第二百七十五話
<グレミー・トト>
昨日、私がデギン・ザビの隠し子であることとシャア・アズナブルことクワトロ・バジーナが大々的にダイクンの遺児、キャスバル・レム・ダイクンであることを全世界に宣言した。
それによる反響は凄かった。
今までも根回しに使っていたから効果があることはわかっていた。
ジオン・ズム・ダイクンが死んだ当時はザビ家による暗殺なのではないかという疑いはダイクン派でなくてもあった。
そんな疑惑が現在でも残っている中でダイクンの遺児とザビ家の隠し子の共同声明は世界中にインパクトを与えた。
宣言の際に科学的証拠も同時に示したため、信憑性は高いと判断されたのか次々と協力やスポンサーの申し出が殺到している。
それに対してギレンは私のことをデギン・ザビの隠し子ということを公式に認め、その上で討伐すると宣戦布告。
アニメやマンガだと盛り上がってきたところだ。しかし実は今、私は心臓がバックバックしている。
「ハハ……結局覚悟が足りなかったってことだな」
まだジオンと衝突するまでは1年はある。
逆に言えば1年しかない。
そしてその1年を使いきれば——俺や周りの人達は命のチップにして分の悪い博打をすることになる。
ここまでくれば引けないのはもちろんわかっているが、不安なのは仕方ないだろ。
私の周りに頼れる人間があまりにも少ない。
唯一救いは協力してくれる人間は多く、その中にエゥーゴがいることだ。
きっとキャスバル兄さんが助けてくれる!……自分で言っておいて寒気ががががが。
「ハァ、結局ノイエジールIIはキャスバル……なんか違和感あるからクワトロでいいか……とララァが乗ることになったし……先行きが不安だ」
一応目ぼしいパイロットに操縦させてみたが、結局クワトロとララァ以上の逸材は存在しなかった。
唯一原作キャラらしくマシュマーとキャラ・スーンが健闘したがやはり歴戦の戦士には敵わなかった。
予想通りではあるが……国力差、人材の層の薄さ、組織としての完成度、どれをとってもジオンどころかエゥーゴにも勝てていない……あ、国力だけは勝ってるか。
どうも順調過ぎることと順調なのに不安要素が減らないことと戦争までのカウントダウンで後ろ向きな考えになってしまっているようだ。
「資金も兵器(サイボーグクローン兵を含む)も順調に整っているが……やはり指揮官が足りないな。それにサイコフレームは間に合わせ程度にしかならないようだし……色々な可能性を秘めているはずなんだが今回は間に合いそうにないな」
今回間に合わなかったら次回があるのかという疑問もあるが、そこはあえてスルー。
解決するには開発者、研究者、時間が必要だが、今の私達はそこまで余裕が有るわけではない。
サイコフレームがララァに強く反応したことで開発は前進したが、その前進は実戦投入にギリギリできるという程度でしかない。
量産することも不可、応用するのも不可、そも使える人間がいない。
……ハァ、何かで書いてたけど兵器とは万人が使えてこそ優秀な兵器と言える、ってあったけど本当だな。
高い、使用制限、未知数……うん、駄作もいいところだ。
ニュータイプ以外でもたまに反応するあたり、ニュータイプ専用の武装ではないのかもしれないが反応は微弱で使うに値しない。
「……ああ、そういえばクワトロがノイエジールIIを赤くして角を付けろとか言ってたっけ……その程度なら問題ないから許可を出したが……なんであんなにネタ臭が漂う存在になってるんだ?」
いつもは原作通りクールにしているのに、何か条件があるのかは知らないが突然ガンダムさんのシャアっぽくなることがある。
まさかこの世界、ガンダムさんとのクロスなんてことはないよな。
とうとうダイクン家が表に出てきたな。
全世界へ発信されたこの宣言は思った以上の影響があった。
その1つとして……ニューギニア特別地区内で裏切り者が現れ始めたのだ。
「全く、次から次へと湧くな」
「私達に敵対するとどうなるか魅せてあげましょう」
特別地区内の裏切り者や離反者共を処分するのはもちろんマリオンちゃんズ。
別に心で思うだけだったら狩ることはないし、ジオンの情報を流す、自分の財産から援助するのは止めたりしない。金が海外に流れるのはあまり嬉しくはないが、それは自由意志ということで目を瞑る。
しかし、正真正銘の裏切り者はブルーパプワの金で援助しようとしたり、機密である情報を流そうとしたり、契約を違反(機密レベルによって地域外に出れないなど)しようとしたりなどは厳しく罰する。
ちなみに機密を流そうとした奴は内容にもよるが最悪は三親等皆死刑だ。いやー、俺達的にはかなり優しいぞ。よく死ぬより酷い目に遭うって言うけど、それを現実のものにできるんだからな。
「だからマハラジャ、迂闊なことをするなよ。技術を流したいならそれ相応の対価を貰ってからにしておけ」
「っ?!」
さすがにカーン一家を皆殺しなんてしたくない。
手駒として優秀だし、政策部のトップが連座とか勘弁。
「マリオンちゃんズの目を掻い潜ることはできてもマリオンちゃんズの感覚は掻い潜ることはできないぞ」
「……承知しております」
本当かねぇ?
