(心なしか毛髪が後退しているよう——)
「セシリア君、何か言ったかね?」
「いえ、何も!」
気のせいか、とても失礼なことを言っていたような気がしたが。
それに元々地球領はそれほど余裕はないはずだ。
ほぼ独立国となっているジオン地球領は全てを自領で補わなければならない。
いくらニューギニア特別地区と組んでいても常にティターンズを意識した軍事力を維持するのは容易なことではない。
まぁ、いざとなれば死神達を頼ればいいような気もするが……彼らは高いからな。
「では、ニューギニア特別地区に頼むというのはどうでしょうか」
「ふむ」
確かに彼らは元傭兵というだけあって良くも悪くも中立に近いから頼みやすいが——
「困った時に頼りすぎて貸しが大き過ぎないか」
「……」
沈黙は肯定だな。
セシリアも自覚はあったか。
死神達には対価を払ってはいる。払ってはいるが、効果と比べると安すぎる。
しかし、相応の対価を払うと破綻してしまうから借りということにしている。これが政治家なら少ない対価で結果が出たのだから喜ぶのかもしれないが……それは相手が普通の存在ならば、だ。
相手は普通ではない場合、相手がどう思おうが対価が見合っていない場合は借りだと認識すべきで理想は貸しを作ることだ。
……貸しなんて作れた試しはないがな。
「ちなみにニューギニア特別地区の予測収入は私達より多いという——」
「よし、ニューギニア特別地区に連絡をしろ。——いや、私が直接する」
……先代の不始末を片付けるために先代がいる国に資金を借りることになるとは……皮肉な。