サイコミュのデータを持ち出したのは知ってんだぞ?
まだ情報を外に出してないから忠告してるが……流そうと行動を始めた瞬間にはマリオンズに取り押さえられるぞ。
それにしても……我ながらやってることが中世っぽいな。独裁主義だからできることだが、クーデターとか気をつけ——る必要性を感じなーい。
「後、ダイクン派の諜報部に情報の横流しはいいがバレないようにしろって釘を刺しとけ。ギレンから苦情が来てるから依頼が来たら狩るぞ」
「承知しました」
おかげでギレンに利益が薄い国債を押し付けられたんだからな。マジで注意しろよ。
そういえば特別地区の国債は国内企業で回されているんだが、なぜ他の国から干渉がないのか疑問に思っていたが最近になって判明した。
どうやらどこかの国が手を出せば他の国も手を出さざるを得なくなり、凄く面倒なことになるから不可侵状態なんだそうだ。
それ以外にも、そもそも国債程度で俺達に影響できるかという疑問もあるそうだが。
まぁ国外に出す国債なんて一気に売られてもブルーパプワでどうとでもなる程度のものでしかないから魅力的ではないだろうな。
それはさておき、ダイクン派の対処は面倒だがマリオンちゃんズという存在がいるおかげで特別地区は特に混乱がないがジオンはそうはいかない。
ノイエジールII強奪の時もそうだったが、今は軍需物資の横流しなどが頻繁に行われていて軍部が疑心暗鬼中なんだとか。
そして規模が小さいながらもティターンズ、ロシア、日本など各国も同じような状態でダイクンという名の存在感をありありと見せつけている。
そういえば諜報部にマークさせていたナナイ・ミゲルが行方知れずになった。
ティターンズのニュータイプ研究所で働いていたはずなんだがいつの間にかいなくなっていたそうな……まぁ諜報部はまだ規模が小さいから目が行き届かないことがあっても仕方ないか、マリオンちゃんに確認したところスパイがいるわけでもないそうだし。
そしてニュータイプ研究所からほぼ完成品である強化人間ギュネイ・ガスとその他モブ強化人間10名も同じように行方を暗ましている。
原作を知っている身としてはアクシズと合流するんだろうけど……もしかしなくても眉なしがピンチなんじゃね?
いくら国力差があるとはいってもアクシズは背水の陣で戦いを挑むからいつぞやのロシアと同じように後のことを考えずに戦うことができる。
その点、ジオンは敵はあくまで反乱軍でしかないため全力で対処するわけにはいかない。
そうなると導入できる戦力はそれほど差がない可能性はある。継戦力は段違いだがな。
後は兵器の差だが……ジオンは部隊の再編に苦労しているようだし、アクシズは支援金が次々届いている。
もしこれがアクシズの計算の内だとするとかなりやばい。
「でも、ギレンさんは負けませんよね」
「ああ、なにせ俺達が」
「味方なんですから」
そういった瞬間、マハラジャがコレ以上にないぐらい複雑な表情を浮かべていた。